第263話 マドカが現れた

 バーンと登場したマドカは、えへんと胸を張った後、しばらくしてキョロキョロと部屋の中を見渡す。


「あ、あれ?」


 首を絞められて倒れているヤクマ。

 腕を無くし、血塗れで倒れているカズタカや男たち。

 それらを確認して、マドカは気まずそうに笑う。


「あ、あー……もしかして、セイちゃんだけでもどうにかなっていたかな?」


 そんなマドカの様子に少々呆れながらセイはふぅっと息を吐く。


「いや……まぁ、手間が省けたから助かったといえば助かったわね。それより、助けに来たって……アナタ、シシトの味方じゃないの?」


 ジロっとセイは軽くマドカを睨むが、その目を受けて、マドカはむっと頬を膨らませる。


「……セイちゃん! いくら何でもヒドいよそれは! 明星先輩を殺した人の味方をするわけないじゃん! てか、やっぱり私のメッセージ聞いてなかったね!?」


「……メッセージ?」


 何の事か分からなくて、セイは首をかしげる。

 そのセイの様子に、マドカははぁっと肩を下げた。


「……やっぱり。何となくパーティーの様子からも分かっていたけどさ。結構大変だったんだよ? 気づかれないように、でもセイちゃんには伝わるように、セイちゃんのお母さんからの追加のメッセージと私は仲間だよって内容を盛り込んでお手紙書くの」


 どうやら、マドカはパーティーの時に読まれた手紙にセイ宛のメッセージを紛れさせていたようだ。


ちなみに内容としては『お母さんは言いました。大切な人が傷つけられたら怒るべきだ。でも、怒るタイミングは考えなくてはならない』

『あの日皆で食べたうどんの味を今でも覚えています。大切な友達を傷つけた人を、私は許さない』

といった内容を、シシトを褒める言葉に混ぜたモノで、聞いていたとしても、セイが気付くか微妙ではあったが。


「あー……ゴメンなさい。聞いてない」


「だよね! もういいよ! それより早く逃げよう!」


 少々やけ気味にマドカは言うと、何やらリモコンのようなモノのスイッチを押す。

 すると、セイの手足、それに頭についていた拘束具が外れて落ちた。


「……これは?」


 取れた拘束具を不思議そうに見つめてセイはつい尋ねてしまう。


「ロナちゃんが作った拘束具を操作するリモコン。これを手に入れていたから遅くなったんだよ。ゴメンね」


 言いながら、マドカは落ちた拘束具を回収して自分のiGODに入れていく。


「これ、上着。外、雪降っているから。あと靴」


 マドカはマドカが着ているモノと同じ、白いモコモコとした上着と靴をセイに渡す。

 靴はセイがシシトに捕まる前に履いていたモノのようだ。


「あ、ゴメン。セイちゃん。着る前にセイちゃんの着ている服にリーサイをかけたいんだけどいいかな?」


 言われて、セイは自分が着ている制服を見る。

 確かに、返り血で汚れているし、所々破れたり解れたりしている。


「いいけど……」


 セイが了承すると、マドカは手際よくセイが着ている制服と靴下。それに、了承を得て下着にもリーサイと汚れを落とすジョーキーをかけていく。


「よし。これで大丈夫」


 マドカはふぅ、と息を吐いた。

 その様子と言葉に、セイは少し違和感を覚える。


「大丈夫って?」


 セイの質問に、マドカは少し苦い顔を浮かべながら答えた。

 その手にはiGODが握られていて、指が動いている。どこかへ連絡しているようだ。


「岡野さんが、セイちゃんの着ているモノにカメラを仕込んでいる可能性があったから……その可能性は低いと思うけど、念のためにね」


 言いながら、マドカの苦い顔が暗くなる。

 その視線の先にはネネコがいた。

 ネネコは、あれだけの騒ぎがあったにも関わらず動かないで、ただにっこりと笑って立っている。

 全身、傷だらけで。


「さすがにあんな事をされているのを見たら、止めたと思うんだよ。いくらシシト君でも」


 iGODを懐に入れて、マドカは、ネネコに近づく。


「……本当に、遅くなったね。ゴメンね」


 震えながらマドカはネネコの頬にそっと触れた。

 すると、じっと立っていたネネコの体が崩れるように落ちた。

 マドカは優しく受け止める。


「……おやすみ」


「……何をしたの?」


 マドカが用意した上着と靴を身につけながらいきなり倒れたネネコを怪訝そうに見てセイが尋ねる。


「改良した植物で眠らせたの。傷も治さないと……」


 マドカは持っていた回復薬をネネコにかける。

 全身に出来ていた痣が綺麗に消えた。

 服にもリーサイとジョーキーをかけて綺麗にした。


「……よし、行こう」


 ネネコを背負ってマドカは言う。


「……連れて行くの?」


「もちろん。こんなところにネネコちゃんを置いていけないよ」


 その意見には、まぁ、セイも賛成ではあるが。


「……訂正するわ。連れて行けるの?」


 その問いに、マドカは力強く答える。


「大丈夫。手筈は整えているから」


「そう。じゃあ行きましょう」


 マドカを先頭に部屋を出ていこうとして、セイはちらりと後ろを振り返った。

 そこには、この部屋で唯一無傷な男が……ネモンがいた。

 セイが振り向いた事に気がついて、マドカもネモンを見る。


「あぁ……生き残りがいたんだ」


 ネモンの周りには植物のツタが千切れていて、その手にはナイフが握られていた。

 マドカの植物をナイフで千切って難を逃れたようだ。

 二人に見られた途端、ネモンはビクリと肩を震わせると、慌てたようにしゃべり始めた。


「マ、マドカちゃん! 俺だ! 俺は、有名なアーティストのネモンだよ! ユリナちゃんの元カレの! ネモンだ! テレビとかにも出ていたし、覚えているでしょ? ね? 実は俺はマドカちゃんの事が昔から好きだったんだ! だから……て、手伝うよ! ここから逃げるんだろ? 俺も、俺も……」


 言いながら、ネモンは必死にセイたちから距離を取るように後ずさっていた。

 もう壁が背中に当たっているのに、それでも必死に。

 マドカは先ほど懐に入れたiGODを取り出すと画面を見てまた戻す。


「……行こう」


 そのまま振り返るとマドカは部屋を出ていく。

 それに、セイもついて行く。


「……いいの? あのままで」


 目撃者……などは置いておいて、あの男はネネコにヒドいことしていた人物だ。

 それをマドカは許すと思えないが。


「いいのいいの。もう大丈夫みたいだから、無駄な時間はないし。それに……どうせ滅茶苦茶になるし」


 言いながらマドカは壁に手を触れる。

 その瞬間。

 爆発音のようなモノが先ほどの部屋から響いた。

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