第306話 ミナミがダイブ

「ちっ……雪が積もってきたな」


 足首まで埋もれる雪に、ミユキは舌打ちをする。


「やっぱりマスの上を歩いた方が早いって」


「……いや、あれは怪しいだろ」


 ミユキは、雪がまったく積もっていないマスを横目でみる。

 青色や黄色や赤色や緑色や。

 色とりどりのマスの横を、ミユキ達は歩いていた。

 雪がちらちらと降っているのに、マスの上には何も積もっていない。


「まぁ、そろそろ到着するはず……」


 さくさくと、誰の足跡もない白い道を、二人で歩いていく。


「あ、いた!」


 ミナミが、少しだけうれしそうに声を上げた。


 雪が積もらない緑色のマスの上。


 白いモコモコとした衣装に身を包んだ小さなシンジが、ちょこんと座っていた。


「ん? あ、豊橋さん。飾堂さん。やっほー」


 小さなシンジは、二人に気がついてその小さな手をぴょこんと上げる。


 そして、そのまま、元気よくぴょこぴょこと手を振った。


 そんなシンジを見て、ミナミとミユキは固まってしまう。


「うわっ……ヤバい。襲う……拉致……捕獲……いや、確保……違う、保護しないと」


「訂正する前の言葉がヤバすぎて、保護の意味もゆがんで聞こえるぞ」


 ギラギラと目を輝かせている同級生にどん引きしながら、ミユキも小さなシンジを見つめていた。


 白いもこもこの衣装もプラスとなり、実に可愛らしい容姿だ。


 肌に刺す寒さもあり、正直、小さいシンジをぎゅっと抱きしめたくなってしまう。


 そんな自分の欲望を、ミユキは必死に首を振って追い出す。


「さすがに、変態っぽい。それは変態っぽい」


 ミナミに聞こえないくらい、小さな声で邪気を払う念仏のようにミユキはつぶやいた。


「うへへへ……明星さん……いや、シンジちゃん! お姉さんが今行きますからねー!!」


 そのすぐ横で、ミナミは自分の欲望も抑えずにシンジに向かって走り出していた。


「……お、おい! バカ!」


 完全に自分の欲望を抑えるのに必死になっていたミユキは、ミナミの暴走を抑えることを失念していた。


「シーンジちゅわぁぁぁん!」


 ミナミは助走をつけると、シンジに向かって高く高くジャンプした。


 両手をつけて、プールに飛び込むように。


 どこぞの怪盗が、女性に向けてダイブするように。


 ミナミは高く飛んだのだ。


 本当に、高く。

 それは、レベルを上げていたミナミの身体能力で飛べる高さを、ゆうに超えている高さであり。


「んんんんん………………んん!?」


 その高さのまま、ミナミの体はシンジを通り過ぎ、シンジが座っている緑色のマスを超え、まったく違うギラギラと光る赤いのマスの上で、逆さまに宙吊りになっていた。


「……へ? 何、どうゆうこと!?」


 完全にシンジへの興奮が冷め、逆さまになっている自分に、ミナミは狼狽える。


「あ、足に何か……ロープ!? え、ちょっと、ミユキン! 助けてぇぇ!!」


 ミナミは自分の片足に白色のロープが結ばれていることに気がついて、ミユキに助けを求めた。


「……へ? あ、ああ。ちょっと待ってろ。今行くから……」


「……飾堂さん、ストップ」


 そのまま進みだそうとしたミユキを、シンジが止める。


「ん? どうしたんだ明星さん? 豊橋が助けを求めているんだけど……」


「友達を助けたいって飾堂さんの正義感は尊重するけど……もうちょっと色々考えた方がいい」


 シンジは、少しだけ困ったように、笑顔を浮かべて言う。


「……それって、どういう……」


「……こら。シンジくん。君は賞品なんだから、中立じゃないとダメでしょ?」


 ミナミでも、ミユキでもない女性の声が突如聞こえてきた。


「って、言ってもね。いくらなんでもあのままじゃバランスが悪すぎるでしょ。飾堂さんはほとんど実戦経験が無いんだから」


「……まぁ、あの子だったら。あの程度のアドバイスがあってもいいか」


 何かを翻すような動作をしながら、シンジの隣に、金髪の女性が現れる。


「……エリーさん!?」


 現れたのは、黒いサンタのコスチュームに身を包んでいるエリーだった。

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