第303話 ミユキとミナミが手を組む
「いや? 全然。ほら、ミユキンも知っていたと思うけど、私、学校じゃ真面目なキャラだったでしょ?」
「うん、いやそうだったよな? だから、聞いているんだけど」
人付き合いが多い方ではなかったが、だからこそミユキは周囲の人の観察をしていた。
そのミユキの記憶では、ミナミは物静かな女子生徒だったはずなのだ。
「うーん。明星さんとか山田さんが言っていたけど、今って欲望が力になる世界なんでしょ? それのせいなのか、押さえていたことを我慢出来ないというか……我慢する必要がない、って気分なんだよね」
「……我慢ってことは、元々その変態ではあったってことか」
ミユキは、呆れたように肩を落とす。
「そりゃ、小説とかマンガとか映画とか、色んな創作物に触れていたから。色々妄想たくましくなりますよ」
「自分の変態を創作物のせいにするなよ」
「おっしゃるとおり」
ミナミはアハハと笑う。
「……そういえば、その彼氏には会いたいとか思わないのか? なんだっけ……紙林だっけ? となりのクラスの、あの優しそうなヤツ」
「あー……別にいいかな」
少しだけ寂しそうな困った顔を見せた後、ミナミは言う。
「こんな状況じゃ、死んでいる確率が高いだろうし、生きていたなら、生きていたで……さ」
ミナミの答えを聞いて、ミユキは自分がうかつな質問をしたことに気がつく。
シンジの話では、死鬼状態のミナミ達を保護したとき、生き残っていた生徒達にミナミ達の処遇を質問したのだそうだ。
結果として、全ての生徒がシンジに丸投げすることを選んだらしい。
あのときの状況から考えれば、その選択は決して間違ったモノではないのだが、それでも、結果としては、ミナミの彼氏、紙林はミナミを見捨てたことになる。
「……恨んでいるか?」
ミユキの質問に、ミナミは首を振る。
「全然。多分、そうするのは当たり前だろうから」
ミナミは一度口をつむぐと、再び開く。
「さっきミユキンが紙林くんのことを優しいそうって言っていたけど、今考えると、紙林くんは、優しいじゃなくて、弱い人だったんだよ。物腰が柔らかくて、ニコニコして……私みたいな女の子にも、ね。でも……」
「……でも?」
「私と紙林くんは、紙林くんが告白してきたから付き合うようになったんだけどさ。私と付き合いたい理由が、私が優しそうだったから、だったんだよね」
ミナミは、自嘲気味に笑う。
「私もはじめての告白だったし、付き合っているときは……というか、こうして、死んで、生き返る前は気にしていなかったんだけど、『優しそう』だったから付き合うって、何? それってつまり、『優しそう』な女の子だったら、自分の思うとおりに出来るとか考えていたってこと?」
「……あー……うーん」
そこまで紙林が考えていたと捉えるのは考えすぎな気もするが、しかし、その思いがないとは言い切れないだろう。
「そう考えると、優しそうだったのも……優しかったのも、紙林君が弱かったから。喧嘩どころか、言い合いもしたことなかったし。私みたいな『優しそうな』女の子に、強く出られなかっただけ、なのかなぁ……って」
ミナミの出していた結論に、ミユキは何も言えなかった。
「だから、今度は優しくて強い明星さんを攻略しないとね!! あらゆる手を使って!!」
「ちょっと待てやコラ!!」
しかし、この結論には恐るべき反射速度でミユキはツッコんだ。
「なんで、そうなるんだ!? どこから明星さんんが出てきた!?」
「いや、明星さん強いし優しいから、狙わないと。ミユキンも狙っているでしょ?」
「狙って……うぐぐ……」
何も答えることが出来ず、ミユキの頬は赤くなる。
「じゃあ、張り切って明星さんを捜すよ! 二人で時間までギューッと抱きつけば、二人にデートの権利がもらえるはず!」
「それアリなのか!? ルール的に!」
「ナシなら、勝った方がデートのシチュエーションでもう一人を呼べばいいんだよ。とにかく、二人で協力しないと、常春ちゃんって子や、水橋ちゃんには勝てないよ!」
「ううう……」
「どうする、協力する?」
ミユキは顔を真っ赤にしながら、数秒思考する。
「わ……わかった。でも、協力するにしても、何をするんだ? というか、明星さんがどこに落ちたかなんて……」
「うふふん……実はこの明星さんからもらったメガネ、距離とかまで測れるんだよね。明星さんが投げ飛ばされたときに、どこら辺に落ちたのか大体の場所はわかるんだよ」
「マジか」
「じゃあ、行くよ! ますは明星さんを捜して、その後明星さんを人気のない場所に拉致。制限時間までシッポリと楽しむよ!!」
「おー! って言うと思うなよ!? なんだ人気のない場所って、楽しむって。何をするつもりだ!??」
元気よく進み出したミユキの後をミナミは追いかける。
一方、マドカは、完全に気を失ったまま、その場に放置されていた。
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