第204話 埴生が暴れる
ガオマロと埴生の出会いは、ガオマロが銀行を襲撃し、ついでに市内でもトップクラスの美少女がそろっている女原高校に襲撃しようとした時だった。
体中に血と森を抜けたときに付いたのだろう葉っぱや植物の枝をまとった埴生の周りには数人の女子生徒の死体があり、その中心で、埴生はぶつぶつとつぶやいていた。
「マオ……体……首……綺麗な体……マオ……綺麗な……」
埴生の周りで死亡していた女子生徒が死鬼となって動き始める。
すると、埴生はすぐさま「汚らわしい」と叫びながら拳で女子生徒を殴り始めた。
「汚い、汚い……綺麗になるんだ……俺の拳で、先生の拳で、正義の拳で、綺麗に、綺麗に……」
そんな事をつぶやきながら、埴生は女子生徒の死鬼が動かなくなるまで殴り続けた。
そんな埴生の行動を見て、ガオマロは思った。
『最高の仲間だ』と。
それから、ガオマロは埴生をスカウトし、雲鐘学院に連れて帰った。
生徒たちを見守る先生として。
武器を与え、薬を与え、警備室を与え、学院を守る門番の仕事を。処女ではなくなった生徒を、清く正しい処女に戻す仕事を、埴生に与えたのだ。
そして、そんな埴生の前に、ユリナ達はいた。
埴生に起きた事など、ユリナ達は知らないし、興味もないが、今の埴生がオカシいことは分かる。
「……なんだそれは。学校にそんなモノを持ってきたらいけないだろう。先生に渡しなさい」
ユリナ達が持っていた『炎風の斧』や杖に対して注意をする埴生の口調や態度は、生徒に注意する先生の態度そのものであったが、それはあまりに今の状況に相応しくないオカシいモノであった。
「……きゃっ!?」
ユリナ達が埴生の普通すぎた異質な様子に気をとられていると、背後から悲鳴が上がった。
そちらに目をやると、ネネコが、ネモンに首を掴まれていた。
「う……っく……」
「……動くな!」
勝ち誇ったように、ネモンはうっすらと笑っている。
「動かないで、その武器をゆっくり床におけ。へたに動くと、このネネコちゃんの細い首がポッキリ折れちゃうからな? へ、へへへ」
「……ネネコちゃん」
「マドカ」
心配そうに表情を変えたマドカを、ユリナは小さな声で諫める。
その間も、ユリナはちゃんと埴生の動向を気にしていた。
「……俺だってこんな事をしたいわけじゃないからな。でも、女の子三人……外の奴も含めると四人か? どっちにしてもそれだけで俺が助かるわけないし。しょうがないじゃないか。悪い事をした奴がいたら先生に言わないと……先生、この子たちが学校に放火した犯人です!」
「……なにぃ!?」
ネモンの言葉を聞いて、埴生の肉体が、筋肉が膨れ始めた。
おそらく、イソヤと同じように、ヤクマに何かされたのだろう。
「ユリちゃん……!」
「ネネコ! 貴方は自分でなんとかしてください! マドカは前を向いて!」
変わっていく埴生の肉体を前に、ユリナは杖を力強く握る。
マドカはネネコの方を何度も見たが、最後はユリナに言われたとおり、埴生に意識を集中する。
「悪い子だ……そんな武器を持っているだけじゃなくて、学校に放火だと? 誰かが死んだらどうするんだ? 教育しないと……俺の拳で正さないと!!」
埴生は履いていたジャージのズボンに手を入れ、引き抜く。
現れたのは、銀色の手袋のようなモノだ。
それを埴生は手にはめる。
「安心しろ。先生の拳は、正義の拳だ。これで殴られれば、どんな奴でも、良い子になる。綺麗な体に……処女になる!!」
埴生の体がぶれると、一瞬のうちに、マドカの前に現れた。
「マドカ!」
「くっ!」
大きく振りかぶり、埴生は拳を振るう。
なんとか、マドカは横に避け、埴生の拳を回避した。
埴生の拳は、マドカの背後にあった机に当たる。
「……えっ!?」
埴生の拳が当たった机の残骸を見て、マドカは驚愕の表情を浮かべる。
机が、真っ二つに切れていたからだ。
「……形状変化の武器ですか。厄介ですね」
埴生が振り返り、マドカと、そしてユリナの方を向く。
埴生の手は、銀色の鎌に変化していた。
手袋が変形したのだろう。
「な、なぜ避けたぁ! 反省してないのか!? お前達は、良い子に、処女になりたくはないのかぁああああ!?」
「いや、避けるでしょう。バカですか?」
「先生をなんだと思っているんだぁあああああ!」
埴生が叫びながらユリナに向かった。
ユリナは室内にある机なども利用しながら、埴生の拳……もとい、鎌による斬撃を避けていく。
時折、埴生はマドカにも向かっていくが、マドカも巧みに埴生の攻撃を避ける。
おそらく、埴生とイソヤのレベルの違いだろう。
埴生はイソヤほど早くない。
だが、一撃でも貰えば死んでしまう攻撃には違いない。
そんな命がけの攻防が、警備室で繰り広げられた。
「……お、おい! 俺を無視するな! 首を折るって言っているだろ! 動くなよ!」
ネモンを無視して。
ユリナ達の攻防を、呆然と見ていたネモンは、思い出したように叫ぶ。
しかし、ネモンの言葉に、誰も耳を貸さない。
一切立ち止まる事無く、戦いが続く。
「くっそ……俺が折れないと思っているな? 俺だってレベルが上がっているんだ。こんな細い首、簡単に……」
普段から、特に女性に無視されるという事が無かったネモンに、苛立ちが溜まっていく。
その苛立ちを発散するため、ネモンは手に力を込めた。
「……ぁあああああ!」
「えっ……?」
力を込めていたはずの腕が急に軽くなり、ネモンは唖然とする。
ネネコの首から自分の腕が落ち、肘の先から血があふれ出したのを見て、ネモンは大きな声で叫んだ。
「う……腕ぇえええええええ!?」
「うぁあああ!」
「ごっ!?」
腕を切られ、パニックになったネモンを、ネネコは蹴り飛ばす。
そのまま扉に吹き飛んだネモンは、何も言わなくなった。
「……はぁはぁはぁ」
目に涙を浮かべ、気を失ったネモンを睨みつけていたネネコは、ネモンから奪っていた炎が吹き出るナイフを力強く握って震えていた。
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