四ツ橋くんと彼

@kimiyummy

第1話

昔から、人の好きにならないようなものが好きだった。


それは刺身についてくる赤っぽい妙に縮れた海藻であったり、あるいは作品に出てくる名前もつかないような登場人物であったりした。


人の記憶にすら残らないような無数のもののうちのいくつかに興味を引かれて仕方がなく、逆にキラキラしたわかりやすく魅力を主張するものは嫌っていたと思う。


その点では賢明な子供であった僕は、それが他人の共感を得られるセンスでないことを知っていた。


だから17年生きてきて未だ、本当に好きなものを人に見せたことがない、話したことがない。





高校二年の春、新しいクラスにある程度馴染んで親しい友人が幾人かできた頃、その生徒に気がついた。


それは偶然であった。 


調子の悪い友人の代わりに委員会に出席し、席につくなり向かいの席の生徒が目についた。


分厚く眼鏡を覆うほどの前髪を垂らしている。果たしてあれでちゃんと前は見えるのだろうか?


その生徒はうつむいて、発言も歯切れ悪くボソボソと言い、言い終わるやいなや席に座りそのあとはまた終わるまでずっと俯いていた。


ただ外見から想像するより実際はずっと綺麗な声をしている、と思った。その印象だけがやけにはっきりと頭に残って消えない。 


会議中、友人の為にメモを取ることも忘れてずっとそのカーテンみたいな前髪を覗き見ていた。


(どんな目をしているんだろう...)


それが彼との出会い。

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