第339話 輸送機の男達が気持ち悪い
突然現れた小学生の女の子たちに、輸送機にいる者全員があっけにとられていた。
しかし、すぐに反応出来た者もいる。
「……へ、へへ。なんだ、ネネコとヒロカじゃねーか」
ヒロカとネネコに暴行を加えていた、雲鐘学院にいた男性たちだ。
その中の一人、さきほどユウタロウが彼女であるミナミを紹介すると言うと、『皆で可愛がってやるさ』と答えていた男性が、ニヤニヤ笑いながらネネコたち見ている。
「ビビらせやがって……ほら、こっちに来い。俺たちが可愛がってやるから。なぁ?へへ」
そう言いながら、男性は大型の銃をネネコたちに向けた。
しかし、ネネコたちは男性の声が聞こえたのか、聞こえていないのか、特に反応もせずに半透明の杖を上に掲げる。
「『変身』」
二人が声をそろえて言うと、彼女たちの着ていた黒いコートのような服が光となって消えていく。
そして、何も身につけていない状態になると、光が彼女たちを覆い始めた。
光は形となり、リボンやフリル、スカートなどに姿を変える。
そして現れたのは、魔法少女という名称がふさわしいような可愛らしい衣装に身を包んだネネコとヒロカだった。
元々、アイドルになれるような素質のあった美少女たちだ。
その二人が可愛らしい衣装に生着替えしたことで、輸送機にいた一部の男たちが盛り上がる。
「は、はは。なんだ、そんなかわいい服に着替えて……やっぱり俺たちに可愛がってもらい……」
そこで、男性の声がとぎれた。
声を出せるような頭部の状況ではなかったからだ。
男性の頭部は空気を入れて膨らませたゴム手袋のように変形している。
ほかにも、ネネコたちの変身で盛り上がった男性は、皆一様に頭部が醜く膨れていた。
「イイィィいぃぃああいっぃああ!???????」
「爆ぜろ」
ネネコとヒロカがそうつぶやくと、頭部が膨れていた男性たちの頭が叩き潰されたスイカのような音を立てて、弾け飛んだ。
「欲望が形になる世界。欲望が力になる世界。お兄さんがくれたこの杖は私たちに対する『性欲』に反応して攻撃する武器らしいけど……殺せたのは半分くらいか。多いのか少ないのか」
ヒロカが半透明の杖を器用に回しながら言う。
「私たちの裸を見て反応したのが半分なんだから、十分多いでしょ。気持ち悪い」
ネネコが汚物を見るように、頭を失った者たちに目を向ける。
「でも、わざわざコタロウさんに頼んで、全裸から魔法少女の衣装に変身させる機能を付けてもらったのはネネコじゃん。私たちの裸で喜ぶクズがいるって思っていたんでしょ?」
「私たちの裸で喜ぶクズを殺したいって思ったのよ」
一方、隣で男性の頭が爆発したのをみて、ユウタロウは腰を抜かしていた。
「…………な、は? なんで皆の頭がいきなり……なんで、俺たちは正義の……シシトくんの……」
頭が弾け飛んだ男性は、ユウタロウにとって間違いなく志を同じくする仲間だった。
正義だった。
しかし、男性の死に方は、正義の者に訪れたモノにしてはあまりに醜く、悲惨だった。
「っうぁあああああああ!!」
ユウタロウの近くにいた別の男性……雲鐘学院で門番をしていた男性が雄叫びを上げる。
そして、頭が弾け飛んだ男性が持っていた銃と、自分が持っていた銃、二つの銃をそれぞれ両手に持ち、ネネコとヒロカに向けた。
「ふっざけんじゃねぇ!ガキどもが! ぶっ殺して……」
キンッと空気を切り裂く音が聞こえたかと思うと、男性の動きが止まった。
パラパラと、剥がれるような音が聞こえたかと思うと、男性の右手首が落ちた。
続いて、右耳、左肩、鼻、唇……パラパラパラと男性の身体の部位が落ちていき、最後は血をぶちまけながら全身が崩壊する。
『女の子を助けたいじゃん?』
『楽しみにしているよ』
数分前まで男性と交わした言葉がユウタロウの脳内で再生される。
「んんなぁ……なんで……なんでぇええ……」
ガクガクと震え、視界がぶれた。
涙があふれてくる。
