第12話 一日目が終わる
「とりあえず、ここまでだな」
襲い来る男子生徒の死鬼は倒し、女子生徒の死鬼はカフェまで誘導したシンジは、新しく3体の死鬼をカフェまで連れてくることに成功した。
もう、外は真っ暗になっている。
電気はまだ生きているようだ。
シンジはカフェの明かりをつけている。
街も、街灯や家の明かりが所々灯っていた。
この中に生きている人間がどれだけいるか怪しい所ではあるが。
シンジは、連れてきた死鬼を見る。
その中には、あのヨレたパンツの生徒も含まれている。
そして、死鬼たちは皆下着姿になっていた。
朱色下着のメガネ女子生徒も下着姿だ。
死亡した原因を調べるのだ。
当然の行為である。
シンジは、鼻にティッシュを詰めると、一人一人、下着姿になった元女子高生の死鬼たちを見ていく。
皆、一様に左胸に赤い穴が空いている。
が。
シンジはその傷を見ようともしない。
(まだだ、まだわからんよ)
シンジは、慎重にゆっくりと死鬼たちの体を見ていく。
上から順に。
プルプルと震えるモノもあれば、ユサユサと揺れるモノもある。
キュッと締まったモノもあれば、だらしなくデロンとしているモノもある。
スラリと伸びたモノもあれば、プニプニと柔らかいモノもある。
シンジの鼻に詰められたティッシュは、すでに真紅に染まってしまっていたが、この男はそれでも調査を諦めなかった。
シンジは、メガネの女子生徒と同様に、脇の下から足の裏まで隅々まで死鬼になった女子生徒たちの肢体を観察していく。
特に胸囲のサイズが一番大きい朱色下着のメガネ女子と、ライムグリーンがまぶしいヨレたパンツの女子生徒は、死亡原因の究明のため、ブラジャーを外させていただき隈なく調べさせてもらった。
真面目そうな朱色のメガネの女子生徒の頂点の色が、やや焦げ茶色で、少し遊んでいそうなライムグリーンのヨレたパンツの女子生徒の頂点が、ほんのりとしたサクラ色だった事に、シンジはある結論に達した。
「彼女たちがなぜ死んだのかわからない!これは、明日も女子生徒の死鬼たちを連れてきて調査をする必要があるな!!」
シンジに、明日の楽しみが出来た。
再び、夕食として夢のパスタを作ったシンジは、パスタを食べながら、ぼーっと連れてきた死鬼の女子生徒を眺めていた。
ちなみに、下着姿にした死鬼たちはまた元通り服を着せている。
さすがに、食事中まで女性の下着姿を見るのはシンジの紳士的な何かに反していた。
ただ、その中でも2人だけ学校の制服でない姿のモノがいる。
メガネの女子と、ヨレたパンツの女子だ。
この2人には、カフェの制服を着せている。
クラシックなメイド服のようなカフェの制服は男子生徒たちに人気だった。
もちろんシンジも好きである。
なので、連れてきた死鬼の中でシンジの好みだった2人にカフェの制服を着せたのだ。
2人とも、似合っている。
……顔が虚ろで、額にツノが生えていなければ、だが。
「何だかなぁ……」
ご飯が美味しくなかった。
シンジは何となくメガネの女の子に向かって言ってみる。
「飯食べる?」
言って、シンジは笑った。
バカな事を言っている。そう自嘲した。
しかし、メガネの女の子はうなずいてシンジの対面に座る。
「……え?」
予想外の反応に驚いたシンジは、すぐに落ち着きを取り戻す。
「ああ、いや……俺が命令したからか」
顔の頬を困ったように掻きながらシンジは、席から立ち上がる。
「誘っといて、準備していなかったな。ちょっと待ってろ」
連れてきた死鬼の人数分。
夢のパスタを作ってあげた。
「……普通にメシ食べるのか」
料理をテーブルにおいて、死鬼と化した女子たちに命令してご飯を食べさせるシンジ。
女子たちは、普通にフォークを使ってパスタを食べている。
その様子を観察していたシンジは、あることに気づく。
「食べ方……違うな」
個体によって、女子たちの食事の仕方が違うのだ。
ヨレたパンツの女子生徒はフォークにパスタを絡ませずに食べ、メガネの女子生徒は器用に巻き付けながら食べている。
どういう事だろう。
シンジは考えた。
この状況に置いて、シンジは知らないことが多すぎる。
「……そういえば、掲示板があったな」
シンジは、タブレットを動かして総合掲示板を表示させる。
そこには、某有名掲示板のようにいくつかのスレッドが作られていて様々な国の言葉が書かれている。
とりあえず、日本語のタイトルの掲示板のみ表示させるシンジ。
