第128話 カズタカが笑う

※気持ち悪いシーンなので、読む時は覚悟してください。


「ふぃふぃ」


 体から、白い蒸気を上げてノソノソと歩くブヨブヨとした巨体。

 カズタカが、椅子に音を立てて座る。

 夏場でも無いのに彼の体から蒸気が出ているのは、運動したからではなく単にお風呂に入っていたから。

 三十九階にある、スポーツジムと併設されている夜景が見える温泉。

 そこで、彼は、彼が支配している死鬼たちと入浴を楽しんでいたのだ。


「ふぅう……スッキリ。JKちゃんの為に我慢して溜めようと思っていたんだけどね」


 カズタカが、指を鳴らす。

 すると、濃紺の体に密着した競泳水着……スクール水着を着た妙齢の死鬼になっている女性が、腕に一・五リットルのペットボトルのコーラを持って現れた。


 明らかに体型に合っていない水着を着せられており、水着のラインにあわせて体の肉がはみ出てしまっている。


 そんな女性を一瞥もせず、カズタカはコーラを受け取り、口を付ける。


 コップは使わない。

 彼は今、スッキリしているのだから。


「ぐちゅ……ぐちゅ……ぶはぁぁあああ。あああ。美味い。風呂上がりは、やっぱりコレだね。生き返るわぁ」


 大きくゲップをして、カズタカはノートパソコン型のiGODを起動する。


「さてさて、JKちゃんはどうなったかな? そろそろ、こっちに到着している頃のはずなんだけど」


 iGODに表示されている画面の一つを拡大する。

 その画面には、道路に散らばっているおびただしい量の氷のかけらが映し出されていた。

 その、普段よりも多すぎる氷の量に若干不信感を抱きつつ、カズタカはカメラを動かし獲物を探す。


「……おろ? いない? 死鬼になっているなら、まっすぐコッチに向かってくるのに」


 舌打ちをして、カズタカは氷のかけらが落ちている周辺を重点的に見ていく。


「氷の後が、駅まで続いている……もしかして、逃げられた? マジかよ。うぜぇ。頑張るなよ、気持ち悪いな」


 ゲップをして、その息をカズタカは吐き出す。

 彼の予定では、今頃死鬼と化したJKを支配しているずなのだが。


「駅に逃げたってことは、地下通路を通ってこっちに来るつもりか? 一応見てみるか」


 カズタカは、監視カメラを切り替える。

 映し出されたのは、駅からの地下通路に直結しているマンションの地下のエントランス。

 煌びやかなエントランスには、誰もいない。

 氷の矢でJKを攻撃したのがおよそ二時間前。

 駅に逃げた後、地下通路を通ってこちらに向かっているのならば、到着していても良い時間である。


「まだ来てないか。遅いなぁ、来るなら来いよ」


 苛つきをぶつけるかのように、カズタカは勢いよくコーラを飲む。


「げふっ……たく、これだからゆとりは使えないって言われるんだよ。ガキが。遅すぎだろ、歩くの」


 もう一度、コーラを飲み始めるカズタカ。

 一・五リットルあったコーラはもう半分も残っておらず、その半分もカズタカは一気に飲み干してしまう。


「げーふっ。ふぅ、おかわり持ってこい」


 空になったコーラのペットボトルを、スクール水着を着せている女性にぶつけ命令するカズタカ。

 だが、スクール水着を着た、死鬼の女性は動かない。


「……あ? 早く行けよババア」


 カズタカは再度命令するが、死鬼の女性は、動かないままだ。


「……もしかして、家にあるコーラが切れたのか? だったら探して持ってこい! 他の家の冷蔵庫とか自販機とか、探せばどこかにあるだろうが!!」


 カズタカが叱責すると、女性の死鬼は動き始め部屋から出て行った。

 

「クソが……おつかいが出来ないのは、ドコのババアも一緒だな。使えねぇ。はぁ……巨乳JK。すべすべの若いおっぱい。成長中の、JKおっぱい。もう、ババアは飽きたよん」