「そんな大技使わなくても殺せたでしょ?」
「アイツ見覚えあったから……まだ、何人かいるね」
ネネコがつぶやくと、すぐに輸送機で生き残っていた男性のうちの何名かが物言わぬ肉塊に変えられる。
彼らは皆、雲鐘学院にいた男性たちだ。
これでもう、輸送機に生き残っているのは女性を含めると三十名名ほどしかいなかった。
「残りはどうする?」
「うーん。どうしよっか。敵対しないなら……」
「な、なんでなんだよっ!!」
ヒロカとネネコが生き残っている輸送機にいる人物たちについて相談していると、ユウタロウが声を上げた。
ヒロカとネネコは、ユウタロウに目線を移す。
「お……俺たちは、助けに向かっていたんだ! 女の子を! 君たちみたいな女の子を助けようとしていたんだ! あの魔王メイセイシ……」
「お兄さん。せっかく生きているんだから、黙っていたほうがいいよ?」
ネネコから発せられた、鉛のように重く冷たい言葉に、ユウタロウは心臓を握りつぶされたような感覚に陥る。
「なっ……なん……チクショウ。オレは、ただ、ミナミを、飾道さんを助けようと……」
小さく聞こえないようにつぶやいたユウタロウの言葉に、ヒロカが反応する。
「ミナミ? ショクドウ? もしかして、ミナミさんとミユキさんの知り合い?」
ヒロカの疑問に、ユウタロウはおびえながらも頷く。
「あ……ああ、ミナミの彼氏だ」
「そういえば、あのクズが連れている仲間だから、同じ学校の人たちもいるのか」
ヒロカとネネコは目を合わせる。
「一応確認とっておく?」
「そうだね。念のために」
そして、なにやら石のようなモノを握ると、空間に穴が開いた。
その穴の先には空が見えて、そしてメイド服を着た美しい少女と女性がいる。
「うわっ!? 急にどうしたの?」
「なんだ? 何か用か?」
メイド服を着ているのは、ユウタロウの彼女である豊橋南と、南の友人でガラの悪そうな、飾道美幸である。
その後ろには、エリーもいた。
「あの、なんかミナミさんの彼氏だって言う人が……」
「ミナミ!!」
ミナミの姿を見たユウタロウは喜びに満ちた声を上げる。
「え……紙林くん?」
「よかった……無事だったんだ。助けに来たんだ……よかった」
「……助け? ん?」
ミナミは、ユウタロウが軍隊のような迷彩服を来ていることに着目する。
そしてその周りには男性たちの死体が転がっていて、ヒロカとネネコが少し困っている表情を浮かべていることで、状況を把握した。
「ああ……いたんだ。輸送機の中に」
「うん。知り合いみたいだから、一応確認しようかってなって」
ネネコの言葉を聞いて、ミナミも同じように困った表情を浮かべてしまう。
「皆殺しでよかったのに。というか、そのまま輸送機墜落させた方が早かったんじゃない?」
「いや、それはさすがに。女の人もいる……」
「ミナミ! こっちにこい! 逃げよう! な?」
ヒロカの言葉を、ユウタロウが遮った。
「飾道さんも! 早く! 助けに来たから!」
ユウタロウの言葉に、ミユキは怪訝な顔を浮かべる。
「……なんで私まで?」
「さぁ? 欲が出てきたんじゃない? ミユキン可愛いし」
「はぁ? 誰が可愛いんだよ! 誰が!」
ミユキが顔を赤くしながら、ミナミにつっかかる。
一方、完全に無視されているユウタロウは、頭に血が昇りはじめていた。
「早く来いよ! 大丈夫! メイセイシンジはシシト君が倒してくれる! 勇者の! 正義の! シシト君がこっちにいる!! だから早く! オレが助けるから! 俺たちが、絶対に守るから!」
「そのシシトに殺されかけんだけどな、私たち。大丈夫か? あんなのが彼氏で」
「……まぁ、ちゃんと別れていなかったけど。それにしても、ね」
ギャイギャイと騒いでいるユウタロウを軽く見たあと、ミナミは目を閉じたまま口を開く。
「紙林くん」
「なんだよ。いいから早く……」
「別れよう」
「……は? え? な、何を……冗談を言っている場合じゃないだろ! 今は! とにかく逃げて……」
