第7話 人はそれを、無茶振りと言うんじゃないか?

 卵頭のおっさんがギルマスだったという驚きの情報を、他の冒険者や受付嬢に教えてもらった俺たちは、早速依頼の貼ってある板の前に、おっさんから逃げるように行こうとしたが、ちょうどギルマスに肩を掴まれたためにその場所へ行けなかった。

 っていうか、ギルマスはもう諦めているのか、慣れてしまったのか、俺たちが「おっさん」と呼んでもため息をつくだけになってしまった。つまらん。

 しかし、肩を握る力は強い。もう痛いくらいに。スキルを使って行動すれば良かったと後悔したよ。


「お前たちにぴったりの依頼があるんだが」

「へえ、それが肩を握りつぶさんとする力と何か関係が?」


 答えは分かっているが、さりげない風を装って聞いてみる。だけど、俺たちの肩を掴んだまま、おっさんはにっこりと笑って言った。


「そりゃもちろん、お前たちに受けて欲しい依頼があってだな。こうしてないと、逃げるだろお前ら」


 バレてらっしゃる。

 フシミを見ると、苦笑して頷いていた。やはり逃げようと考えていたのは俺だけではなかったか。さすが親友。


「で、依頼って何ですか?」


 フシミは敬語でおっさんに訊ねる。フシミ、そんなおっさんに敬語なんて不要だと思うんだが?

 礼儀?俺の辞書にそんな言葉は載っていない。


 フシミの丁寧な質問に満足したのか、懐から二通の手紙を取り出した。


「この封筒を誰にも見つからず、相手に届けて欲しいんだ。時間は無制限で、何日かかってもいい。もちろん、見つかったら即終了だ。依頼じゃなくて、お前らの人生がな」


 今まで騒いでいた冒険者たちの声が、一瞬にして聞こえなくなった。

 そして、ひそひそと小さな声で話し始めた。


「おい、ギルマスがあのガキどもに、無理難題を吹っかけ始めたぞ」

「あの手紙の相手がいる場所は、何人もの警備に凄腕の使用人、魔法による侵入防止の結界と魔道具による罠があるのに……」

「あの小僧どもも災難だよな」

「失敗したら死刑になるかもしれないのに……」


 おい、物騒な言葉しか聞こえてこないんだが、これはどういうことだろうか。


 失敗したら死刑?

 何人もの警備?

 凄腕の使用人?

 魔法による侵入防止の結界?

 魔道具による罠?


 このおっさんギルマスは俺たちを殺す気だろうか?


「なあおっさん、俺たちをどうする気だ?」

「いや別に、殺したいほど怒ってなんかないぞ」


 語るに落ちる。目は口ほどに物を言う。目が泳ぎまくってるぞ。


「一回他の冒険者に例として見せてもらうか?」

『『無理っす!!』』

「というわけだ。警備と使用人に見つからず、結界にも気づかれず、魔道具に引っかからないように相手に届けてくれ。なに、死刑にならんようにお願いはするさ」


 人はそれを無茶振りというのだが、このおっさんはわかってやっているのだろうか?


「大丈夫だ。失敗しなければ死ぬようなことはない。ただ、相手に届ける前に死ぬかもしれんが」


 おっさんは封筒をひらひらと揺らしながら脅してくるが、俺たちはそんな脅しは通用しない。慣れてるし。


「どうする?フシミ」

「受けようよレイヤ。そろそろ肩の感覚がなくなってきたし、絶対に受けないとこの手は離してくれなさそうだし」


 即答しやがった。確かに肩が痛すぎて感覚がなくなりそうだが、もう少し考えてもいいんじゃないかと思うのだ。命に関わることだからな。下手すれば、俺たちは依頼を失敗して死ぬかもしれないのだから。


「わかりましたおっさ……ギルマス。俺たちはその依頼を受けてやる」

「とりあえずギルマスは、事前に相手に連絡しておいてね。びっくりすると思うから」

「確かに、それはあり得る」

「……?どういうことかわからんが、連絡しておこう。一応無茶振りしてるのはわかっているからな」


 このおっさん、やっぱり無茶振りをわかってやっていたな?

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