第331話 親が世界最強
「ほう! 氷と炎の爆発! それがおまえの武器か小僧!」
「ちっ……なんで直撃して笑ってんだよ。このジジイ」
シンジは、朱馬と蒼鹿を構えなおしながら悪態をつく。
ちなみに、セイリュウにはキズ一つ付いていない。
「3つ……いや、4つほど混ぜているな。なるほど、中々面白いことが出来そうじゃないか」
「一目で見抜くなよ」
シンジは朱馬を自分の頭上に投げる。
すると、蒼鹿から氷が走り、竜ヒゲの鞭を通っていく。
出来上がったのは、巨大な氷の剣であった。
その剣を見て、セイリュウは笑みを深める。
「よく練られた『神』だ。いいぞ、小僧。より腕を上げておる。その氷の刃は、古今東西あらゆる名刀に迫るだろう」
セイリュウが、拳を握る。
それだけで突風が吹いた。
筋肉の収縮だけで風を起こしたのだ。
「実に、砕きがいがある」
「……素手で砕く前提かよ」
シンジは、氷の剣を構える。
「やれるもんならやってみろ」
シンジの体が消える。
流れるようにセイリュウの懐に入ると、巨大な氷の剣を、そのままセイリュウの胸に向けて滑らせる。
金属音が鳴り響く。
当たったのは、氷と肉であるはずなのに。
シンジの氷の剣を、セイリュウは拳で受け止めていた。
「だから、なんで切れねーんだよ。どうなっているんだよ、このジジイの体!」
イラつきを隠せないように、シンジは力を込めるが、鍔迫り合いならぬ、氷と拳の競り合いは、拮抗して動かない。
「はっ!」
「うおっ!」
拮抗を破るように繰り出されたセイリュウの蹴りを、シンジは後方に飛びながら避ける。
当たってはいないはずだ。
しかし、風圧だけでシンジの額は切れていた。
シンジは血を拭いながら、もう一度氷の剣を構える。
「強すぎだろ……というか、強くなってないか? ジジイ。まさか、その年で成長期とか言わないよな?」
「アホ、そんなわけあるか。単純に、実力を抑える必要が無くなっただけじゃ。まぁ……日々の鍛錬は欠かしておらぬから、成長期というのは間違いではないかもしれぬぞ?」
セイリュウから発せられる圧力に、大気が震える。
血とともに、汗が流れるのを感じながら、シンジは息を吐く。
「せっかくの正月なのに……なんでこんな化け物と」
「その割には闘志を感じるぞ? 小僧……ん?」
セイリュウは、自分の拳をみる。
すると、うっすらと赤い血の筋が走っていた。
「は……『神』を練り込んでいたとはいえ、氷の刃でワシの皮膚を切り裂くか」
大きな声で、セイリュウは笑う。
「いい……やはりいいぞ……小僧。やはりお前はふさわしい」
セイリュウの笑い声で、瓦礫と化している周囲の建物が、さらに壊れていく。
シンジは、腰を落とし、より強く剣を握る。
「お前は! ワシの孫にふさわしい!!」
シンジから力が抜けた。
「……その話、まだあきらめていなかったのか」
「無論だ。小僧には、ワシの『孫娘』と結婚し、子供を作ってもらう……そして、ワシと毎日、心ゆくまで戦ってもらうぞ!!」
「誰がするか、そんなこと!!」
セイリュウの拳と、シンジの剣が再び激しくぶつかる。
その衝撃は、遠く離れたコタロウたちの所にもやってきた。
「……やっぱり凄いことになっているね。レベルも上がって、『異世界』の力を認識したシンジとじいさんの戦い」
「おじいさんの声も凄かったですけどね」
ユリナは、目線をセイに向ける。
そこでは、セイが目を見開き、固まっていた。
「……お父さん」
「なんだい、セイ?」
セイイチロウは涼しい顔をしている。
「あの、さっきおじいちゃんが言っていたことなんだけど……」
「ん? ああ、セイは覚えているかな? 確か夏休みくらいの時に話していたと思うけど……彼、明星真司くんとセイは許婚だったんだよ」
「えっ!?」
ユリナとエリー以外の女性陣が全員驚きの声を上げる。
「セ、セイちゃんと先輩が許婚!?」
「いまどき、許婚って……」
「あれ、でも、確かセイさんの許婚って……」
ネネコの脳裏に浮かぶ、今や嫌悪感だけの存在が言っていた、夏休みの話。
「もっとも、この話は破談になったけどね。セイが嫌がって、『同級生の男の子』を連れてきたから」
「……かふっ!」
「セイちゃんが倒れた!?」
セイは力なくその場に崩れ落ちる。
目は完全に白目になっていた。
「私、その辺の話は詳しくは知らないんだけど、ユリナちゃんは知っているのかな?」
セイイチロウが語るよりも早く、何となく察していた二人が会話する。
「エリーさんは知っているモノかと思いましたが」
「セイちゃんが許婚を断った、って話だけ聞いていたけど……あの子が関係しているの?」
「まぁ、簡単に言えば夏休みの前にセイが許婚の話を聞いて困惑しているところに『アイツ』がやってきて、なんか聞こえだけは良いこと言って許婚を破棄させて、セイを落としたって話ですね」
エリーとユリナの会話に、コタロウも加わる。