 カズタカはノートパソコン型のiGODを閉じる。


「まぁ、いいか。どうせすぐに手にはいるだろうし。ここまで逃げてきたってことは、JKちゃんの目的はこのマンションなんだろうしさ。地下通路から来ようが、駅から出て逃げようが、タロちゃん達が……」


 カズタカは、何も心配していない。

 自信があるからだ。

 自分は支配していると。


「ん? コーラ遅いな」


 このマンションの支配者は自分であり、そして自分は完璧であると自負している。


「たく……早く持ってこいよ、ババアが。マジで廃棄するぞ」


 彼は知らない。

 自分の世界に引きこもり、部屋に引きこもり、家に引きこもり。

 行動範囲が、自宅と、コンビニだけであった彼の知っている世界は、実に狭い。


 彼は知らない。

 彼の大好きなコーラが、もうマンションのどの家庭にも残っていないことを。


 彼は知らない。

 マンションの地下に、食料や避難用具が貯蔵されており、彼の好きなコーラもそこにあることを。


 彼は知らない。

 だから、支配出来ていない。

 そのことさえ、彼は知らない。


 だが、それでも、彼はこの世界を生き抜いてきた者。

 マンションを支配出来た、支配者。


「……やっぱ、ババアは使えねーな。死んでいるから、なおさらだ。体が冷たいから○○○にするのも一苦労だし。早くJKちゃんを使って……ん?」


 カズタカは、気づく。


「せっかくだから、生け捕りにしちゃうか? 冷たい奴らに飽きてきた頃だし。どんなに使っても、反応が無いのはツマらないしさ」


 カズタカは再びノートパソコン型のiGODを開く。


「生け捕り……たしか、男もいたな。じゃあ、分断して個別に叩くか」


 カチャカチャと、カズタカはiGODに何か打ち込んでいく。


「ぶふふ……JKちゃん、どんな声で泣くんだろ? というか、美人かな? 美人だよね? カメラが遠くで、はっきりとは映らなかったけど、雰囲気は良かったはず」


 一心不乱に、集中し、カズタカはひたすらにiGODのキーを叩く。


「男は、彼氏かな? じゃあ、ソイツを利用して……ふふ。初めは、彼氏以外の男には触らせないと抵抗するJKちゃん。けど、僕ちんの華麗なるテクニックに陥落し、体も心も、僕のモノになってしまう。激しいセッ○スの後に、深まる愛。やっべー、取っちゃうわー。寝取っちゃうわー」


 タンッとキーを叩き、満足げにカズタカは息を吐く。


「ふぃー。コレでよし。後はタロちゃん達に任せましょう」


 カズタカは立ち上がる。


「……楽しみだなぁ。生JK。くくくぅ……あっ、そういえば」


 近くの壁に手を置き、カズタカは体を支える。


「JKちゃん、処女だよね? でも、彼氏も一緒……」


 カズタカは肩を落とし、頭を下げ……ようとしても下がらないほど肉があるのだが、少しだけ下げる。


「捕まえたら、聞くか。処女だったら、生かしておいて、処女じゃなかったら、一度殺そう」


 カズタカが一歩歩く度に、床の板が音を立てていく。

 ゆっくりと歩いて、カズタカがたどり着いたのは、寝室。


 そこには、スクール水着、体操服、バニーガール、チャイナドレスなどなど、様々な衣装を身につけた、彼が支配している、見目麗しい死鬼たちがいた。


「コーラも来ないし、JKちゃんが来るまでの間、寝ましょうか。親子肉ふとんで」


 カズタカは自らが支配している死鬼の、肉の海に倒れ込む。

 そのカズタカの肉体を、彼の命令に従って、死鬼たちが支え、優しく愛撫を始める。


 世界が変わってから、毎日、毎夜、毎昼、幾度も行われている、カズタカの宴(パーティー)。


 宴を楽しむ支配者に、危機感はない。

 あるのは、幸福と、欲望と、期待だけ。


「ひゃはははっははっは」


 カズタカの声が、マンションに響いていく。

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