第384話 コタロウがシシトを殺す

 レーザーによる焼失:対象が絶命に至るまでの時間1分。消費MPおよびSP 大


 強アルカリ性の薬品による溶解:対象が絶命に至るまでの時間10分。消費MPおよびSP 極小


 溶岩による焼失:対象が絶命に至るまでの時間:5分。消費MPおよびSP 小


 刀剣による殺傷:対象が絶命に至るまでの時間10分 消費MPおよびSP 中


 銃器による殺傷:対象が絶命に至るまでの時間10分 消費MPおよびSP 中


 宇宙空間による窒息と凍結:対象が絶命に至るまでの時間15分 消費MPおよびSP 小


 超重力による圧殺:対象が絶命に至るまでの時間1分。消費MPおよびSP 大


………………



 思いつく限り、様々な殺害方法を山田小太郎は駕篭獅子斗に対して実行する。


 コタロウの目的はただ一つ。


 シシトの完全な死。


 だが、これが難題だった。


(問題は、三つ。駕篭獅子斗がレベルをカンストしていることと、ヤクマの薬による異常なまでの回復力。そして、内包している命の数だ)


 液体金属の嵐が吹き荒れる空間で、絶命したはずのシシトが雄叫びを上げる。


 コタロウの職業。『遊戯制作者』その技能『決められた見えない悪戯(サイコロトリック)』は、空間に新しい設定を作成する能力だ。


 その作成する設定と空間は、コタロウが生まれ育った空間から乖離するほどに、コタロウの負担が増えていく。


 例えば、地球のような重力や空気の空間を作っても、レベルがカンストしているコタロウはほとんど何も感じない程度の消費しかないが、ブラックホールのような超重力の空間を作れば、当然疲労する。


(すでに一つ。ブラックホールの空間は作って維持している状況……まぁ、ブラックホールといっても、結局は俺が認識しているブラックホールだから、ただの超重力が発生している空間なんだけど。時空間の乱れとか、超次元的な現象の再現までは当然、できない。勉強はしたけど、完全に理解して再現出来るような内容じゃなかったし。もしかしたら勝手に再現されているのかもしれないけど、三次元以上の高次元な現象なんて、観測出来るモノじゃない。次元が違う出来事は、基本的に干渉できない)


 次に、コタロウは太陽をイメージした空間を作り出し、そこにシシトを送る。


 超高温の星にシシトが焼かれていく。


(太陽でさえ、ただの炎の塊だからな。それが限界。これ以上は難しい。まぁ、実際に経験したこともないモノの再現は、限界がある。そして、その限界が、シシト殺害を困難なモノにしている)


 擬似的な太陽に焼かれたシシトの体が再生する。


 数千度は超える温度を再現しているはずなのだが、それでもシシトの体が完全に消滅することはない。


(カンストした者の強度。それは、人間の想像を遙かに超える。まぁ、俺が言うことじゃないけど。ただ、俺が空間をいくつも作れるように、シシトの肉体は、それこそが神がかり的な存在といってもいい。それが、さらにヤクマの薬で強化されている)


 再生したシシトの体が、また燃える。


 燃えて、また再生する。

 

 まるで不死鳥のように。


(……殺すまでに、一分は経過しているな。やっぱり、これもダメか)


 コタロウは、太陽のような空間を消す。


 地球のような、いわゆるコタロウにとって普通の空間に、黒炭になったシシトの体が転がっていた。


「簡単にはいかない、か。そりゃそうか。そんなに簡単に殺せるなら、シンジが死ぬこともない」


「おや? もう終わりですか?」


 天使の国アツキ。


 その女王の姿、女神のような姿のセラフィール。セラフィンが、コタロウの前に現れる。


 その瞬間、セラフィンが弾け飛んだ。


「あら、ヒドい。死んでしまいました」


 セラフィンの死体の横に、別のセラフィンが現れる。


「何のようだ? 羽虫」


「そんなつれないことを言わないで。あんなに愛し合った仲じゃないですか」


 コタロウにとって、まさしく恥の記憶。

 その記憶を消すように、コタロウは大きく息を吐いた。


「で、なんだ?」


「ふふ、いえ、特にあなたに用はありません。ただ、補充をしようと思いまして」


「補充?」


「ええ、本当の勇者、シシトへ、女神からの贈り物です」


 黒炭になったシシトの体が、内側から膨れていき、新しい皮膚が生まれてくる。


 何度も見た、シシトの復活の光景だ。


 しかし、コタロウはその復活を止めなかった。


 それよりも、そのシシトの隣に現れたモノに、吐き気を覚えたからだ。


「……こ、これは! ああ! 来てくれたんだ!!」


 一方、シシトは歓喜の声を上げている。


 シシトの隣に現れたモノ。


 それは、巨大な美少女。


 シシトがこの世で最も愛している少女の一人。

 百合野円にそっくりな少女……に似た、おぞましいモノ。


「……気持ち悪い」


 心底、心の底から、コタロウはつぶやく。



 遠目で、目を細くして詳細を確認しなければ、確かにシシトの隣に現れたものはマドカにそっくりではある。


 だが、近づいて見れば、よく確認すれば、その表皮に現れている、陰茎、陰毛、その他、様々な肉体を構成する物体が……男性の肉体の一部を見ることが出来た。


「ヤクマが作り出した化け物か。なんでこんなモノを作っているのかわからなかったが……」


 シシトは歓喜の涙を流しながら、男性の肉体で作られた巨大なマドカに抱きつく。


「ああ! ああああ! 愛している! 大好きだ! 百合野さん!!! 一緒に! 一緒に世界を救おう!!」


 叫び、泣き、シシトは巨大なマドカと一緒になっていく。


 いや、吸収している。


 愛している。


 男性の体で作られた少女を模した化け物を。


「見てください。これが愛! これぞ愛! 例え男性でもその肉体を取り込むシシトこそ、愛の化身!こういう考えは……LGBTというんでしたっけ? 性別に関係なく、誰でも愛することの出来るシシトこそ、世界を救う勇者にふさわしい!」


 半笑いで、セラフィンは語る。


 吹き出しそうになりながら、高らかに。


「性別に関係なくっていうか、ただ見た目の問題だろ。ガワさえ良ければ、何だって良い。愛って言うか、節操がないだけだろ」


「ええ、でも、だからこそシシトは取り込める。男性の肉体を。その命を、糧にすることができる」


 巨大なマドカの体がシシトの肉体に納められていく。


「あれだけで、おおよそ一万人の男性の肉体を使用しています。つまり、シシトの命が一万、増えました。さて、元勇者、コタロウ。貴方は、これまでにシシトを殺した数を覚えていますか?」


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