第2話

面白いもので、今までと変わらず生活しているはずなのに何故か彼の姿が目につくようになった。


毎日、移動教室や手洗いの度に気がつくと彼を探していて、見つけるとなぜか達成感があった。



昼食前、手を洗いに教室を出たところで彼が僕の前を通りすぎた。


後ろのシャツがちょっと出てる...教えてあげたい...話し掛けてみようか?でも、どう思われるかな?怪しいやつ?無遠慮で失礼な奴?


などど葛藤している間に、彼は自分の教室へ入っていってしまった。


僕はまだ、彼のことを誰にも話していなかった。








「四ツ橋帰ろ」


「や、俺図書室寄ってくから先帰ってて」


放課後、課題に必要な資料を探そうと図書室へ寄った。


静かな場所に来ると、落ち着くと同時にそれを自分が壊してしまわないか不安になる。


僕は飄々としてあまり物事に動じないタイプだと人からは言われるのだが、自分では存外臆病で内気な人間だと思っていた。


本棚に向かって遠慮がちに机を横切る途中で、視界の端に気配...というよりは空気の固まりのようなものを感じる。


彼だった。


彼は長机の隅に座っていた。新しい入室者に全く気が付いていない様子で、本を読み続けている。


僕は誘惑に耐えきれずそっと彼に近づいた。


本のタイトルが―ぎりぎり見えない。


(なに、読んでるんだろう...)


気になる。


でもこれ以上近付くのは見知らぬ人間には、許されない。自分と彼の距離を再確認した、僕は彼に認識されていない.....。


そう思ったら堪らなかった。そして気がついたら、


「何読んでるの?」


彼の背中に話しかけていた。




彼は始め、余りに集中していたせいで僕の声に気が付いていないようだった。


それでも黙って彼を見ていた。


発言から15秒ほど経って、耳から入ってきた情報が脳に届いたらしく彼のふわふわした髪が少し揺れた、そして固まった。


40秒後、ぎぎぎと音が聞こえるような不自然さでこちらを振り返った。


僕を見て(多分。目はやはり隠れていた)そしてまた固まった。そこで完全に停止した。


答はなかった。


僕は彼に見られているという高揚感に包まれてしまい完全に浮かれきって更に重ねた。


「それ。今君が読んでる本さ。面白い?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

四ツ橋くんと彼 @kimiyummy

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