第300話 本当のクリスマスパーティーが始まる

「せ、先輩が子供に!?」


「……はぁっ」


 マドカは驚き、セイは膝をついた。


「セ、セイちゃん!? 大丈夫!??」


「か……かぁ、かぁー……かかぁぁかぁーかぁーーーぁかぁぁぁーーー……」


「いや、カラスかな?」


 おそらく、可愛いと言いたいのだろうが、興奮しすぎてセイの呂律が回っていない。

 そして、その目には、感涙の滴が溜まっている。


「……セイは、なぜ泣くのか」


「セイちゃんの勝手でしょう……じゃなくて、ユリちゃんも異様にニヤニヤそわそわしているよ!?」


 そんなマドカも、キョロキョロと子供化しているシンジを気にしている。

 ミユキも、ミナミも、エリーも、どことなく、落ち着きがない。


 一方、子供化したシンジは、コタロウに食ってかかっていた。


「な、なんだこれ!? おい! どういうつもりだ!? こんなの聞いてないぞ!!」


「案の定、お菓子の家の反応が悪かったので、急遽別の賞品の用意してみました」


「案の定なのに急遽ってオカシいだろうが!! というか、別の賞品って、まさか、俺か!?」


 そんなシンジの質問に答えるように、コタロウはそのまま、皆に見えるようにシンジを持ち上げる。


「おまっ!? お、降ろせ!!」


 バタバタと暴れるシンジを無視して、コタロウが話し始める。


「さて、見てのとおり、ここにショタシンジがいます。このショタシンジをこうして……」


「おわわ!?」


 ふわふわと、シンジの体が宙に浮く。


「こうじゃ!!」


「おわっーーーーーー!?」


 そして、ものすごい勢いでシンジの体が飛んでいった。


「先輩ーーー!?」


 飛んでいったシンジには目も向けず、コタロウが話し始める。


「さて、これから本当の『素敵なプレゼントを見つけ出せ!ドキドキ!!クリスマスパーティー』のルールを説明するよ。あ、もうさっきのすごろくのルールは忘れていいから。あれはシンジの目を誤魔化すためのフェイクだし」


 ふよふよと、コタロウと、ヒロカとネネコの体が浮き始める。


「ルールは簡単。これから一時間後。この砂時計の砂が全て落ちた時に、この空間のどこかに飛んでいったシンジを見つけて、シンジを抱きしめていた人が勝者だ。優勝だ」


 ポンと、大きな砂時計が空中に現れる。


「優勝賞品は『シンジと丸一日、好きなシチュエーションでデートする権利』だよ。場所は俺が指定した空間を作るし、ショタシンジとデートを希望ならシンジをショタ化する」


 今日一番のどよめきが、女性陣から起きる。


「ルール説明は以上だ。じゃあ、メリークリスマス」


 砂時計が大きく回転し、砂が落ち始める。


 同時に、時間が表示された。


 残り、59分59秒。


「え、えっと、どうする? とりあえず、明星先輩を探しにいかないと……」


 マドカは、周囲にいる他の人たちを見回しながら、誰ともなく提案する。


「……そうですね、まずは……」


 そんなマドカの言葉に応えるように、ユリナはゆっくりとマドカに近づき、セイは立ち上がる。


「じゃ、じゃあ、手分けし……おふっっ!?」


 そして、ユリナとセイは、マドカの腹部を思い切り殴った。


「な、なんで……」


 疑問の言葉の残しながら、マドカが崩れ落ちる。


「この空間の広さは4平方キロメートル。広いと言えば広いですが、レベルが上がり、『神体の呼吸法』を使える私達なら、一時間もあれば人一人、一人で探せる広さです。ましてや飛ばされた方向も分かっているんですし」


「……それに、ルールは『砂時計の砂が全て落ちた時』に、先輩を抱きしめていた人が勝者。だから、一時間が経過したあとに、ゆっくり探し出すことも可能。つまり明星先輩とデートをするためには……」


 ユリナとセイの、言葉が重なる。


「邪魔者は全て排除する」


 ユリナは、頭に挿していた棒付きキャンデーの形をした簪を手に取る。

 セイは、桜の花びらがモチーフになっているネックレスに手を触れた。


「……怪我をしたくないなら、今のうちに降参しなさい。多少は強くなっているようだけど、まさか、勝てるつもりじゃないわよね?」


 セイの提案を、ユリナは鼻で笑う。


「ご心配なく。セイがあのシシトに捕まって四苦八苦している中、私は……シンジと二人で仲良く修行していたので」


 ユリナがニコリと笑う。


 完全に、セイの堪忍袋の尾が切れる音がした。


「ぶっ殺す!!」


 セイの周りに桜の花びらのようなモノが舞い、ユリナの手に握られていた、棒付きキャンディーのような簪は、大きな杖に変化する。


 二人の周囲には爆音と雷鳴が轟き、一瞬で地面に大きな穴が空いた。

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