第360話 コタロウがセラフィンと戦う
空に浮かぶ数千の白い生き物。
その群の中に、黒い球体が現れた。
正確な大きさは分からず、実のところ色も不明。
もしかしたら、それは闇と表現するのが、正確なのかもしれない。
あらゆる光を反射せずにただ飲み込んでいく球体。
『ブラックホール』
広い宇宙のどこかに存在するという超重力は、しかし、何も飲み込むこともなくすぐに消えた。
「相性がいい。そう思いませんか? 山田小太郎?」
数千いる白い生き物の一匹が、クスリと微笑む。
すると、ドミノが倒れるように周りの白い生き物にクスリ、が広がっていく。
ぞわぞわと背筋に走る、不快な笑いの共鳴。
白い生き物、セラフィンが作り出した醜悪なオーケストラに顔をゆがめ、コタロウは傷だらけの体を支えながら立ち上がる。
「アナタの技能『聖域』……ではなく、『決められた見えない悪戯(サイコロトリック)』でしたっけ? 空間に新しい設定を作り出す能力と私のベクトルを操作する『導き』。作り出すモノと操るモノ。互いに互いを影響させることができる。これほどまでに噛み合う力は、そうないでしょう」
「どこがだよ。噛み合うなんて優しい話じゃ……ないだろう」
コタロウが手をかざすと、空から大きな石が落ちてくる。
隕石。
過去、あらゆる動物を絶滅に追い込んだと言われる文字通りの天災。
その隕石も、セラフィンたちがいる場所に届くこともなく、停止する。
「……出力勝負。工夫もなにもない。強い方が弱い方を一方的に止められる。そんな勝負だ、これは」
「ええ、だから、『相性がいい』でしょう?」
数千のセラフィン。
一匹一匹はコタロウの100分の1程度の力しかないが、これだけいればコタロウの技能を止めることは容易だろう。
数の暴力。
それを行使するのに、セラフィンの技能は最適だ。
セラフィン達は一斉にコタロウに手を向ける。
その動きに合わせるように、停止していた隕石が、今度はコタロウに向かって落ちてきた。
「……爆発しろ」
コタロウが指を鳴らすと、隕石が発光し、強烈な衝撃波と共に轟音を響かせる。
小さな町ならば、全てを破壊してしまいそうな強烈な爆発であったが、しかしセラフィン達に傷一つない。
数千のセラフィンによるベクトル操作。
爆発の威力は、完全に別の方向に逸らされていた。
「……やっぱり、無理か」
「ええ、無理ですね。爆発もブラックホールも通用しません。通用するとすれば……」
セラフィンの言葉を遮るように、コタロウは両手を広げる。
その動きにあわせて、球体が現れた。
透明の球体。
かろうじてその存在を視認できるほどに透き通っている。
そんな球体が、数え切れないほどにコタロウの周りに浮かんでいる。
くるくると、高速で回転しながら。
「透明で高速に回転する球体……それしかないでしょう。どこに飛んでいくか分からない攻撃は、ベクトルの操作で防ぎきることは困難ですから……」
ニヤニヤとセラフィンが笑っている。
その顔に向けて、コタロウは手を向けた。
「……アハッン」
パンッと、乾いた音が響く。
セラフィンの頭が弾けて消えた。
無数の透明な球体が、セラフィンたちに降り注ぐ。
パンパンパンと、ほかのセラフィンの頭も弾けていく。
数千体のセラフィンのうち、百体のセラフィンの頭が消えてなくなっただろう。
でも、そこまでだった。
頭を失ったセラフィンの体が、ビクビクと動き出す。
首から、ミチュミチュと音を立てて、絞り出すように肉が出てくる。
頭が、出来上がる。
『導き』によるベクトル操作。
元々持っている再生力を利用して、破壊された頭部が復活するように、ベクトルを操っている。
一匹のセラフィンを倒しても、ほかのセラフィンが次々に回復させていく。
(1万の透明の球体で同時に攻撃しても、殺せるのはせいぜい数百匹。ランダムな攻撃だからこそアレに通用している以上、命中率を上げるなんてことは出来ない。でも、アレは全部を一斉に無力化しないと、永遠に復活しつづける)
そして、厄介な点はもう一つある。
「……終わりですか? それともあきらめました? もしかして、怖くなりました?」
再生途中のセラフィンの一匹が、下顎だけで話しかけてきた。
「……器用だな」
「そうですね。自分の攻撃で傷つくアナタより不器用な人間はいないでしょう」
セラフィンの指摘どおり、コタロウの体にはいくつか、透明な球体がめり込んでいた。
無数の球体がベクトルを変えられる。
当然、そのうちのいくつかはベクトルがコタロウの方に向かうように変えられてしまうのだ。
簡単に避けられないように放たれた球体は、コタロウにとっても避けることが困難な攻撃になっている。
「あーあ、綺麗な体がボロボロですね。勿体ない。どうです? 今から謝れば許してあげてもいいですよ?」
クスクスと笑うセラフィンに、真摯的な態度は一切ない。
「そんなつもりはないだろ? 冗談は顔だけにしていろ」
顔を横に傾けて、再生途中の目玉をわざとこぼしながらセラフィンは笑う。
「ええ、まったく。このゲーム。アナタには顔がいいということ以外、なんの価値もないので」
ゲーム。
セラフィンのいうゲームは、誰としているのか。
答えは明白だ。
「本物の明星真司……あのツカサの息子。いやいや、恐ろしいですね。顔は……まぁ、普通ですが、こうやって本気で『遊んで』みるとよく分かる。彼は……自分が死ぬことを知っているのでしょう?」
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サポーター向けの活動報告に、SSを投稿しました。
シンジとコタロウの出会いの話です。
興味があればぜひー(^_^)/
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