第74話 戦いが始まる

「うん、いいね。ピリピリするよ」


 ハイソは、そんなことを言いながら腕を組んだままだった。


「なぁ」


「何?」



「俺が強くなったことの原因が、勇者だって分かっていたみたいだけどさ。勇者の技能は『結界』じゃなかったのか?」


 なんでコタロウの技能を知っている?

 そんなシンジの言外の質問に、ハイソは口角を上げた。


「ノーコメント……って言いたい所だけど、勇者に蹂躙されて五年だからね。そりゃあ、研究も進むよね」


「そうか」


 何気ない会話。

 そんな会話の中、邪魔者が一匹、動きだそうとしていた。


「ぶぁうるるう」


 シンジに頭を吹き飛ばされた、ドラゴンだ。


 通常、頭部を失うと死鬼化出来ない。

 しかし、このドラゴンは体内に保有していた魔力。

 欲望を使い、半分ほど失っていた頭部と体の一部を修復しながら立ち上がる。



 死鬼サイズドラゴン。


 彼の生前の欲望は、食。

 喰らうこと。


 その欲望に従い、彼は目の前にいる2人の少年に襲いかかる。


 片方は、自分を殺した少年。


 もう片方は、自分の主人だ。


 だが、死んでしまった彼には関係ない。

 元主人も、自分を殺した少年も、等しく餌だ。肉だ。


 欲望に任せたまま、ドラゴンは2人に噛みつこうとする。


 もちろん、その欲望が叶うことはない。


 シンジの投げた蒼鹿がドラゴンの肉体を凍らせ、ハイソが杖がドラゴンの肉体を粉々に砕いた。


 一瞬の出来事。


 その間、2人とも死鬼ドラゴンのことを見ようともしていなかった。

 目の前の相手に、集中していたからだ。


 凍り付いたドラゴンの頭部が地面に落ちる音を合図に、闘いが開始される。


 仕掛けたのはシンジ。


 右腕に持っていた紅馬をハイソめがけて投げた。


(……速い、けど)


 シンジが投げた紅馬のスピードはハイソにとって避けられないスピードでは無い。


 そして、蒼鹿はすでにドラゴンの方に投げてしまっている。

 紅馬が避けられたら、シンジは丸腰だ。


(恐怖? 焦った?)


 シンジの無策をハイソは内心で嘆く。

 期待を裏切られたと思ったからだ。


 だが、違った。


 紅馬がハイソに当たる直前、二本の短剣をつなぐ緑色のロープに引っ張られ、蒼鹿がシンジの手元に戻ってくる。

 すぐさま、シンジは蒼鹿を掴み発動させる。


 ロープを通して、冷気が伝わりシンジは再び巨大な氷の槍を作り上げた。


「うお!?」


 目の前に、愚直に飛んできた短剣を弾こうとしていたハイソは、突然現れた巨大な槍に虚をつかれる。

 ぶつかる氷の槍と、ハイソの杖。


(……こっちが狙いか!)


 ハイソは、杖を使ってなんとか槍の軌道を変えた。

 顔の間近を、槍が通っていく。


 そのとき、変わった。


 巨大な氷の槍そのものが。


 氷が溶け、氷の槍は元の短剣とロープに戻る。


 そして、そこで初めてハイソは知った。


 脅威は何かということを。


 それは、自身の後ろを飛んでいる紅い短剣ではない。

 ハイソの、間近にある、緑色のロープ。

 それは、一見するととてもなめらかなロープのようであったが、よく見ると細かい鋭利な刃物のようなものがたくさん付いていた。


 例えるなら、鱗だ。

 とても小さな刃が、鱗のようにびっしりついている。


(……これは、竜の……)


 ハイソは、召喚師ゆえシンジのロープの材質が何で出来ているのか、一瞬で悟る。


 シンジは手首を返した。


 その動きがロープに伝わり、先端の、ハイソの近くにあるロープを加速させる。


 まるでムチのように。

 ムチの先端のスピードは音速を超える。


 空気を弾く音が校庭に響いた。


 鋼鉄の金庫さえ切り裂くシンジの短剣をつなぐロープ。


『竜髭之鞭』


 ハイソは、その攻撃を避けていた。


 ギリギリで、身を屈めて。


 髪の毛がハラハラと落ちていく。


(……あっぶな)


 短剣の投擲から、氷の槍、そして、ただのロープに見せかけていた緑色のムチでの攻撃。

 この連撃に、さすがのハイソも肝を冷やした。

 一瞬でも判断を誤れば、死の危険さえあっただろう。


 だが。


 まだ終わっていない。


 シンジは、ムチで攻撃する間にハイソとの距離を詰めていた。

 その距離、一メートル。


(……さっきまでの攻撃は、全てフェイント!?)


 そして、その距離でハイソは、身を屈めていた。

 ロープの攻撃を避けるためにとった無理な体勢。

 ハイソは動けない。


(やっば……!)


「はっ!」


 気合いと共に、シンジは、蒼鹿を振るう。

 極限にまで高められた冷気で、空気が凍っていく。

 夜の校庭に、白銀の結晶が煌めいた。


 だが、その光景の先には、何もいない。


 ハイソの姿が消えている。


「……にゃあぁぁ」


 シンジの一〇メートルほど後方から、声が聞こえた。


「あっぶなぁぁぁ……。ちょっと、強くなりすぎでしょ。まさか技能を使わされるとは思わなかった」


 そこには、ハイソは額から汗を流して立っていた。


「金剛蜘蛛の糸で仕立てた特注のスーツも切られるし。これメッチャ高いんだよ?」


 ハイソは、自分のスーツの腹部辺りを見ていた。


 凍っていたスーツの氷はすでに溶け始めている。

 スーツには、横に切れ目。

 少し、血もにじんでいる。


 切れたのだろう、おそらく、薄皮一枚といった所だろうが。


「2倍どころの強さじゃないでしょ? 勇者の協力があったとしても、一体どうやってこんなに強くなったのさ」


 ハイソの問いに、シンジは思い出す。


 コタロウが言っていた、ゴールデンフェアリーの特典のことを。


『はぐれゴールデンフェアリースライムを正しい方法で取り込むとさ、通常の経験値に加えて、特典があるんだよ』


『だいたいはさ、通常のレベルアップじゃ上がらない運のステータスを上げてもらえるだけなんだけど、たまにめちゃくちゃ強くなる特典がつくこともある』


『さて、シンジはどんな特典をもらったの?』


 シンジは、ハイソの問いに答える。


「我を張ったからな」


---------------------------------------------

名前  明星 真司 

性別  男

種族  人間

年齢  17 

Lv  28

職業  旅人★13


HP  720

MP  210/430

SP  520

筋力  86

瞬発力 61

集中力 107

魔力  45

運   40

技能

神盾

闘気合

地球図

ハイ注目

闇魔法初級

光魔法初級

道具作成初級

超内弁慶 

麒麟児

レベルアップ適正 

職業適正

アイテムボックス1000

金色妖精の祝福(妖精召喚)

金色妖精の祝福(アイテムボックス最大化)

金色妖精の祝福(全基本職熟練度最大化)

所有P 23450P

戦歴  

(最新の10件表示)

『サイズドラゴン亜種Lv21』撃破 経験値2210 105P獲得

……

--------------------------------------------------

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る