第8話 なんか美味しそう

 依頼当日、俺たちはおっさんから二通の封筒を渡された。これをある貴族の夫妻にそれぞれ直接手渡して欲しいらしい。

 どこかに名前が書いていないかと見ていたら、裏の方に名前が書いてあった。一方の封筒の裏にはハル・シェルメッシュという男性のような名前、もう一方の封筒の裏にはアナン・シェルメッシュという女性のような名前が書かれていた。

 とりあえず、男性の方はフシミに任せた。俺は冗談の通じなさそうな男の相手は苦手だからな。その他の理由?そんなものは無い。


 おっさんに教えられた住所の場所に行ったはいいが、そこは国の外でした。なるほど、貴族が住んでるとこって国の外だったんだな。

 それはさておき、お目当ての家は国を出てから10分ほど歩いた場所にあった。だがそこは、家というより屋敷だった。あのおっさん、適当なこと教えてくれやがって。どこが家だよ。

 というか、庭が広すぎて屋敷が小さく見えるんだが?どこまでが庭だよ。


 さて、俺たちはスキルを使ってこの貴族の屋敷まで来たのだが、すでに警戒態勢に入っていた。どんな連絡をしたのかわからないが、これはやりすぎだろうというくらいだった。

 スキルを解いて、ちょうどそこにあった木に隠れて観察してみたのだが、ちょっと多すぎないか?と思うほど凄かった。


 塀には隙間がないほどの武装した人間の数。門の前には黒服の門番が4人。庭の中には誰もいないが、きっと結界や魔道具がたくさん仕掛けてあるのだろう。

 だが、入ってしまえばこっちのもんだ。


「レイヤ」

「ああ、行くぞ」


 俺たちは意を決して、それぞれスキルを使用して侵入を開始した。


 このスキル『背景同化』は、相手に気付かれなくなるだけでなく、気配も消えるし魔道具には反応しなくなるし、魔法にも反応しなくなる。そのため、お互いのことも見えなくなる。

 だから、『スキル巻き込み』を使用しながら『背景同化』を使用し、お互いが見えるようにしていたのだが、やはりそれぞれが別々にスキルを発動すると、お互い認識できなくなることがわかった。


 だから、渡した後の集合場所を決めるのを忘れてしまったことに気づいて、後悔したぜ。

 だが、後悔していても始まらない。


 ところで、どうやってフシミは入ったんだ?


 そんなことを思っていたら、男の声が聞こえた。


「おい!門が開いているぞ!閉めておけって言っただろ!!」

「すいません!!」


 見ると、門が開いているではないか。

 どうやらフシミが開けてくれたらしい。が、門番がそれに気づいて「おかしいな……」と言いながら閉めようとしているところだった。

 俺はフシミに感謝しながら、閉まる直前の門と門の隙間に入り込み、屋敷の敷地内に侵入することに成功した。


 〜10分後〜


 敷地内に入って10分ほど経ったが、なかなか屋敷にたどり着かない。


 途中でなんか美味しそうな果物を見つけたから手にとって食べようかと近づいてみたが、この時初めてスキルを使用してて良かったと思った。

 実は、食べようと思っていたその果物、口が付いてました。あと、なんか牙が生えてました。は?なんだこれ?

 遠くから見ると普通の果物なのに、近くで見ると化け物になるとか、どんな魔法がかかっているんだよ。


 今の経験でわかったことだが、この俺のスキルは自身に干渉する魔法には効果があるが、今のような見た目を騙す魔法とか、名前を変える魔法には効果がないことがわかった。

 以後気をつけるようにしよう。


 さて、庭に入ってから何分経っただろうか。もうフシミは中に入ったのだろうか。見つかっていないだろうか……と親友の心配ばかりしている俺だが、やることはやっている。

 例えば、近くに咲いている花を見ようとして近づいたが目が付いていることに気づいて退避したり、地面に雑草が生えているとおもったら茎の先に手が付いていたり、異世界にチューリップがあるのかと思って近づいたら本当に口が付いてたとか……この庭には気色の悪い植物しかいないのだろうか?


 そもそも、興味があったら近くとかそういう行動を、俺が止めればいいんだけどな。


 そういえば、屋敷で警備している人は休憩とかあるのだろうか。もしあれば、どうやって交代しているのだろうか。ちょっと観察してみよう。


 観察していると、屋敷の方向から誰かが歩いてくるのが見えた。よく見ると、門番と同じ格好をした黒服の男性が歩いてくる。

 ということは、やはり入り口は屋敷の扉しかないのだろう。

 だけど、この考えは捨てた。こんな庭にこんな植物を育てている人間は、まともな人間じゃないと思ったからだ。


 だから俺は、先ほどの男性と交代で戻ってきた門番の後をついていき、屋敷のどこから入るのか確かめることにしたのだった。

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