第264話 マドカが破壊する

 連続して、今セイがいる建物の至る所から爆発音が響いていく。

 何が起きたのか、耳を塞ぎながらセイはマドカを見た。


「この十日の間に植えていた植物を成長させたの。文字通り、爆発的に」


 セイは振り返り、先ほどの部屋を見てみる。

 すると、部屋から大量の竹のような植物が、ツタのようにうねりながら伸びていた。


「竹が家を崩壊させた、なんて話があるけど私がいろんな植物と交配させたこの壊竹(かいちく)はその程度じゃないからね。ビルだろうが町だろうが……問答無用でぶっ壊す」


 よく見ると今いる建物の至る所から竹のようなツタのような植物、マドカが言うには壊竹が生えて暴れている。


「これは……大丈夫なの? 逃げ道とか音とか」


 どう考えても、こっそり逃げ出すという状況ではなくなっている。


「それに、確か女の人が別の部屋にもいるって言っていたような……」


「大丈夫大丈夫。その人たちはちゃんと逃がしてくれたから。言ったでしょう? 手筈は整えているって」


 そう言ってマドカが進んだ先の階段は、そこだけ何も生えていなかった。

 マドカは何の迷いもなくその階段を下りていく。


「逃がしてくれたって……誰か協力している人がいるの?」


 マドカがiGODを触っていたのを思いだしながらセイは聞く。


「……半蔵さんとかその部下の人たちとか、色々。詳しくはあとでね。とりあえず今は逃げるよ」


 階段を下り、セイたちは外に出た。


「……うわっ」


 そして、思わずセイは声が出た。


 マドカが手筈を整えているというのは嘘ではないようだ。

 外に出てセイが見たのは……チラチラと雪が降る中、見える範囲の全ての建物や地面から竹が生え、火災が起き、人々の悲鳴や怒号が響くパニックだった。

 植物が生えただけではここまでの火災は起きないはずだ。


「セイちゃん、こっち!」


 マドカが、セイを呼んでいる。

 セイはすぐにそちらに向かった。

 不思議な事に、おそらく聖槍町の至る所が騒ぎになっているはずなのに、マドカが向かう先には人の気配がほとんどない。

 そんなセイの疑問を感じ取ったのか、マドカが走りながら簡単に解説する。


「……この先は海しかないから。人が住んでいる建物は限られているしね。さっきまでセイちゃんがいたヤクマたちが病院って言っていた建物は、他の人たちが使っている建物からちょっと離れているんだよ。だから、他の人たちが使っている建物の間に火災を起こして竹や植物で通路を防ぐと、簡単に分断出来る」


 ヤクマたちがなぜ離れた場所の建物を使っていたのか。その理由をマドカは話さなかった。話さなくてもセイも察したが。

 そんな話をしながら走っていると、港についた。漁船などが並んでいる。


「……船。もしかして、船で逃げるの?」


 セイの問いに、マドカは答えない。

 答えないまま、マドカはセイの方を振り向く。


「セイちゃん。今周りに変なモノとか飛んでいる? 蠅とか、そんな生き物……」


「……いや、別にいないけど」


 いくら港と言っても今は冬だ。雪も降っている。

 そんな生き物飛んでいるわけがない。


「セイちゃんでも感じないなら大丈夫か」


「……もしかして、岡野さんを警戒しているの?」


 確か、ユイは生き物もカメラに出来ると言っていたはずだ。


「うん。元々岡野さんの槍の能力は触れた生物の視覚情報を自分のiGODに表示する能力だから……」


 言いながら、マドカは地面に手をつける。


「どうした……」


 セイの言葉が途中で途切れた。

 ものすごい衝撃音が背後から聞こえたためだ。

 振り返ると、今まで通ってきた道が大量の竹ツタ植物、壊竹で塞がれていた。


「……ここまでするの」


「ここまでしないとね」


 ぽつりとつぶやいたセイにマドカは苦笑を浮かべながら黒い布を渡す。


「……これは?」


「岡野さんの槍は生物の視覚情報を見る事が出来るから、念のため。少しの間だけだから」


 ユイの武器の能力がセイもかけられていることを警戒しているのだろう。

 これで目を隠せということだ。

 今までそこまでしなかったのは、これからもしかしたら逃げるためにとても重要な事があるのかもしれない。

 マドカから黒い布を受け取り……そのままセイはそれを見つめる。


「あー……もしかして、まだ私を信用していない?」


「エー全然ソンナコトナイヨー」


「カタコト! もう! 私、裏でセイちゃんのために色々頑張っていたんだよ!」


「頑張ったって何を?」


「え? 脱出のために町に植物を植えたり、デトックスウォーターを作ったり……」


 セイはトウカが持ってきた果物が沢山入っている水を思い出す。

 マドカが作ったモノにそっくりだと思ったが、どうやら本当にマドカが作ってくれていたようだ。


「アレね。アレは確かに美味しかったわ。ありがとう」


「本当に!? よかった!」


「でもアレって私にトイレをさせるためだと思えなくもないのよね」


 セイは冷たい目でじろりとマドカを見つめる。


「違うよ!? 私もセイちゃんが盗撮されているのを知ったのはトウカさんに聞いてからだからね! ろくなモノを食べられないだろうから元気を出してもらおうと出来の良いものを優先してセイちゃんに送っていたのに……」


 マドカはもう涙目になっていた。


「ふーん……」


「ふーんって! なんで私はここまで信用されないかな!? 何? 私何か悪いことした!? 向こうもこっちも疑惑の声が凄まじいし! 私、敵じゃないからね!」


 向こうとかこっちとか、マドカが何やら意味不明な事を言いながら嘆き始めた。

 それを無視していると、何やら人の気配がしてセイはそちらを向く。


「……遅い! 何しているの!」


 そこには、やけに胸の大きな女性が立っていた。

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