第71話 コタロウの技能が凄い

「白金華ドラゴンのステーキ。メインディッシュだね」


 ドラゴン。

 薄々、気づいていたが、シンジが今まで食べていたのは、異世界の食材のようだ。

 見た目は普通の鳥肉のステーキのように見える。

 若干、肉の繊維が太いだろうか。

 シンジは、恐る恐る、ドラゴンのステーキを口に入れて、噛んでみた。


 堅い、が。不思議と、不快な堅さではない。


 噛みたくなる堅さだ。


 噛んで、噛んで、噛んでいくと、次々に肉の繊維の間から旨みがあふれ出してくる。


「……話の続きだけど」


 肉を飲み込むコタロウ。


「そうやって、別の世界を生み出した二人なんだけど、彼らが殺された事で、その世界が暴走し始めたんだ」


「……その世界って、俺たちの世界のことだよな?」


 ドラゴンの肉を食べながら、コタロウの話を聞くシンジ。


「うん、暴走っていうのは、俺たちの世界と、天使たちの世界が次第にくっつき始めたんだよね」


 コタロウは両手を合わせるような動作を始める。


「あわてて、彼らの後継者のような人たちがそれをくい止めたんだけど、完全には止めることが出来なかった。どう頑張っても、2000年後には二つの世界はくっついてしまう」


「その2000年後が、今って事か」


「そういうこと。そして笑っちゃうのが、アイツ等はその2000年の間に俺たちを利用しようとしたこと」


 コタロウが肉を噛み、飲む


「俺たちの世界の奴らは、一部だが強い。なら、呼び出して富を与え、名誉を与え、女を与え、戦争に利用しよう」


「……それが、勇者」


「その勇者にメチャクチャにされたわけだけどね」


 コタロウが、肩をすくめる。


「けど、そんな事どうやって知ったんだ?」


「ん?」


「お前が、魔王を倒してアツキって国をメチャクチャにしたのって、俺たちの世界をソイツ等が侵略してくるって分かったからだよな? なんでそんな事が分かったんだ? 話を聞いていると、そんな事向こうが教える訳が無いだろうし」


「そりゃあ、分かるさ。だって俺の技能は……」


 コタロウがテーブルを叩くと、そこには、小さな建物の模型が現れた。


 その模型の建物には見覚えがある。


 シンジが今いる場所。


 女原高等学校の、模型だ。

 体育館まである。


「世界を見下ろすことが出来るからな」


「世界を、見下ろす?」


「ああ、世界を見下ろして、設定する。こんな風に」


 コタロウは、体育館の模型の屋根を指ではじく。


 急に、シンジは風を感じた。

 上から、屋根から。

 シンジは、目線を上げる。


 夜空が見えた。

 体育館の屋根が無くなっている。


 シンジは目線を下げた。


 テーブルの上にある体育館の模型の屋根も、同様に無くなっていた。


「『遊戯制作者』それが俺の職業の名前」


 コタロウが、自分のiGODを胸ポケットから取り出す。


「技能の名前は『決められた見えない悪戯(サイコロトリック)』最大で半径1キロメートルの空間に新しい設定を作ることが出来る」


「……設定」


「この模型は、わかりやすいように出したんだけどさ。本当はiGODを使って……」


 コタロウがiGODの画面を指で動かしていく。


 すると、模型の体育館の屋根が元に戻った。


 同時に強烈な光が、上から照らしてくる。


「体育館の照明をシャンデリアにしてみました」


 シンジが上を見てみると、煌びやかという言葉がぴったりと当てはまる、だが体育館という場所の照明としては、まったく当てはまっていないシャンデリアがそこにあった。


「体育館の屋根は存在しないって設定した後に、体育館の屋根はシャンデリアって設定した。こんな感じで、俺の作った設定に従って、世界が変わる」


「……ハイソが言っていた、『聖域』ってのは」


「向こうにいたときは、表向きは『聖域者』っていう結界能力を持っていることにしていたから」


 コタロウが肉をかじる。


「敵は存在出来ないって設定を作って、自分の能力を結界を張る能力に見せかけていたわけか」


「そうだね」


「……強すぎないか?」


 それが本当ならコタロウは何でも出来る。

 それこそ、GOD

 神の領域だ。

 シンジの問いにコタロウは肉を食べながら答える。


「そうでもないよ。作る設定の内容によっては、効果を出せる半径も狭くなるし、シンジの『超内弁慶』みたいに、自分より格上の存在に対してはルールを強要させることは出来ないしね。馬鹿みたいにMPとSPを消費するし、他にも色々細かい制約はあるし」


「でも、空間自体に設定を作ることが出来るんだろ?」


 それだけで格上なんて関係ない。

 コタロウはドラゴンの肉を飲み込む。


「まぁ、俺の能力については、これくらいにしておこうか」


 コタロウはドラゴンのステーキを食べ終わった。

 シンジも最後の一切れを口に入れる。


「ご飯もあるけど、食べる?」


「……ああ、もらおうかな」


 コタロウが目配せすると、黄金の少女たちがおにぎりとお椀に入った味噌汁を持ってきた。

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