第301話 コタロウがヒロカとネネコと話す

「おおー派手だ派手だ」


 セイとユリナが起こした爆発を見て、コタロウがうれしそうに歓声をあげる。


 空中にある巨大な砂時計の横に、いつの間にか観戦席のようなモノが作られ、そこにコタロウとヒロカとネネコは座っていた。


「ここまで熱風が……スゴい」


「うわぁ……あれ、マドカさん大丈夫かな」


 コタロウから席を一つずらした位置にいるヒロカとネネコは、下で起きている戦闘に顔をひきつらせる。


「さっそく、今日のパーティーで一番の好カードが始まったんだ。二人ともしっかり見ていた方がいいよ」


「好カードって……そういえば、いいんですか?」


「ん? 何が?」


 若干、体をコタロウから遠ざけるようにしながら、ネネコがコタロウに質問する。


「こんな、遊びみたいなことをしていて。その……あの、兄を……殺さなくていいのかなって」


 噛むように、ゆっくりとしたネネコの質問に、コタロウは流暢に答える。


「シンジがどうでもいいって言っていたからね。もし、シンジが『どうしても許せない』とか言っていたら、あの程度の男、即行でこの世の地獄を見せた後に跡形もなく消し飛ばしているけど」


 セイの見立てでは、ヒロカでは無理と判断された相手を簡単に消し飛ばすと言ってのけるコタロウに、ヒロカは疑惑の目で質問する。


「……そんな簡単に出来るんですか? 確か、山田さんは弱っているって話でしたけど」


「いくら弱っているって言っても、虫けらを潰すのに苦労する恐竜はいないでしょ」


 子供の姿のコタロウは、当たり前のように表情も変えずに言い切った。


 その顔が、決して冗談を言っている顔でも、高慢な顔でもなく、ただ事実を告げているのだとヒロカはわかり、息をのむ。


 一方、ネネコは少しだけ思案する顔を浮かべると、すぐに口を開いた。


「……じゃあ、そんなに簡単なら、すぐに殺してくれませんか」


「ネネコ」


 自分の兄を殺して欲しいというネネコを、ヒロカ気遣うように見る。


「あの兄は……人は、男は、生きてはいけない人間です。すぐに殺さないと……殺せるなら、早く」


 まるで、自分に言い聞かせるように。

 まるで、自分に呪いをかけるように。


 じっくりと、しっかりと、淡々と、兄を殺して欲しいとコタロウに懇願する。


 ネネコの願いに、ヒロカは胸が引き裂かれるような痛みを覚え、顔がゆがむ。


 そんなネネコの願いを聞いて、コタロウ一度だけうなづいて、言った。


「そう。なんで?」


 コタロウに何を言われたのか。


 一瞬、理解できずに、ネネコと、ヒロカは固まってしまう。


「なんで、って、あの男は、明星さんも、常春さんも、皆を傷つけたんです。その、多分今も別の人を苦しめていると思うんです。都合のいい正義を振りかざして、都合のいいことを言いながら。だから……」


「だから、なんで?」


 再度のコタロウの質問に、ネネコは困惑する。


 一方、ヒロカは、苛立ちを覚えたのか、羽を生やし、コタロウに吠えるように言う。


「だから、ネネコは……」


「自分を傷つけた許せない男がいるから殺してくれって別の男に頼んでいるんだろ? スゴい、その歳で立派な悪女じゃないか」


 コタロウは、実にうれしそうに言ってのける。


 コタロウの言葉に、ヒロカとネネコは完全に動きを止める。


 一呼吸おいて、ヒロカはゆっくり口を開く。


「……いや、それは……ネネコは、ちゃんと別の人のことを……」


「自分がやってほしい事を、やりたいと思っていない他人に強要する。それは立派な悪行だ」


 コタロウは、笑いながら、しかし、しっかりと見下しながら、ネネコとヒロカに言う。


「そのことに気がついていないヤツは腐るほどいるけどな。『やりがい』とか『ボランティア』とか、『正しい』とか『正義』とか。『真面目』で『勤勉』で。『夢』とか『応援』も、『弱者』と『助け合い』で『悪』を隠す。『か弱い女の子』だからって、『男』に頼ってんじゃねーよ、ガキが。自分がやりたい事くらい、自分でしろ。おまえ達が今までどれだけ不幸で傷ついたのか知らねーけど、俺には関係ない」


 暖かさのかけらもないコタロウの言葉にネネコとヒロカは寒気を覚える。

 これまで、ヒロカとネネコは散々男性に傷つけられたが、これほどまでの『嫌悪感』を向けられたことはなかった。


 でも、ヒロカは、悔しさからは口を開く。


「やってほしいことを他人に強要って、山田さんも明星さんにやっているじゃん」


「だから何? 論点をずらすな『正義』の『味方』のクソ雑魚なガキが」


 笑顔で、コタロウはヒロカの反論を切り捨てる。


「……まぁ、それに答えるなら、俺は別に『正義』じゃないしな。むしろ悪人って自覚はある。そんな悪人と友人だって言ってくれるんだから……シンジは良いヤツだよな」


 コタロウは、完全にヒロカとネネコから目を外し、シンジを飛ばした方向を見る。


「……ああ、そういえば先に警告しておくけど、シンジにあの雑魚を殺すようにお願いなんてするなよ」


 思い出したようにコタロウは言う。


「シンジの事だから、お願いされれば何だかんだ動くだろうが……そんな事をすれば、俺がおまえ達を傷つける。傷が付いた、って気がつかないくらい優しく、シンジも気にしないように、跡形もなく、地獄に落とす」


 どんな目に遭うのか、まるで想像が出来ないが、逆にそれが恐ろしく思えるコタロウの口調に、二人は完全に萎縮した。


 そんなヒロカとネネコを見て、満足したようにコタロウはうなづくと、視線を下に向ける。


 下では、まだセイとユリナの戦いが続いている。


 轟音と爆音と、雷鳴と閃光が入り乱れ、その激しさは増していく。


「常春ちゃんと水橋ちゃんの戦いはほぼ互角……いや、さすがに常春ちゃんが一枚上手かな? でも、ルールは一時間後にシンジを抱きしめていていること。二人の戦いが激しければ激しいほど……長引けば長引くほど、別の子が有利になる」


 コタロウは、セイとユリナの戦いから目を外し、森の方を見る。


 そこでは、ミユキとミナミが走っていた。

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