第5話 トッピングってのはこう言うことじゃない?

 おっさんの後について行くこと数分。俺たちは冒険者ギルドの地下に存在する、訓練場にいた。

 どうやら、ここで試験とやらをするのだろう。だけど、他の冒険者が数人くらいいるのに、ここで試験をしてもいいのだろうか?

 疑問に思っていると、おっさんが周りの冒険者に呼びかけるように言った。


「おいお前ら!今からこの坊主たちの試験をするから、横にどいてくれねえか!」


 このおっさんの声に、そこらへんで稽古だか練習だかやっていた冒険者が、横に移動していった。

 それを見て、俺は思った。


 あれ?なんかこのおっさん、もしかして冒険者ギルドの偉い人?

 さらに言うと、もしかしてさっきの意趣返しというか、報復を試験という名目でやるつもりなの?だから他の冒険者さんたちの顔が青いのかな?


「なあフシミ、もしかしてからかいすぎたか?」

「そうだねー、やりすぎたねー」


 やっぱりやりすぎたのが原因か。でも、一応聞いてみよう。


「後悔は?」

「していない」

「反省も?」

「していない」


 うん、やっぱり俺の親友だ。


 さて、おっさんについて行き、訓練場の真ん中までたどり着くと、おっさんは振り返らず俺たちに説明した。


「試験を始める前に、この訓練場について説明しておこう」


 この訓練場は、ギルドの職員に許可を取ってからでないと使用できないらしい。で、時々ギルド職員やギルドマスター(以下、ギルマス)が来た時は、ギルド職員もしくはギルマスの指示に従うことと、この場で誰かを殺すようなことはないように、と言われた。で、この訓練場の広さだが、おおよそ半径3キロメートルほど。つまり直径6キロメートル。明らかに城の真下を通ってます。と思っておっさんに聞いてみたところ、魔法で作られた空間の中に存在しているから、そんなことはない、と返された。魔法すげえ。


「では試験を始める」


 そう言って振り向いたおっさんの顔は、無表情だった。


 そこに感情など何もない。まるで、今にも爆発しそうな怒りを押さえ込んでいるかのような、噴火寸前の火山のような状態だった。


「貴様らには、これを使ってもらう」


 そう言って、何もない空間に出現した光に手を入れたおっさんは、そこから色のついた水が入ったバケツと柄杓ひしゃくを取り出した。一つは緑色の水、もう一つは赤色の水だ。


「これは主に目潰しに使われる液体で、水で洗えば流せるものだ。試験や訓練では、相手のどこに攻撃が当たったかを確認するために使用している。ちなみに、人間には害はないから目に入っても問題ない」


 よし、やることは決まった。


「やるぞフシミ」

「うん、察したよレイヤ」

「何を考えているのか知らんが、合格したら待合室に行ってもいいぞ」

「「合格したら待合室に集合だ」」


 試験の順番は、フシミが一番目で俺が二番目に決まった。

 さて、フシミの戦い方を見せてもらおう。


 そう思って、おっさんと向かい合う親友に注目していた。


「それでは、始め!」


 おっさんの声と同時に、親友はその場から消えた。

 確かにその場にいたのに、親友がいた場所には何もなく、向かいの訓練場の壁や、こちらを観戦している冒険者が見える。というか冒険者の驚愕の表情まで見える。


「な……ど、どうなってやがる……?」


 おっさんも驚いているようで、一歩踏み出そうとした体勢で止まっている。よくその図体で、片足上げたまま止まってられるな。筋肉どうなってんだ。


 しかし、驚いていたのも一瞬で、おっさんは体勢を立て直すと周囲を警戒し始めた。

 が、次の瞬間、おっさんの頭が緑色の液体に襲われた。

 何を言っているのかわからないって?見たまんま、おっさんの卵のようにツルツルな頭が、緑色の液体でトッピングされたんだ。まるでツルツルなグリーンピースみたいだ。


「おい小僧。今思ったことをそのまま口に出して言ってみろ」


 おっさんが俺に何か言っているが、そのまま口に出して言うと絶対に怒られるから、怒られないようにオブラートに包んで言おう。


「いい感じにトッピングされましたね」

「よし、今の小僧は合格として、次は貴様の番だ。今すぐぶっ飛ばしてやる。もちろん手加減なしで」


 逆に怒らせてしまった。何がいけなかったのだろうか……?

 う〜ん……考えてもわからんな。

 まあきっと大したことじゃないんだろう。

 そう思って、俺はおっさんの試験を受けるのだった。


 結果が聞きたいって?

 そりゃもちろん。『背景同化』使って、俺がトマト風にトッピングしてやった。

 めっちゃ怒鳴ってたから、『背景同化』を使用して退散しました。いや別に逃げたわけじゃないんだぜ?怒ったおっさんから逃走しただけだ。

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