第378話 3人がいた


「気持ち悪い」


 少女の声が聞こえた。


「……えっ?」


 同時に、桜のような花びらが、シシトの周囲に舞いはじめる。


「ネネコが自傷行為に走る気持ちが分かってしまいますね。あの男が同学年、というだけで、自分の事が嫌いになってしまいそうです」


 花びらと共に、雪も舞う。


「あー……あー……」


「コメントがないなら、ゾンビみたいな声はやめてください」


「だって……本当にさぁ……」


 何も無い、と思っていた場所から、3人の少女が現れた。


「……え?」


 その少女たちを見て、シシトはまるで時間が止まったかのように感じる。


 そこにいたのは、シシトが世界で一番大好きな少女達だったからだ。


 常春 清(とこはる せい)。


 水橋 ユリナ(みずはし ゆりな)。


 そして、百合野 円(ゆりの まどか)。


 怪我一つ無く生きている彼女たちの姿に、シシトは涙が止まらなくなった。


「常春さん、水橋さん、百合野さん! 皆、無事だったんだね!」


 シシトは、銃を投げ捨てて3人に向けて駆けだした。


 魔王であるメイセイシンジを倒したことで、3人とも洗脳が解除されたのだろう。


 自分の元に戻ってきてくれたことに、シシトは嬉しくて、嬉しくて、涙で視界が塞がっていく。


「僕、やったよ! 倒したんだ! メイセイシンジを! あの魔王を!」


 それでも、シシトは高らかに語った。


 自分の栄光を。


「これで、皆が幸せになれる! 愛と平和に満ち溢れた、絆を紡いでいく正義の世界に戻れるんだ!あのころの、皆が幸せで、仲が良かった世界に!」


 魔王を倒し、世界を救った偉業を。


 その果てにある世界を。


「帰ろう、皆! あの頃に! メイセイシンジのいない世界に!」


 幸せな光景を。


「『雪桜火(せつおうか)』」


 ピタリと、まだ流れているシシトの涙を拭うように花びらが頬に張り付いた。


 とても冷たい。


 まるで氷のようだ。


 その花びらの温度を感じた瞬間、衝撃でシシトの視界が揺らいだ。


 頬に張り付いた花びらが爆発したのだ。


「がっ……!? なぁっ……!?」


 ごろごろと、シシトが転がる。


 何が起きたのか、シシトには分からなかった。


「な……に……がぁっ!?」


 さらに、ぴたぴたと氷の花びらがシシトの体に張り付き、彼の体を爆撃していく。


「ふ……が……」


 先ほどのシシトが放った銃撃よりも激しい爆発が起きたが、シシトは五体を保っていた。


 レベルがカンストした肉体は、この程度では死ぬことは無い。


 しかし、全身は焦げだらけになっている。


「『天ノ霹靂(アメノヘキレキ)』」


「なあ……がぁああああああああああああ!?」


 そんなシシトに、さらに電撃が浴びせられた。


 上空にいつのまにか出来ていた雷雲からの雷は、シシトを体内から焼いていく。


「こ……かぁ……ぁ……」


 十数秒の電撃のあと、シシトは全身から煙を出して、ただ立っていた。


 立っていたというより、強烈な電撃によって体が起こされたような状態なのだが、立つ力もないのか、そのまま地面に倒れそうになる。


「ぐぁっ!」


 そんなシシトの体に、無数の槍のようなモノが突き刺さった。


「『生命の樹』」


「う……くぁあああああああああ!?」


 シシトの体に刺さった槍のようなモノは、木の根であり、その根はシシトの体液を吸っていく。


 おそらくは体内に取り込まれているだろう、ヤクマの薬と共に。


 焼け焦げ、体液を吸われたシシトは、みるみるうちに無残な姿に変わった。


「……ぅ……ぉ……っ……」


 声は、もはや吐息のように弱々しい。


「……とりあえず静かになったか」


「うるさかったですからね。このまま永遠に静かにしていてほしいですが……」


「……うわ、ここまでしても、まだ生きているよ」


 ボロボロになったシシトを、汚泥に沈んでいる害虫を見るよりも嫌悪を込めた目で、セイとユリナと、マドカが見ている。


 3人の攻撃を喰らい、虫の息ではあるが、シシトはまだ生きていた。

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