第312話 ユリナがシンジを見つける
ユリナは、自分が打ち込んだ氷柱の下に降りる。
そこは、ちょうど崩壊させたお菓子の家があるところだった。
一度攻撃された場所は狙われにくい。
そんな心理を逆手に取って、エリーがシンジを隠すだろうと、ユリナが予想した場所だ。
そして、予想通り、誘導通り、崩壊したお菓子の家の壁を背に、エリーのマフラーに巻かれた状態でシンジが座っていた。
「……よっ」
もこもことした小さいシンジがピッと手を挙げる。
「元気そうですね」
ユリナは目を細め、睨みながらシンジの元へ歩いていく。
「いや、あんまり。こんな寒いところで、ただお人形になっていただけだから……」
ブルブルとシンジがわざとらしく震える。
「そうですか。良い気味ですね」
「なんか、ちょっと言葉にトゲがない? さっきもだけど」
「そりゃあ、先ほども言いましたけど、少々ムカつくところがあるので」
ユリナがさらに目を細める。
「ふーん」
「ふーん、って何をムカついているのか聞いたり、謝罪をしないのですか?」
ユリナの疑問に、シンジは肩をすくめる。
「だって、目は睨んでいるけど、口元は緩んでいるからな」
シンジの指摘に、ユリナは固まる。
うにゅうにゅと口を動かし、顔はどんどん赤くなる。
「……そういうところですよ」
ぽつりと、小さな声でつぶやいた。
そして、ふうと息を吐き、気合いを入れるように頬をたたく。
「とにかく、私が勝ったんですから、デートは覚悟していてくださいね。無事ですむと思わないように!」
そんな、とてもデートへの誘い文句だとは思えないような発言を、ビシッとユリナはシンジに告げた。
しかし、それを聞いても、シンジはただ苦笑しているだけである。
「……なんですか? 何かあるならはっきりと言ってください」
「……いや、言えないんだけど……まぁ」
シンジは、言葉を一度切った。そして申し訳無さそうに言う。
「惜しかったね」
ユリナの手に、軽い衝撃が走る。
その手は、ユリナがビシッとシンジに告げた際に使った手とは逆側で、その手には、飴の形をした杖が握られていた。
だから、つまり、衝撃の正体は、杖だった。
杖が、ユリナの頭上高く回転している。
弾かれたのだ、何らかの打撃で。
その事態をユリナが脳内で認識した頃には、終わっていた。
「っつう!?」
ぎっちりと堅く、ユリナの口と手と足と体に、布が巻かれていく。
布は、チラチラと色を変えていた。
エリーのスカーフだ。
完全に、文字通りスカーフから手も足も口も出せなくなり、ユリナはそのまま地面に倒れる。
何が起きたのか。
目だけは何も巻かれていなかったユリナは、答えを見て驚愕する。
(……なん……で?)
倒れたユリナの隣には、閉じこめられているはずのセイが立っていた。
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