第63話 シンジが直す

「っ!? ふぅぁ……」


「……よし、コレで全員かな?」


 シンジは回復魔法をかけ終わった女子生徒を見る。

 顔が真っ赤になっていた。

 回復魔法が、気持ちよかったようだ。


「あっ……ありがとうございます」


 女子生徒は、顔に手をあて、そしてシンジに頭を下げた。


「……スゴいわね」


 となりで、シンジの治療の様子を見ていたリツが呟く。


 これまで、額から血を流している者。意識を失っている者。

 ……腕や足が無くなっている者。

 約30名ほどが、シンジの治療をうけた。


 毒状態なっていた者は、解毒魔法の『ゲーク』を使って治している。


 生き残っていた者で無傷だった者は、10名にも満たない。


 100名いた生き残りは約三分の一にまで、数を減らしていた。


「ああ、コレで全員だろう」


 滝本が、うなずく。

 シンジも、一通り校庭を見回して見たが、生きている生徒の気配はない。


「MPも、半分くらいか。思ったより使わなかったなぁ」


 それは、想定していたよりも、生きていた人数が少なかったこともあるが、治療を重ねるに連れて、シンジの回復魔法が上達したことが大きかった。


 最後に治療を受けた女子生徒は、左目がえぐれていてわき腹も半分くらいになっていたのだが、一回の回復魔法で治療を終えることができた。


(まぁ、これで必要最低限の準備はできたかな? あとは……)


 シンジは、集まっている生徒たちを見る。


 皆、ケガは治っているのだが、ボロボロだった。


 服と、あと表情が。

 傷ついていた。


 リーダーだったマオが殺され、化け物に襲われたのだ。


 生徒たちの精神はズタボロだ。


 しかし、精神のケアは、シンジにはできない。


 できるとすれば、制服を直してあげることぐらいだろう。


 女子の中には下着姿の者もいるのだ。

 さすがに寒そうである。


「つながったか?」


「いや。返事が無い。半蔵隊長の方でも、何かあったのかもしれない」


「……半蔵さんの許可が無いと、ヘリを降ろせないのか」


「……申し訳ない。我々が最優先する任務は、ロナ様の身の安全なのだ。ドラゴンを倒したといっても、化け物たちはいる。どちらにしろ、この人数では、一度にヘリに乗る事は出来ない。我々の救助は、ロナ様の避難が終わった後になるだろう」


 滝本たちが生徒たちから離れてひそひそと話している。

 今後の事を話しているようだ。


 校庭の、遥か上空では、ヘリが旋回していた。

 まぁ、シンジとしても、今校庭で避難活動をされては困る。


 邪魔だからだ。


 シンジは、校舎の屋上を見る。

 まだ、時間をいただけるようだ。


 とりあえず、服の状態がヒドく一番近くにいたリツの服を直してあげようとシンジはリツの方を向く。


「……何よ」


 リツが両手で、見た目だけは綺麗な胸を隠しなが、シンジを睨む。


 以前のリツならその目は心底シンジを恨んで睨んでいたのだろうが、今のリツの睨みは違う。

 恨みや妬み悪い感情はほとんどない。


 照れから来る睨みだ。


 多少、シンジに対する感情が改善されたようだ。


 シンジとしては、リツがシンジを恨んでいる理由を知っているので、別に恨まれたままでもよかったのだが。

 恋心など、簡単にコントロールできるモノでもないだろうし。


 良くなって悪いモノでもないので、シンジは特に気にしないことにした。


「ちょっと、制服を直そうかなってね」


 シンジの言葉にリツの睨みがヒドくなる。

 この睨みは、疑い。


「……そんなこともできるの?」


「ああ」


「なんで、そんな事も出来るのにケガを治してくれた時に一緒に直してくれなかったの?」


 リツからしたら、当然の疑問。

 もう、冬になろうかという季節だ。

 そんな寒空に、夜で、外で、下着姿。

 リツの体はブルブルと震えているのだ。

 そして、そんな状況の女子はまだ他にもいる。


「MPが足りるか分からなくてね。まずはケガをしている人の治療から優先でしょ?」


 シンジの当然の理屈に納得はするリツ。

 だが納得できない部分はある。


「MPって何なのよ……ゲームか」


 ドラゴンが出てきて、不思議な力で、人のケガが治って。

 本当に、ゲームの世界みたいだ。

 リアルなのに。

 リツは、考え込むように自分の頭に手を置いた。


 シンジは、そんなリツの制服を元に戻すために『リーサイ』を唱えようとリツに向けて手をかざす。


 そのとき、座り込んでいた生徒たちから一人の男子生徒が立ち上がった。


「てめぇ! 潮花さんに何しようとしてやがる!」


 川田だ。


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