第366話 マオが殺すのは
「ふむ。殺されない、ということは話を聞いてもらえるようで。ありがとうございます」
もっともマオに近い位置いたセラフィンが礼を言う。
「殺害に協力ですか……一つ聞きたいのですが、よろしいですか?」
「ええ、何なりと。一つとは言わずに、いくらでも答えますよ? 協力を願い出ているのですから、それくらいは……」
「では、なぜ殺そうとするのですか? あの男を。彼は別にあなた達に直接何かをした訳じゃないでしょう?」
マオの問いに、セラフィンは不思議そうに首を傾げる。
「おや。これは予想外の質問です。何もしていない相手に色々していたのは、アナタでしょうに」
セラフィンが潰れる。
「これは失敬。余計なことを言いましたね」
睨みつけているマオに笑顔を向けて、別のセラフィンが話し出す。
「話を戻しますか。明星真司を殺す理由。ええ、彼は別に、何もしていません。ですが、彼はあの『予言士ツカサ』と『魔人剣トウキール』の子息なのですよ? 世界融合後の世界の覇者となるためには、真っ先に潰しておかなくてはいけない存在だとは思いませんか?」
セラフィンの答えに、賛同も否定もせずに、マオは話を進める。
「そうですか。では、協力とは、私に何を求めるのです?」
「何もしないこと。私の望みはそれだけです。正直、アナタの登場は予定外だったのですよ。なので、これ以上アナタとの戦いで戦力を浪費したくない、というのが私の要求です」
「ふむ……それで、どうやって明星真司を殺すつもりですか?」
顎に手を当てたマオにセラフィンは答える。
「さすがに、詳細は話せませんが……ここの戦力はあったほうがいい。あとは、シシトの……おっとこれ以上は秘密です」
セラフィンはわざとらしく口に手を当て×を作った。
「それで、どうですか? アナタは何もしないで怨敵である明星真司を葬ることが出来る。しかも、山田小太郎に恨まれることもなく。これ以上の機会は……好機は、ないのではないですか?」
「……そうですね」
「では……」
「ええ、殺しましょう」
ぐちゃりと音を立てて、セラフィンが潰れた。
「アナタを」
マオは、一番近くにいたセラフィンに微笑む。
「……交渉決裂ですか。理由を聞いても?」
やれやれと肩をすくめて、セラフィンはため息をついた。
「羽虫に語ることなどあるわけがないでしょう」
「ふむ……まぁ、なんとなくこうなるとは思っていましたが。しょうがないですね。協力していただけないなら……敵対しましょうか」
セラフィンが指を鳴らす。
すると、2メートルほどの大きさの人間のような形をした物体が現れた。
ぐちゅぐちゅと絶えず肉がうごめき、血が落ちている。
「これは……」
「たくさん潰してくれていたのでねぇ……血液やら体液が飛び散って……もったいないでしょう? 元はゴミのような人間とはいえ、私の形を作っていたのですから。だから、再利用です。リユース……今はSDGsと言うのでしたか? 知りませんけど」
血の人型が、マオに向かって拳をふるう。
マオはすぐにその場から飛び退いた。
攻撃はあまり早くなく、強くもないようだ。
しかし、ある疑問が生じている。
その疑問に答えのは、セラフィンだ。
「10倍の材料を使えば10倍の力……とは言いませんが、100体分の肉体を集めれば、アナタの『導き』を無効化出来るようですね」
「……そう」
その答えに、マオは少し納得する。
そういえば、口に×を作ったり、セラフィンが自由に行動していた。
あのときから、マオの『導き』をある程度無力化していたのだろう。
「でも、『導き』の無力化にだけ特化している割には……強くはないようね。それに、無力化といっても少し体を動かせる程度。羽虫が羽ばたけるだけ」
人型の周りには、数匹のセラフィンが浮かんでいるが、他の数千匹以上のセラフィンに動きはない。
動けるようになっているのかもしれないが、どちらにしても大した事ができるとは思えない。
「この程度なら、大した影響は……」
「もちろん。他にもご用意していますよ?」
「……っく!?」
セラフィンが指を鳴らすと同時に、砂煙が舞い、マオが立っていた地面が大きく切られる。
地面を切ったのは、鎌のような爪を持った大きなドラゴンだった。
しかし、そのドラゴンも、よく見れば肉がうごめき、血が滴り落ちている。
「戦闘用に用意しました。模しているのは、あまり上位のドラゴンではありませんが……どこかの王族は、この程度のドラゴンに体を両断されたことがあるようですからね。やれやれ」
ドラゴンの後ろに人型が乗り込む。
「人型が『導き』を無力化して、ドラゴン型が戦闘……」
「ドラゴンライダー……という感じでしょうか。さて、どうしますか? アナタは『導き』の向上と王としての執務が優先されて、戦闘能力はかなり低い。このまま何もしなければ、命は取りませんし、怪我さえもありません。それとも、戦いますか? 明星真司のために?」
ビキビキとマオの額に筋が走る。
「はぁ?」
「おや、私と戦う理由となると、結局はそうなるでしょう? だって、私は別に山田小太郎など、どうでもいいので……私が殺したいのは明星真司。それを止めるために戦うのは、つまりは明星真司のため。大好きな甥のためにアナタは戦うのでしょう? ナイフォール……いえ、貝間真央?」
ニヤリと笑うセラフィンの横を、マオが通り過ぎた。
十数メートルは離れていた、空中に浮かぶセラフィン。
人型とドラゴン型の近くを飛んでいたセラフィン。
そのセラフィンの横を、マオが通り過ぎたのだ。
セラフィンが反応できないスピードで。
「えっ?」
ズルリと、セラフィンの体が上下でズレていく。
そして、人型と、ドラゴン型も。
その場にいたセラフィン達の体が、分かれて地面に落ちた。
「……鎌ですか」
闇のように黒い、刃渡りだけで2メートル近くある大きな鎌を、マオはくるくると回す。
その鎌は、コタロウが作り、マオに授けられた武器。
自身の『魔』を、欲望を自己の強化にのみ費やす、他者の自分に対する欲望を利用していたマオの以前の武器とは逆の能力を有する、黒い鎌。
「『闇魔王ノ鎌ルーノス』これが、コタロウ様からの愛のしるし」
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