第70話 世界が始まったワケ

「おっと、話に夢中で、食事の手が止まってたね」


 コタロウの言葉にあわせて、金色の女の子たちが料理を運んでくる。

 白い、固まりのような料理だ。


「次は魚料理。シルバーテイルバスの香草岩塩の包み焼き」


 女の子たちが、お皿の上に乗った白い固まりを彼女達と同じ大きさはあるハンマーのような物で割っていく。

 すると、白い固まりの中から、魚の切り身が出てきた。


 同時に、湯気に合わせて、食欲をかき立てる香りがシンジの鼻腔を刺激する。

 胃が、胃液の分泌を激しくしていく。

 シンジは、さっそく魚を口に入れた。


 脂がよく乗っているが、まったくしつこくない。

 ブリに、スズキなどの白身魚を混ぜたような感じだろうか。

 食べた事が無い味だが、これまた美味い。


「さて、ここからが、俺がアツキをメチャクチャにした理由と、今の現状が起きた理由の話なんだけど」


 コタロウも魚を食べながら、話を再開する。


「さっき、シンジに、今の現状が起きた理由を聞いただろ?」


「ん? ……ああ、俺のiGODには、ある事情としか書かれていなかった」


「まぁ、世界中の大半は知らないだろうし。そう表示されたんだろうけど」


「……知っているのか?」


「当然。だって、俺のおかげで現状はこれだけで済んでいるんだし」


 自慢げに、コタロウが答える。


「どういうことだ?」


「簡単に言ってしまえば、今俺たちの世界は侵略されているんだよね。魔人たちと……天使たちに」


 コタロウが、金色の少女に何か指示を出す。

 飲み物のお代わりのようだ。


「シンジも何かいる?」


「……ジンジャーエールとか、あるのか?」


「ああ、出せるよ」


 そう言うと、コタロウの横に、瓶に入った琥珀色の液体が現れる。

 その瓶をもって、金色の少女が、シンジのグラスにその液体を注ぎ始めた。


 おそらく、コタロウは直接シンジのグラスをジュースで満たすことが出来るはずだ。

 なのに、わざわざこの金色の少女たちを使っている。


 シンジは、少しだけ、この無駄な労働を強いらされている少女たちが哀れに思い始めていた。


 シンジにジュースを注いだ少女が、微笑んだ後にペコリと頭を下げる。

 シンジも、頭を下げて、「ありがとう」と少女に礼を言う。

 シンジからお礼を言われて、少女は嬉しそうに飛んでいった。


「まぁ、コレもよくある話で、シンジも見当ついていたかもしれないけどさ」


 好物のファン○を飲んで、一息付いたコタロウが、話を続ける。


「天使と魔人って、一緒なのさ。人に、白くて綺麗な羽が生えているのが天使。それ以外が、魔人。魔王が世界を滅ぼそうとしているなんてウソっぱちで、ただ異世界の奴らが、異世界の奴ら同士で領土争いの戦争をしていて、その助っ人に俺は世界を救う勇者として呼ばれたわけだ」


「……天使が魔人と一緒だとか、宗教を信じている人たちが怒りそうな話だな」


 有名な天使は、堕天して、悪魔になったという話があるが。


「まぁ、アイツ等が自分たちの事を、神に選ばれし天使だ、って言っていたから俺も使っているけど、実体はただの羽の生えた人だったからな。普通に闇魔法とか使ってたし。天使なのに闇って、魔法って。アイツ等は、必死で闇魔法の事を、神が与えし邪悪なモノを滅する力、とかなんとか言ってたな」


 本当に、コタロウは、自分が召還された国の人たちが嫌いなようだ。

 終始、嫌そうな、軽蔑した顔で話している。


「……っと、天使モドキの話はいいや。とにかく、異世界で領土争いがあって、それが今回の件の発端なんだよ」


「……自分たちの世界じゃ領土が足りなくなって、別の世界に侵略を始めた、とかか」


「うーん、おしい」


 コタロウが、ファン○で口を潤す。


「正確に言うと、別の世界を作った」


「……はぁ?」


 シンジの驚いた顔を見て、コタロウは、嬉しそうに頬をゆがめる。


「シンジはさ、世界が5分前に作られた事を証明できる?」


 シンジは、コタロウ聞いてきた問題を、聞いた事があった。


「……それ、哲学か何かで、有名な奴だろ?『世界が5分前に作られた事を否定する事は出来ない』みたいなやつ」


「そう、で、今俺たちがいる世界は、異世界の奴らに作られた世界ってわけだ」


 コタロウが、突然言った言葉に、シンジは反応出来なかった。


 もう、お皿の上に、料理は無い。


「……それ、どういう」


「といっても、安心してよ。作られたのは5分前とか、そんな話じゃないから。俺たちの地球は、ちゃんと46億年経過している」


 コタロウが、思い出すように、目線を上にする。


「……はじめは、平和の為に生み出された考え。だったらしいよ」


 コタロウは、こんこんと語り始めた。


「天使たちと魔人たちの領土争いが激化し始めた時、天使たちの中で一番知識を持った天才と、魔人たちの中で一番力を持った天才が、両方の部族を守るために手を取った」


「『土地のために争っているなら、新しい土地を作ればいい。』二人は、実に簡潔な答えを導き出し、実際に、別の次元に自分たちの世界と似たような環境を持つ世界を作り出してしまった」


「土地と言っても、何もない砂漠や森を得ても意味がない。彼らも、薄々だけど気づいていたんだろうね。領土争いは、領土を求めるためだけに争っているのではない。争いそのものを求めているから、起こっているってね」


「だから、彼らはその新しく出来た世界に、争えそうな存在が現れるまで待つことにした。別の次元だから、ある程度時間の流れるスピードも操れたしね。もしかしたら、3つ目の敵を作ることで三国志みたいに争いをそのものを、出来にくい環境にしようとしていたのかもしれない。まぁ、それはわからないんだけど。とにかく、彼らは待った。そして、人が、人類が生まれた」


「その世界の人々は、天使や魔人から、角や羽を取り除いた、中間のような容姿をしていた。そして、欲望を力に変えるiGODを使える素養がない。だからこそ、彼らは思った。弱そうだと。自分たちから羽や角が無くなった彼らは、とても弱い存在だと」


「彼らは、少し困った。あまり弱い存在だと、争いにさえならない。争いとは、同じレベルの者同士でのみ、起こるものだから……ごめん、冗談。

とにかく、彼らはこの弱い存在がどれくらいの力を持っているのか、試してみることにした。その世界で一番力を持った人を自分たちの世界に、召喚してみたんだ」


 コタロウが、そこで、飲み物に口を付ける。


「……それで、どうなったんだ?」


「ん? コレで終わり」


「……はぁ?」


「殺されたんだよ。その二人は。コレから先の話になると資料がほとんど無かったからね。まぁ、多分だけど」


 あっさりと、コタロウは言った。


「なんで?」


「そいつらが召喚したのって、多分、俺みたいな勇者だったんだよ。そして、彼らは誤解していた。iGODが使えないのは、その世界の環境のせいできっかけさえあれば誰でも使える。そして、iGODが使えるようになると、その世界の一部の人々は、とても強いという事を」


「そりゃあ、対立している二つの部族の天才が協力して作った世界で生きている人だし、見た目だけで弱いと思うのは浅はかだよ。とにかく、そうやってこの世界が誕生したわけ」


 コタロウが話している間に、次の料理が運ばれてきていた。


 肉厚のステーキだ。

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