「夏休みの前とか、シンジは普通の高校生で俗物的なところがあった頃だしね。口癖のように『彼女ほしい』ってつぶやいていたし。常春ちゃんみたいな可愛い子が許婚としてやってきたら、絶対にメロメロだったろうにね」
「ガフッ!?」
「セイちゃんが吐血した!?」
倒れたセイを介抱していたマドカが泣きそうな声をあげる。
「『アイツ』って駕篭獅子斗って奴だよな。つまり、そいつは駕篭獅子斗に弄ばれるために、明星さんと結婚するのを断ったってことでいいのか?」
まったくといっていいほど事情を知らなかったミユキが話をまとめる。
「かっ!!? かひゅー……かひゅー……」
「セイちゃんの呼吸がおかしくなった!? 皆もうやめて! セイちゃんのHPはもう0だよ!! オーバーキルだよ!」
セイは、何やらビクビクと痙攣し始めている。
「まぁ、自業自得で死にかかっているセイはどうでもいいとして……」
「ユリちゃん、冷たくない!?」
「セイのお父さんは、セイが駕篭獅子斗になにをされたのか知っていますよね? それはどうしたんですか?」
ユリナは、おそらくはセイリュウが投げてきたと思われる獅子の頭をみる。
「……いや、別になにも。そもそも、私たちは聖槍町に寄っていないからね」
「アンタたちなら、あの程度の町を潰すのに30分もかからないはずだけど、放置する理由があったのかな?」
ユリナと同様に怪訝な顔をしているのはコタロウだった。
「それは少々買い被りというモノでしょう。確かに、私の娘を傷つけた少年たちだけなら、コンビニで買い物をするよりも早く殺せますが……あの町には『アレ』もいるのでしょう?」
セイイチロウは、軽く息を吐く。
「『アレ』は少々、私たちでは相性が悪い。勝てないとは言いませんが、まぁ簡単に言うと面倒くさい」
「面倒くさいって、でも、駕篭くんはセイちゃんにヒドいことをしたんですよ!? なのに、そのままでいいんですか?」
セイを抱き抱えているマドカに、セイイチロウは笑みを向ける。
それは、誰がどうみても作り笑いだとわかるほどに、怒気が込められていた。
「ええ、そのままです。駕篭獅子斗に関して、私たちは手を出しません」
セイイチロウの怒気に怯えはしたが、しかしマドカはしっかりとセイイチロウに向き合い、言う。
「それは、なんでですか。セイちゃんは娘なんですよね?」
「セイが望んだからです」
セイイチロウはきっぱりと言う。
「セイは、私たちが用意した許婚を断りました。そして、別の男を連れてきたのです。親の意見に反対してまで選んだ男に何をされようと、口を挟むべきではない。違いますか?」
『違います』と、マドカは言ってやろうと思った。
しかし、同時に言うべきではないとも思ってしまった。
セイイチロウが発していた怒気は、彼自身にも向けられているような気がしたからだ。
なぜ、彼は彼自身を怒っているのか。
そして、そうならば、言ったほうがいいのではないか、そんな思考がラリーして、結局マドカは言うことにする。
「それは……」
「言わなくていい」
マドカが言おうとした言葉を、いつの間にか気が付いていたセイが止めた。
「お父さんの言うとおり……駕篭獅子斗については、私が決着を付ける。お父さんたちは何もしなくていい」
「セイちゃん……」
「そんなこと言って、結局はシンジに頼ることになりそうですけどね」
「ユリちゃん!」
ユリナが、一歩前に出てセイイチロウに近づく。
「まぁ、駕篭獅子斗を誰が倒すのか、という話は置いておいて。少々、先ほどの会話で気になること出来ました。『アレ』と戦うのは面倒くさいとおっしゃっていましたが……『面倒くさい』ことを避けないといけない理由があるんですか?」
ユリナの質問に、セイイチロウは軽く目を見開く。
「さすがは火堂さんの娘さんだ。よく気が付く。聡明だ」
セイイチロウは満足げに笑みを浮かべると、コタロウに近づき、そして彼のお腹に手刀を突き立てた。
「ぐっ!?」
「山田先輩!?」
セイイチロウが手刀を抜くと、コタロウがゆっくりと地面に倒れる。
「心配しなくても大丈夫。力の使いすぎでおかしくなっていた流れを正しただけです。荒療治ですが、1日ほど休めばどうにかなるでしょう」
「やるなら、やるっていえよ……」
まだ動けないのだろう、コタロウがなんとか頭だけ上げてセイイチロウに抗議する。
「ふふ。さて、質問の答えですが、単純に『アレ』と戦うなと私たちも言われているんですよ」
「……戦うな?」
「私たち『も』?」
マドカとユリナの疑問にセイイチロウはうなづく。
「ええ、君たちにも言付けがあります。あとでシンジ君にも言いますが『お正月の間はゆっくりと休みなさい』とのことです」
「それは、誰からですか?」
「明星 司(メイセイ ツカサ)。明星 真司くんのお父さんで、世界最強の予言師ですよ」
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