第361話 敵が復活する
セラフィンの問いに、コタロウは何も答えない。
表情も変えない。
しかし、それをセラフィンは肯定と受け取る。
「ふふふ……死なないように、必死に駒を動かしているのが伝わります。常春清、水橋ユリナ、百合野円、それぞれを個別にぶつけて……おそらくは最期がどうなるのか、読んでいるのでしょうね」
セラフィンは、空中に映し出されている映像を見ながら、指を動かしていく。
駒を動かすように、脳内で、これからをシミュレートしている。
「しかし、役割がある彼女たちと違って、アナタは違う。失敗してもいい捨て駒。私の足止めを命じられたが……出来なくてもいい。そう言われたのではないですか?」
正解だった。
コタロウは、確かにシンジに言われた。
『分断したあとは、無理はしなくていいから』と。
「最強のはずであるアナタを捨て駒。いいですね。やはり本物は違う。ふふふ……」
本物。
確かにそうだ。
「ああ……アイツは本物。俺たちと違ってな」
コタロウは両手を広げる。
無数にあると思われた透明の球体が、さらに増えた。
10倍以上に。
「おやおや。今の数で倒せないから、数を増やす。単純ですね」
「数を増やしたのは、お前も一緒だろ? 何人、犠牲にした?」
コタロウの質問に、セラフィンは少しの間もおかずに答える。
「さぁ? 100万人?」
興味もなさそうに、セラフィンは首を傾げた。
そのセラフィンさえも、おそらくは犠牲になった人の体で出来ている。
セイたちから聞いた、聖槍町のトンネルに保管されていた死鬼たち。
あそこは今、空っぽだろう。
いや、おそらくはかなりの広範囲で、死鬼が姿を消しているはずだ。
セラフィンの体の材料として、消費されているから。
「……いくぞ」
もはや、壁のように数を増やした透明の球体が、余すことなくセラフィンに降り注ぐ。
「……アハハッハハハハ」
数千体のセラフィンが笑う。
笑い声ごと、透明の球体はセラフィンを飲み込んだ。
同時に、セラフィンのベクトル操作で返ってきた透明の球体が、数千個ほどコタロウにも飛んでくる。
複雑な軌道で飛んでくる透明な球体は、避けるなんて考える方が難しい。
だから、コタロウも甘んじて数千個の透明な球体による攻撃を受ける。
吹雪でさえ生ぬるいような密度の攻撃は、数分間続いた。
透明な球体は全てが粉々に砕け、セラフィン達の死体と共に地面に落ちている。
一匹のセラフィンを除いて。
「……危ない危ない」
顔面が半分ほどえぐれ、羽は骨だけ残し、飛んでいる理屈がさっぱり分からないボロボロのセラフィンは、おそらく笑っているのだろう。
「でも、残念。私を残していては、結局……」
「……復活する。って言いたいんだろうけど……動けないぞ? お前」
ベクトル操作で自分の攻撃を食らい続け、満身創痍のコタロウが言う。
彼の言葉通り、セラフィンの動きは完全に止まっていた。
「ハ……ハ……?」
「そういえば、その透明の玉の正体。何だったか言ってなかったよな? それは、氷の玉だ」
ふうっと吐くコタロウの息は、白くなっている。
「今までの攻撃で使っていた氷の玉はせいぜいマイナス10度から20度度程度だったが、今回の攻撃では極限までに冷やした氷を使った。絶対零度とまではいかないが、マイナス100度以上は確実だ」
マイナス100度以上の氷の球体がぶつかり、出来た極寒の空間。
そこに浮かんでいるのが、セラフィンだ。
芯まで冷え切ったセラフィンの体が、ピキピキと音を立てていく。
凍っていく。
「球体がぶつからないようにベクトルを操作していたんだ。温度にまでは気が回らなかったな」
じっと、コタロウはセラフィンを睨みつける。
「……砕けろ」
コタロウの言葉と共に、生き残っていたセラフィンの体が、粉々になる。
パラパラと落ちていくセラフィンの残骸に、なぜかコタロウが驚いていた。
セラフィンは確かに砕けた。
しかし、ただ砕けたわけじゃない。
「フ……フフフフフフフフフ!」
セラフィンの体を踏みつけ、砕いたモノがいたからだ。
銀色に輝く、機械の体。
模しているのは、巨大なドラゴン。
元は、夕焼けのような鱗が綺麗だった、強靱なドラゴンのなれの果て。
「サンセットドラゴン。昔、アナタが敵わずに逃げ出したドラゴンを素体に作り出したこの機械仕掛けの体……ロボット、でしたっけ? なかなか良い作りでしょう?」
ドラゴンの胸部に、白いモノが張り付いている。
白いハムスター。白い羽虫。
新しいセラフィンが、ニタニタと笑っていた。
「おめでとう。第1ステージはクリアです。でも、まだ時間はありますし、続いて第2ステージ。このロボットサンセットドラゴンと新しい私を一万、用意しました」
ドラゴンの背中が開くと同時に、わらわらと白いハムスターが、セラフィンが飛び出していく。
羽虫のように。
「さて、今度は勝てますか?」
飛び出してくるセラフィンの群に、コタロウは瞬きを忘れたかのように目を開き、そして、閉じた。
「いや、無理だ」
コタロウの素直な敗北宣言に、飛び出していたセラフィン達の動きが止まる。
「おや、この程度で?がっかりですね。もう少し楽しめると思っていたのですが……所詮は偽物ですか。もうあきらめるとか」
「ああ、あきらめた……俺一人で戦うのはな」
コタロウは指を鳴らす。
すると、飛び出していた一万匹のセラフィンが、一斉に地面に叩きつけられた。
「……んな!?」
今まで笑っていたセラフィン達が、皆一様に驚愕の顔に変わる。
何が起きているか、理解が出来ない。
唯一、空中を飛べているドラゴンに張り付いているセラフィンも、驚きの表情を浮かべていた。
「……そうきましたか」
全てを見透かしていたようなセラフィンにとって、それは予想していなかったのだろう。
それほどまでに、コタロウが起こした行動は想定外だった。
そうしないと思っていた。
コタロウに背後に、一人の少女がひざを付いている。
忠誠を誓っている臣下のような態度を示している少女に、コタロウは言う。
「あの羽虫は任せた」
「かしこまりました。コタロウ様」
黒い髪の少女は、学校の制服を着ている。
シンジやコタロウと同じ学校の制服。
「ここで、魔王様の登場ですか」
立ち上がった黒い髪の少女貝間 真央(かいま まお)は、まるで闇のように、静かにセラフィンを睨んでいた。
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