「紙林くんが守ってくれるって? 冗談でしょ。小学生の女の子たちに殺されそうになっているのに」
ミナミがクスリと笑うのを見て、ユウタロウは絶句する。
「な、何を言って……」
「そもそも、死んだ私を見捨てるような……いや、普通は置いていくか。でも、死んだ私を生き返らせてくれる人もいるし……トータルで考えると、やっぱり紙林くんに魅力がないんだよね」
「何言っているんだよ! おまえは!」
ここで、ユウタロウに怒りがこみ上げ始める。
次々に仲間が殺され、恐怖しているなかせっかく再会した彼女に魅力がないとバカにされたのだ。
しかも、あのミナミに。
「や……やっぱり洗脳されているんだな! じゃないとあのミナミが……大人しそうで、優しそうなミナミが、こんなこと言うはずない!」
「はは。出た『優しそう』そこら辺は変わらないんだ。洗脳されていても、紙林くんに魅力がないのは変わらないと思うけど」
告白された理由を思い出して、ミナミには乾いた笑みがこぼれてくる。
「ふざけるんじゃない! 何だおまえ! そんなこと言う奴なのかよ! オレに惚れていたのはおまえだろ!」
「告白してきたのは紙林くんだし、告白されたから付き合っただけなんだけどなぁ……」
「……あの、結局どうしますか? 武器だけ破壊して放置する手もあるけど」
ミナミとユウタロウの話し合いに少し恐怖を覚えながら、ネネコがミユキに確認する。
「んー? それでいいんじゃない? 元々、明星さんもどっちでもいいって言っていたし。悪い事していないなら……」
「甘いなぁ、ミユキン」
ユウタロウを含む、輸送機の生き残りをそのまま放置させようとしているミユキに、ミナミはちっちと指を振る。
「ん? 甘いってなんだよ」
「いや、ちゃんと確かめておかないといけないことがあるでしょ?」
「なんだ? その確かめておくことって」
ミナミは、憤りを隠していないユウタロウに、笑みを浮かべて質問する。
「神林くんに質問があるんだけど……常春清ちゃんの盗撮映像、見たでしょ?」
「っ!!? は、はぁ!? それがなんの関係が……」
動揺し、否定もせず。
そもそも常春清とは何か、盗撮映像とは何か、疑問にも思わずに話している時点で、ユウタロウがセイの映像を見ていたことは確定だろう。
あの、シシトに監禁され、辱めを受けた、セイの悲惨な映像を。
「……話に聞いただけだが、それでもあんなのを見てこの輸送機に乗っているのか」
「正義を名乗り、助けるなんて声をあげてね。盗撮しているような連中が本当に正しいと思っているのかな?」
「……お兄さんだけじゃなくて、この輸送機にいる男は全員見ているってことでいいのかな?」
ヒロカが輸送機で生き残っている男たちに目を向ける。
皆、一様におびえてヒロカから目をそらした。
否定はない以上、見ていることは確定だろう。
見たうえで、彼らは感動したのだ。
シシトの演説に。
愛と平和と勇気と、正義が自分たちにあるというシシトの声に。
思いを乗せて、声を上げたのだ。
「……気持ち悪いな」
ぽつりとつぶやいたミユキの言葉に呼応するように、暗い感情が彼女たちから洩れてくる。
「ひぃっ!?」
殺気なんて感じ取れないユウタロウでさえ、彼女たちの感情はしっかりとわかってしまった。
「……殺していいってことで」
「うん。何なら私がやるけど」
ミナミの申し出に、ヒロカとネネコが首を振る。
「これは……私たちの役目だから」
「マトモな男っていないのかな? 皆変態ばっかり。今のところ、マトモだったのって明星さんくらいなんだけど」
そう言いながらヒロカが羽をはやして、輸送機を見回した時だ。
「……ふざけたこと言ってんじゃないわよ! このガキ!!」
輸送機に乗っていた女性のうちの一人が、ヒロカを睨みつけていた。
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