第287話 パーティーの衣装がカッコいい
温泉で入浴を終えた三人は、これからクリスマスパーティがあるというので、ドレスに着替えた。
セイは赤、ユリナが群青、マドカがピンクのパーティドレスだ。
セイのドレスは、体のラインが出ているタイトなドレスで、スタイルの良さを活かしたデザイン。
ユリナが着ているドレスはレースで肌が透けて見え、大人っぽい印象を与える。
マドカはふんわりとした印象の可愛らしいドレスだ。
三人とも、とても素晴らしい衣装を身に纏っていたのだが、しかし、彼女たちよりも目を奪う存在が彼女たちの元に現れた。
「……はぁ」
「……ふぅん」
セイとユリナが、妙に色っぽい吐息を漏らす。
彼女たちは、完全に目の前にいる人物に目を奪われている。
「お待たせ。おぉ……やっぱり三人がドレスを着るとめちゃくちゃ可愛いな」
黒いロングコートのような衣装に身を包んだシンジだ。
細身の体にピッタリとフィットしている黒い布地は、かなり上等なモノなのだろう。
布地の光沢が、オパールのような七色を発している。
髪も、しっかりとジェルで固められていて、普段のぼさぼさしているだらしない感じが、一切ない。
セイたちのドレス姿に対するシンジの感想も、届かないようで、ユリナは頬に手を当てたまま、シンジの服装に関する感想をつぶやく。
「グルジアの民族衣装、『チョハ』みたいですね。布地から何まで、細部に違いはありますが。これは、なかなか……そう、なんというか……ふぅ」
「……ユリちゃん、語彙を失いすぎでしょう」
妙に艶のあるため息をつくユリナに、マドカが呆れ気味に目を向ける。
もっとも、セイに至っては、語彙どころか立っていることも辛いのか、片膝をついて満足げにほほえみを浮かんでいた。
『悔いはない』
という、文字が顔に書いてあるようだ。
「……まぁ、こんなにカッコいい衣装を着ている先輩は珍しいから、こうなるものわからなくはないけど……それ、どうしたんですか?」
この場にいる女性陣で、唯一マトモな会話が出来る状態のマドカが、シンジに聞く。
「ああ、コタロウが、せっかくのパーティだからって着るように言われてさ。あんまりこういうの慣れてないから、ちょっと気まずいというか……」
落ち着かない様子でシンジが袖やら裾やらに目を移す。
「へぇーでも、似合ってますよ。大丈夫です」
にこりとマドカがシンジに微笑むと、同時に、マドカの肩が掴まれる。
掴んだのは、目を細めているユリナだ。
「気安く笑顔を振りまくな、って言ったのを覚えていないんですかね? アナタは?」
「……へ? いや、似合っているって本当に思ったし、っていうか、もしかして、ユリちゃん、あの時笑顔を振りまくなっていったのって……え? あのときから?」
「黙りましょうか、少し。いえ、永遠に」
「え? 冷たい……きゃぁーーーー!?」
ユリナに掴まれた肩が凍り始めたため、マドカは全力で逃げ出す。
それを、ユリナは追いかけ始めた。
「……ユリナも、久々に親友と会えて、嬉しいんだろうなぁ」
ウンウンとシンジは頷く。
「そんなほのぼのとした顔で見ていないで、助けてください!!」
マドカは必死にシンジに助けを求めた。
「……シンジに助けを求めるなんて、良い度胸ですよ」
「ひぃー!?」
ユリナに掴まったマドカのピンクのドレスが凍り付き、白に変わろうとしている。
「このまま、お前を氷人形にしてやろうか?」
「本当にしないで!! きゃーきゃー!!」
怪我をしない程度までマドカを凍らせたあと、ユリナはマドカから手を離す。
「……さて、いきましょうか。マドカはそのままそこにいてください。私たちはおいしいご飯を食べてきます」
「ヒドいって! ちょっと! お願いだからどうにかして!!」
ギャイギャイとユリナとマドカが言い合いを始める。
「あー……さすがにかわいそうだから、そろそろやめよう?」
見ている分にはコミカルなやりとりではあるが、そろそろ行かないとコタロウも待たせている。
シンジがマドカの氷を解凍しようと手を伸ばすと、ユリナがすぐに指を鳴らした。
すると、マドカを凍らせていた氷が跡形もなくなる。
ふんと、ユリナは鼻息を鳴らした。
「さ、寒かった。お風呂上がりなのに、湯冷めってレベルじゃないよ」
ガクガクとマドカは震える。
「あー……やりすぎじゃない?」
「……そうですね」
ユリナは、気まずそうに頬をかく。
「こりゃあ、まだまだ『修練』が必要みたいだね」
シンジの言葉に、ユリナは顔を赤くした。
「……はい」
「……なんでそんなに照れているの?」
「そ、それは! だって……というか、なんでシンジはそんな平気そうに」
食ってかかるユリナを不思議そうに見ているシンジ。
震えているマドカに、セイはまだ語彙を失ったままだ。
あまりにカオスな空間。
これからパーティだというのに、その場所までたどり着けない。
そんな、どうしようもない事態をどうにかしてくれたのは、彼だった。
「そう! 僕! 皆の味方(アイドル)コタロウくんだよ!!」
雪だるまのイメージなのか、白いモフモフとした衣装に身を包んだコタロウが現れた。
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