第200話 救出作戦が始まる


「……見えた」


 病院を出て十五分。

 ユリナ達は雲鐘学院を視認出来る位置まで近づいていた。

 ビルの影から伺うように雲鐘学院の様子をうかがっていたユリナは、近くの崩壊しているビルに目を向ける。


「先輩がいたはずのビルは壊れていますね。何か反応はありますか? ネネコ」


 ユリナの背後にいたネネコは手元にあるiGODを見たあと、首を振る。


「ビルの所には、何も……誰もいません」


「そうですか。まぁ、そうでしょうね」


 ネネコのステータスを確認したところ、レベルは確かに1であったが、一般人の熟練度は五まで上がっており、職業の変更が出来るようになっていた。

 殺されて、生き返ってを繰り返した結果、レベルが下がったのだろう。

 そんなネネコのステータスは、現在こうなっている。


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名前  駕篭 猫々子 

性別  女

種族  人間

年齢  11 

Lv  9

職業  旅人☆1


HP  160

MP  120

SP  130

筋力  18

瞬発力 18

集中力 27

魔力  24

運   23

技能  なし

所有P 355P

戦歴  

(最新の10件表示)


レベルが9に上がった

『死鬼Lv13』撃破 経験値460 130P獲得

『蘇生』した。

『蘇生』した。

『蘇生』した。

『蘇生』した。

『蘇生』した。

『蘇生』した。

レベルが下がった。

『蘇生』した。

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 職業は、旅人だ。

 実の所、ネネコには固有職に歌手という職業があったのだが、ユリナの提案で旅人になった。

 理由は、旅人の固有技能『世界図』がシンジの救出のために必要だったからだ。

 ちなみに、ネネコの事を想定する前は、ユリナが職業を変えて『世界図』を使う予定だったのは余談である。


 そして、レベルが上がっているのは……


「大丈夫? ネネコちゃん」


 ネネコのすぐそばにいたマドカは、心配そうに声をかける。

 ネネコがiGODの画面を見て、震えていたからだ。


「大丈夫、です。ビルには誰もいませんけど、学校には沢山いるみたいだから……」


 ネネコにとって、学院はそれこそ見ただけで発狂してもおかしくないほどのトラウマを植え付けられた場所だ。

 その中に動いている人が……自分を傷つけた奴らが、確かにいるという情報を見て、恐怖を覚えるのは当たり前だろう。

 そんなネネコに、ユリナは軽く息を吐く。


「ビビってどうするんですか? 学院にいる奴らのリーダー格の一人。イソヤを殺したのは貴方ですよ? もう少し自信を持ちなさい」


 その言葉に、ネネコはびくりとさらに震える。

 そう。

 ネネコのレベルが上がっているのは、ネネコが病院で、死鬼と化したイソヤの角を切り落としたからだ。


 いくら地図の技能が欲しいからといって、身体能力がレベル1のままの女子小学生を連れていくのは、足手まといにしかならない。


 だから、氷付けになっていたイソヤを解凍し、死鬼になったところをネネコに殺させたのだ。

 ちなみに、イソヤの死鬼化はやけに早かった。

 おそらく一分もかかっていないだろう。

 その原因はよく分からないが、レベルが関係しているのかもしれない。

 死鬼化したイソヤのレベルが13と、明らかに低すぎるからだ。


 その話を置いておいて、イソヤを殺した事を思い出したのだろう。

 ネネコの顔は青くなっていた。


「おそらく、中にいる男の一人くらいなら貴方のレベルでも殺せるはずです。一緒に来た以上、戦いになったら参加してもらいますよ?」


「……はい」


 ネネコの声は非常に小さい。完全に萎縮してしまっているようだ。


(……地図だけでも使えればいいと考えますか。出来れば彼女のiGODを借りて、本人にはここで待っていてもらう方がいいのでしょうが……iGODは生きているかぎり本人以外使えない、というのがネックですね。いざというときのサインは決めていますが、どうなることやら)


 レベルは上がったものの、戦力としてネネコを考えることは出来ないようだ。


 そんな事をユリナが考えていると、この中で一番の戦力が話しかけてきた。


 セイだ。


「……どう? 上手くいってそう?」


「そうですね。ここにいても誰かが襲ってくる気配はないですね。今のところは順調と考えて良いでしょう」


「ということは、やっぱり転移の球が原因?」


「おそらくそうでしょうね。転移には独特の気配があると先輩はおっしゃっていましたから。気配を消す能力に関しても私より先輩の方が上だったので、やはり転移の球で学院に近づきすぎたのが原因でしょう」


 転移のような能力は、実際に使用出来るようになると大変脅威となる能力である。

 だから、対抗策もある。


 指定された場所では転移が使用出来なくなったり、転移してきたら警報で知らせるといったモノだ。

 おそらく、シンジもこの警報に引っかかったのだろう。


 それを考慮し、ユリナ達はシンジが飛んできた場所からさらに一キロほど離れた場所に転移し学院を目指してきたのだ。


「先輩も、一応転移に対する対抗策を考慮して学院外に転移はしたようですが……思ったよりも広範囲に警報を設置していたようですね。いったいいくら使ったのか。半径十メートルの警報でも百万円。一万ポイントはするのに」


 学院内だけでも設置するのにおそらく数十数億はかかるだろう。それが学院外までとなるといったいいくらかかるのだろうか。


「もしかしたら、いくつかポイントを絞って置いていたのかも。それだったらそんなにお金はかからないでしょう?」


 と、セイが学院を見つめながら言う。


「それは……そうですが。ですが、先輩が転移してきたのは、目立たないようにとこの近くの路地裏に飛んだはずです。そんな場所に警報を……」


「偶然だったんじゃない?」


「偶然?」


 ユリナが不可解な顔をするも、セイはそのまま学院を見つめながら言う。


「確か、ガオマロって男は気味が悪いくらい運が良いって話じゃない。適当に置いた警報に、先輩が運悪く引っかかった」


「……なるほど」


「そうじゃないと……先輩が簡単に捕まるわけない」


 セイの言った言葉で、この言葉が一番小さく、まるで独り言のようであったが……一番力が籠もっていた。


「ところで、順調ということはこのまま予定通りユリナさんの魔法で気配を消しながら潜入するのよね?」


「そうですが……どうしましたか?」


「その予定。変更してもいい?」


 まっすぐに、学院を……おそらく、そこにいるであろうシンジを見ながら、セイは言った。

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