第235話 ユリナが満足する
死鬼化したシンジは、片手でユリナの足首を持つと、もう片方の手で、ユリナのスカートをペルンとめくった。
「ひぅ!?」
めくられた時にシンジの手がお尻に触れ、ユリナはビクリと反応してしまう。
その間に、シンジは大きく口を開けていた。
「あ……ぎゃぁああああ!?」
そして、シンジは食いちぎった。
ユリナのつやつやとした太股を。
走り続けて汗で濡れた美少女の太股を。
一番脂が乗っているお尻との境目をシンジは食べてしまった。
「あ……がぁ!」
痛みを堪えながら、ユリナはすぐにくちゃくちゃと美味しそうに租借しているシンジのおなかに、『魔雷の杖』を当てる。
売っても200ポイントな『魔雷の杖』だが、一応銀色の武器。
シンジに使ってもユリナが感電することはない。
「っっ……!?」
シンジが痺れている間にユリナは無事だった方の足でシンジを蹴り飛ばしてシンジとの距離を取る。
「はぁ、はぁ……」
ユリナは涙目になりながら痺れているシンジを見る。
(……失敗した)
そう反省して、ユリナは立ち上がる。
ユリナの体は小さい。
そして、ユリナはシンジの頭が背中に来るようにシンジを担いでいた。
だから、死鬼化したシンジは、ユリナの足を簡単に掴むことが出来た。
ユリナがそうやってシンジを担いだのは、人間は頭の方が重いため、そうしないと担ぎにくかったという理由と……シンジの無くなった後頭部を見ていたくなかったという理由がある。
だが、それが裏目に出た。
そのような担ぎ方をしたために、ユリナはシンジの死鬼化に気づけなかったのだから。
だが、ユリナもはじめのうちはちゃんと警戒していたのだ。
理科棟の一階でも死鬼化しないかちゃんと見ている。
しかし、ここまでで十分以上経過しているのだ。
ガオマロやイソヤと比べてシンジの死鬼化は時間がかかりすぎている。
それに、シンジは死鬼化するのに頭が半分以上必要だと言っていたのだ。
シンジの頭は吹き飛んでいたはずである。
「……ああ、頭とは首から上、全ての事ですか。脳ではなく。それなら半分以上ありますね」
ユリナは苦笑しながら、ズリズリと足を引きずる。
シンジが死鬼化するのがイソヤと比べて遅かったのは……傷ついている部位の違いだろうか。
頭が半分以上必要と言うことは、死鬼化するのに頭は重要な部位ということだ。
頭が半分以上あっても、半分近く吹き飛んだシンジは、それだけ死鬼化するのに時間がかかったのだろう。
そんな考察は一瞬で終えたユリナは、ちらりと自分の足を見る。
かなり深く、広く食べられたようだ。
出血が激しい。
まるでバケツでぶちまけたかのように血液が飛び散っている。
このままではすぐに意識を失うだろう。
ユリナはiGODを取り出す。
回復薬を購入しなくては。
……ユリナだって、薄々と分かっていた。シンジがいつかは死鬼化するだろうということは。
イソヤの死鬼化が早かったのがレベルのせいだと言うのなら、シンジのレベルなら後頭部が吹き飛んでも死鬼化して不思議ではない。
でも、ユリナはシンジを担いで走った。
学園を出てここまで離れたのなら、どこかに置いていってもよかったはずなのだ。
でも、ユリナは置いていけなかった。
ユリナがiGODの操作をしていると、シンジの喉が、ごっくんと鳴った。
しびれが解けて、ユリナの太股を飲み込んだようだ。
死鬼化したシンジはゆっくりと立ち上がり、ユリナの方を向く。
(……逃げないと)
シンジの顔を見て、ユリナは思った。
目はうつろで、ニヤついている。
あんな顔のシンジは見たことがない。
アレはシンジではない。
別の生き物だ。
太股を治して早く逃げようとユリナがiGODで回復薬の購入ボタンを押した。
その時だった。
「……ユリナ」
シンジの死鬼が、そう言った。
(……え?)
言われた瞬間。ユリナの思考が真っ白になった。
今のシンジは、死鬼だ。
それは分かっている。
でも、言われたのだ。
名前を。
言われたいと、呼ばれたいと思っていた自分の名前を。
完全に、一瞬だけ、ユリナの思考は止まってしまった。
その一瞬の間に、シンジの死鬼はユリナに接近し、ユリナを捕まえてた。
(……しまっ!)
腐ってもシンジの死鬼だ。
その能力は高い。
足を負傷し、さらに一瞬とはいえ思考を停止したユリナなど、捕まえるのは簡単だろう。
抱きしめるようにユリナを捕まえたシンジの死鬼の動きに、ユリナは一切反応できなかった。
(逃げ……)
ユリナは慌てて逃げようとした。
『魔雷の杖』は使えない。充電出来ていない。
なんとかシンジの腕を振り解こうとして力を込めた時だ。
「……ユリナ」
シンジの死鬼に、また名前を呼ばれた。
(……ああ)
そのとき、ユリナの全身から力が抜ける。
(これは、無理だ。もう、無理だ。どうしようもない)
シンジの体で抱きしめられて。
シンジの声で、名前を呼ばれて。
ユリナの体は動かなくなる。
どうしようもなくなる。
(……でも、悪くないですね。最初よりも、悪くない)
ユリナはそのまま静かに目を閉じた。
そして、小さな声でつぶやいた。
「……ごめんなさい……ありがとうございます」
色々な事をシンジからしてもらって……結局言えなかった初めて助けられた時の事。
そのお礼を言ってすぐに、ユリナは首から熱を感じて……その熱が吹き出していくのを感じたが……辛くなかった。
怖くなかった。
ユリナはきゅっとシンジを抱きしめる。
意識を失っていくユリナの顔は……とても満ち足りた顔をしてしまっていた。
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