第307話 ミユキがエリーと戦う
「エリーさんが、なんでここに?」
突然のエリーの登場に、ミユキは困惑する。
「いやいや、私もパーティーに来ていたでしょ? 忘れられた? ショックだなー……って違う? 10代の女の子達のお遊びに、20代のお姉さんが参加するなよって意味だと、マジでショックなんだけど……」
よよよ、とエリーは泣くマネをする。
「いや、そうじゃなくて、なんで私たちより先に明星さんの所に……」
「なんでって、えー、それはショックだなぁ。本当に、そんな質問されるなんてお姉さんショックだぁ」
エリーが泣きマネをやめた。
冗談のような軽い雰囲気が、一瞬で変わる。
「お姉さん。本物の軍人だよ? レベルアップとか『神体の呼吸法』とかなんとかで、ちょっと身体能力が高くなった程度の平和ボケした子供に遅れをとるなんて、本当に思っているのかな?」
ピリピリと感じる気迫に、ミユキは思わず身構えた。
「移動する物体の速度と角度から、落ちた場所の大体の位置を特定するなんて、当たり前に出来るんだよ。痕跡を残さずに道を移動するなんて常にしていることなんだよ……本物(プロ)を、ナメるなよ?」
「……すみませんでした。でも、明星さんをこっちに渡してくれませんか? ついでに、ミナミも解放してください」
謝罪の言葉を口にしながらも、ミユキの目は力強くエリーを見ている
「……あれあれ? ナメるなって話を聞いていたのかな?」
ニッコリと笑顔を深めるエリーは、少しだけ腰を落とす。
「いや、本当にナメている訳じゃないんですけど……私も譲れないことはあるんで」
ミユキはポケットから赤色と青色の手袋を取り出して着けはじめる。
「……それは」
「明星さんに包丁をもらったんですけど、どうも護身用を兼ねていたみたいで……でも、包丁は料理に使うものですからね。料理なんて別に好きでもないですけど、これでもこの年まで包丁を振るってきたので、包丁を料理以外に使いたくないなって……」
手袋は、それぞれ赤い炎と青い氷を纏っていく。
「そうしたら、これをくれたんですよ。元々は自分の武器にするつもりだったって」
ミユキは両手の拳をぎゅっと握った。
「何それ! いいな、ミユキン!」
ミユキの武器を見て、逆さ吊り状態のミナミがうらやましそうに声を上げる。
「お姉さんもうらやましいんですけど。お姉さんがもらったの、この透明になるスカーフだけだよ?」
エリーも、ミユキがシンジから二つプレゼントをもらえたことに、不満を述べる。
「それは透明になるんじゃなくて、周囲の色と同化するだけだけどな。ってか、そんな羨ましいとか言われても……飾堂さんの満足するものをあげられなかったみたいだし。それに、護身用につかってくれないなら、意味ないなってさ」
「明星君が皆に護身用の武器をプレゼントしていることは知っていたけどねぇ……差をつけるのはあまりよろしくないよ?」
「そうですよ、明星さん。女の子は、そういった細かいところも気にするんですから」
「反省します」
シンジが、エリーとぶら下がっているミナミに頭を下げる。
「……あの、ちょっといいかな?」
完全にミユキを無視して会話を始めた3人にミユキが話しかける。
「今からバトル!って感じの空気だった思うんだけど、これは私が間違っているのか?」
「へ? ああ、いやいや。何も間違っていないよ。大丈夫。大丈夫」
ミユキの指摘に、エリーが慌てて構え始める。
「ごめんごめん。えーっと、ミユキン! 助けてー!」
ミナミが悲痛に聞こえなくもない声でミユキに助けを求める。
「……とにかく、飾堂さん。足下に気を付けてね」
シンジは、いつもと同じ調子でミユキにアドバイスした。
「……なんか調子狂うな」
ミユキは一度肩を落としたあと、気合いを入れ直すように顔を上げる。
「とりあえず、行きますよエリーさん。明星さ……いや、二人をこっちに渡してもらいます」
ミユキは拳を握る。
「しかし、ミユキちゃんにまでモテるなんて、やるねぇ、シンジ君。この色男」
「いや、それほどでも……」
「いいから! 行くぞ!」
あははと笑い出した二人……もとい、エリーに向かって、ミユキは駆けだした。
ミユキが走り、腕を振ると、炎が猛り、氷の結晶が煌めいていく。
「うぉおおお!」
シンジが、朱馬と蒼鹿の代わりに用意した手袋は、間違いなく強力な武器だろう。
戦いの素人とはいえ、ミユキも少しはレベルを上げている。
一歩、二歩、三歩。
そして、ミユキの体は宙に跳んだ。
高く、高く、エリーの遙か頭上へ。
上は、人間の死角の一つだ。
「ぉぉぉぉぉおおお」
ミユキは両手を下へ、エリーに向ける。
「っぉおおおおおおおおお」
そして
「おおおおおおおお……お?」
そのまま、ミユキの体はエリーの頭上を越え、赤いパネルの所まで、つまり、ミナミと同じ場所まで行き、ミユキは宙づりになる。
「……へ?」
「……何しているの、ミユキン」
呆れた顔をミナミは浮かべる。
ミユキの足には、ミナミと同じように、白色のロープが結んであった。
「ぷっあはははは! いや、シンジ君に注意されても、気を付けていないな、って思っていたら、まさか本当にすぐ足下の罠に気づかずに突っ込んでくるなんて……あはははは」
「あー……だからいったのに」
エリーはケタケタと笑い、シンジは顔に手を当てていた。
「あーあ。さて。これで二人は片づけたし、これから本番。残りの二人はつぶし合っているから、その間に……」
エリーは笑いすぎたのか、目に浮かんだ涙を拭う。
そんなエリーの背後には、セイが立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます