第136話 シンジが落とされて

「……先輩!」


 セイは叫んだ。

 シンジが落ちた壁から身を乗り出し、下を確認する。

 シンジが無事かどうかを確認する。


 だが、よく見えない。

 シンジ達が落ちた場所に、自然をイメージさせたいためなのか分からないが、木々が生えていて、様子が分からなくなっている。


 邪魔だ。自然、邪魔すぎる。


 だが、仮にその木が無くても、シンジの様子を見ることが出来たかはわからないが。

 ここから地上まで、三十三階の高さだが、ここは明野ヴィレッジ。

 高所得者達が住む、高級マンション。

 彼らが広々と、ゆったり生活出来るように、このマンションの一階の高さは、高めに作ってある。


 平均的なマンションの一階の高さが約三メートル。

 この明野ヴィレッジは三メートル五十センチはある。


 だから、今セイがいる場所は、地上まで百メートルは超えた高さの場所だ。

 地上の様子など、はっきりと見える距離ではない。


「っ……!」


 セイは、急いで下に下りようと階段に向かう。

 自分たちは、五階の高さから下りても平気だった。

 無傷だった。

 だが、ソレはちゃんと飛び降りるための準備をしたからだ。

 体勢を整え、道具を構え、覚悟を決めて飛び降りたのだ。


 今回は違う。

 高さが違う。状況が違う。体調が違う。

 全てが悪い方向に違うのだ。

 いくらシンジでも、生きているか分からない。

 そして、仮に生きていても、あのミスリル人形がいるのだ。

 もう、どう考えても最悪だった。


 セイは、慌てて階段を降りる。

 急いで降りる。

 だから、階段に何がいたか、気にもしていなかった。

 階段は、先ほどまで人形達に制圧されていたのだ。

 セイが階段の踊り場に向かおうとしたとき、セイの目の前に五体の人形が現れた。

 先ほど、セイ達に向けて氷の矢を放ってきた人形達だ。


 人形達は、素手でセイに飛びかかってきた。

 五対一。

 金属で出来た機械の人形五体と、可憐な少女一人。


「邪魔ぁあああああ!!」


 だが、少女は、セイは怒っていた。

 一閃。

 力任せに、怒りのままに、セイは短剣を振るった。


 シンジと一緒に飛び降りた機械人形とは違う材質ではあるが、彼らの体も金属であるのだが、そんなことは関係ないと言っているかのように、セイは人形たちを一撃でバラバラに破壊した。


「先輩っ!」


 セイは、破壊した人形達を見もせずに、階段を下っていく。

 状況は酷似していた。

 あのときのように、シンジは敵と共に消え、セイはひとりぼっち。

 もう、あんな思いはしたくは無い。


 なるべく早く、最短で。

 落ちるようにセイは階段を降りていく。

 一つ、階段を下ったところで、セイの前にまた邪魔が現れた。

 三体の機械人形。

 そして、その周りに十数体のスーツを着た男性の死鬼。

 彼らが階段を埋めていた。


 人形も、死鬼も、手に警棒のようなモノを持っている。

 見覚えのある警棒だ。

 セイが痺れさせられた、スタンガンと似たようなモノ。

 セイとシンジが分かれて行動するきっかけになった男達が持っていたモノと同じ様なモノ。


「はぁああ!!」


 思い出して、セイの怒りがより高まる。

 機械人形。

 死鬼。

 スタンガン。

 全てが、セイの攻撃性を高めるだけ。

 全てをセイは薙払う。

 止めることは出来ない。


 血と、人形の破片をくぐり抜けて、セイは進む。


 まだ三十二階。


 急がなくては。


 そう思った矢先、眼前に広がった光景にセイは思わず停止してしまう。

 怒りも飛んでしまうほどの衝撃だった。


 広がった光景は、死鬼だった。

 人の死鬼。

 複数の死鬼。

 手に持っているのは、スタンガン。

 これだけなら、驚きはない。

 つい先ほど見た光景だ。

 ただ、今回は今までと違う点が、二つ有る。

 一つは、その死鬼達が小さい事だ。

 子供の死鬼。

 五歳くらいの、子供の死鬼たち。


 そして、もう一つの点は、その子達がなぜか全裸だということだ。

 男の子の死鬼達が、全裸で立っている。

 棒を持って立っている。


「……くっ!」


 分けがわからない状況の整理と、確認と、そして悩み。

 それらに費やしたセイの停止は、一瞬だった。

 だが、その一瞬で十分だった。


「あっ!?」

 セイの足下から、手が生えていた。

 その手は、何か杖のようなモノを持っている。

 ふくらはぎに何か衝撃を感じ、そのままセイは気を失ってしまった。

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