第383話 綺麗な子供が殺人鬼の親友

「ええ、正解です。さすがは明星司の息子。シシトの力は『三千兼愛』。シシトが愛したモノを体内に取り込み、その力を発揮する力。その取り込むモノに、数に、上限はありません」


 人型のセラフィンの説明に、セイとユリナの表情が暗くなる。


 シンジの予想は、完全に当たっていた。


「つまり、明星真司。アナタの『モノ』しか取り込むことができない中二病患者の技能『他己陶酔』の完全な上位互換ということです」


「上位互換、ねぇ。確かに、モノ以外に、生き物も取り込めるなら厄介だ」


 シンジの答えに、セラフィンの顔がゆがむ。


「ええ、愛の勇者であるシシトは、この世の全てを愛します。際限なく、この世の全てを愛し、己の力としていく。『人間』すらも……それは、素晴らしいことだと思いませんか?」


「この世の全てを愛するなんて、そんなことお前も思っていないだろ?」


「おや? そんなことありません」


 そのふざけた顔は、セラフィン自身がシンジの意見を肯定している証である。


「まぁ、でも、シシトが愛さない者がいるなら……彼と戦う者はそのような者であるべきでしょう。シシトに愛されるということは、彼と共に歩むということですから」


 遠くから、雷鳴と、雄叫びが聞こえてくる。


 シシトがようやく地面に転がり、着地したのだろう。

 

「共に歩む、ね。食われるの間違いだろう」


「同じ意味でしょう。口に含むという行為は、最大の愛情表現の一つですから。だから、死鬼は人を食べるのでしょう?」


 土煙が上がり、シシトが近づいて来ていることが分かる。


「メイセイィイイイイイイイ! シンジィイイイイイイイイ!」


 怒りながら、そこに、愛などの感情は一切無い。


「では、また会いましょう。あのシシトを倒せたら……次は私がお相手いたしますよ」


「……嘘言うな、羽虫。お前と俺が戦うことは……ない」


「アハ。アハハハハハハハ!!」


 シンジの返答の何が面白かったのか。


 腹を抱えて笑いながら、人型のセラフィンが消える。


 同時に、シシトがシンジ達の所へ戻ってきた。


「ハァ……ハァ……殺す……っ!」


「そうか。じゃあ始めるか。殺し合い。景品は……彼女たちだ」


 シンジは、彼の後ろにいるセイたちを指さす。


「女性を! 百合野さんを! 常春さんを! 水橋さんを!モノ扱いするなぁあああ!!」


「モノ扱いして吸収するお前が言うなよ……その体、何人犠牲にしてきた?」


「わけのわからない事を言うなぁ!」


 シシトが木の根をシンジに伸ばす。


 その根をシンジは払おうとして……その直前で、軌道がそれた。


「何だ!?」


「シンジは、そいつと戦わないでよ。まだ、俺がいるんだし」


 木の根は、少年の手に向けて伸びている。


「コタロウ……」


「コイツは、俺が殺すから」


 コタロウは、自身の手に向けて伸びていた木の根を握りつぶした。


「誰だ……? 子供? なんでこんな所に……」


 十歳程度の姿をしているコタロウを見て、シシトの声が若干優しくなる。


「……危ないから、安全な場所にいこう? 僕が守るから……ここには、凶悪な殺人鬼がいる」


 そして、優しい声を出しながら、片膝をついてコタロウに手を伸ばした。


 今のコタロウは、とても愛らしい姿をしている。


 格好は短パンにシャツと、少年らしい装いなのだが、見るモノによっては、美少女だと判断するだろう。


 だから、今のコタロウは射程に入っていた。


 この世の全て(美少女のみ)を愛するシシトの性癖(ストライクゾーン)の射程に。


「凶悪な殺人鬼はお前だろ? クズが」


 だが、当たり前ではあるが、コタロウにとってシシトは敵だ。


 シシトがシンジを殺す可能性があるのならば、不倶戴天の敵である。


「ぐぁっ!?」


 コタロウに向けて伸ばしたシシトの手が、ぐちゃぐちゃに潰れた。


 巨大な樹木が、突然落ちてきたのだ。


「うぐぐうっっぁああああ!?」


「このまま、潰れろ」


 もう一本の樹木が、シシトの頭に向けて落とされる。


 だが、そのまえに、シシトの手を潰していた樹木が消えた。


 同時に、落ちてきた樹木も消える。


「あ、危ない。なんでこんなことをするんだい? 君も、あの殺人鬼に操られて……」


 じゅくじゅくと音を立てながら、シシトの腕が再生していく。


「……見た目が良ければ何でもいいのか、コイツ。俺は男だぞ?」


 樹木が消えた原因は、シシトの『三千兼愛』の能力だろう。


 つまり、シシトは一目見て、子供の姿のコタロウを愛したということだ。


「男の子でも、関係ない。僕は皆を守るんだから……」


「その守る、が自分の体内に吸収することか……言っておくが、俺は明星真司の親友だ」


 コタロウの言葉に、シシトは目を丸くする。


「殺人鬼の、親友? あの殺人鬼に、友達なんているわけが……」


「俺の名前は山田小太郎。少しは調べていないのか? シンジの交友関係」


「山田……小太郎」


 コタロウに指摘されて、シシトは思い出す。


 確かに、いた。


 凶悪な殺人鬼に味方する可能性のある、友人の名前を、ロナから教えて貰っていた。


「本当に、あの山田小太郎なのか?」


「ああ、俺は、明星真司の親友、山田小太郎だ」


 目の前にいる、この愛くるしい少年が、凶悪な殺人鬼の親友。


 そう理解した瞬間、シシトは吐き出した。


 巨大な樹木を二本。


 さきほど『三千兼愛』の能力で取り込んだ、コタロウが呼び出した樹木だ。


「うえっ! ゲェッ!!」


「よし。愛するモノから外れたら、取り込まれたモノも吐き出すのか。これで戦いようがある」


「なんで……あんな殺人鬼の味方を……!」


「その答えは……」


 コタロウがシシトに手に平を向ける。


 すると、シシトの体が後方に引っ張られ始めた。


「親友だから、だ」


「うおおお!?」


「シンジ達はここで待っていて。アイツ、ちょっと殺してくるから」


 再び飛んでいったシシトを、コタロウが追いかける。


「……ここら辺でいいか」


 一分ほど飛んでいたシシトを、コタロウは蹴り落とした。


「ぐがっ!?」


 地面に埋まるほどの衝撃を受けて、シシトは転がる。


「さて、目標はただひとつ」


 コタロウは、黄金に輝く盾を取り出す。


「駕篭獅子斗の完全消滅。まずは……溶かしてみるか」


 コタロウが持つ盾から、黄金のレーザーが射出された。





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