「『情報共有スレッドPART7』『【東京】生存報告 5点呼目』『【戦士?】おすすめ職業2転職目』『自衛隊が自衛しすぎて役に立たない件3自衛』『【ガチャ】武器ガチャ当たり報告』…………」
表示されるスレッドを流し読みしながら、シンジは情報を集めた。
「…………『超可愛いJS死鬼に腕を噛ませていたら、HPがヤバい件について』……こんな状況で馬鹿な事をするやつは今でもいるんだな。これは後で見よう。けどまぁ、予想通りだけどこの事態に対して皆そこまで詳しくないみたいだな」
いくつか、死鬼に対して検証している書き込みもあったがシンジが知っている情報とたいして変わらなかった。
「まだ一日目だし、皆そこまで余裕はないか」
シンジは、タブレットの電源を落とす。
食事をしていた死鬼女子たちは、すでに食事を終えていた。
「こうしてみると、食事の終わりにも、個性って出るんだな」
メガネの女子は、ミートソースのパスタを食べたはずなのに皿にソースが付いてなく綺麗だし、ヨレたパンツの少女の食器はべたべたに汚れていた。
「個性……か。そういえば、俺。この子たちの名前も知らないや」
シンジは、目の前に座っているメガネの女子を見る。
名前も知らない、死鬼という化け物になってしまった女の子。
……頂点の色は知っているのだが縁のあるメガネの奥でどのような光景を見てきたのかシンジは少しも知らない。
「……ねぇ、名前なんていうの?」
シンジは、冗談混じりで聞いてみた。
返事は、期待していなかった。
目の前にいる彼女は命令を聞いて動きはするが、目は虚ろで生気がなく、まさしく人形のようであったからだ。
「……みなみ」
「へ?」
だからこそ、驚いた。
化けモノに殺されて動く屍と化した少女が言葉を発したことに。
「え……話せるの?」
「……」
しかし、返事はない。
「空耳か?」
シンジは首を傾げる。
幻聴だったのだろうかと少し不安になる。
化け物だらけの世界に自分一人だけ。
人恋しさから聞こえもしない返事を聞いてしまったのだろうか。
不安を消すように同じ質問をしてみる。
「……名前は?」
「……みなみ」
再度、返事を聞くことができた。
「……やっぱり話せるのか!?」
その後、シンジはメガネをかけた朱色のパンツの少女。
豊橋 南(とよはし みなみ)に様々な質問をした。
そして、ある程度検証して分かった事を他の少女たちにも試してみた。
結果、以上の事が分かった。
おそらく、返事が出来る内容は答えが決まっているモノで少女たち自身が知っている事のみのようだ。
たとえば、ミナミの名前を質問すれば返事をするが、シンジの名前を聞いても答えてくれない。
また、時の総理大臣の名前や、1+1=は?といった答えを知っているような問いには答える事が出来るが、今後の日本はどうなると思うとか134+167=は?といった、少しでも考えなくてはいけないことは答える事が出来ないようだった。
シンジは、よく人間の脳がタンスに例えられている例を思い出していた。
「記憶を引き出すことは出来るけど……引き出したモノを使うことは出来ないってことか」
食事の仕方がバラバラだったのも、この為だろう。
シンジは、大きくため息をつく。
なぜなら、厄介だからだ。
素材を採取した時に……いや、その前の初めてiGODを機動したときに薄々と感じていた、厄介さがはっきりと目の前に現れた気がした。
「まぁ……一人で行動する分には問題ないか」
気持ちを切り替えるように息を吐くと、シンジは目の前の少女……ミナミの顔を見る。
次にヨレたパンツの少女。
ミユキ。
普通の少女。
エンドウとスズキの顔も見る。
死んでいる。
間違いなく。
先ほど、名前を聞いたり実験の為に話しかけてそれに答えたりもしていたが少女たちは確実に死んでいる。
分かるのだ。
目は虚ろで口は開きそして、動いていない。
それに、なにより生き生きとしていない。
シンジは、ミナミの手を取ってみた。
冷たい……が、思ったほどではない。
シンジは以前祖母が亡くなった時、その手を握った事を思い出していた。
握った瞬間。
ゾッとするほど冷たかった事を覚えていた。
あの手は、この世のどんなモノよりも冷たかったように思える。
それよりも、ミナミの手には温度があった。
もちろん、もし仮にミナミが生者でありこの温度であったならすぐさま病院に連れて行かれるような温度ではあるのだが。
生きているわけではない。
この温度は、体が動いている事で生じている温度だ。
死んでいる。死んでいる。
シンジは、気づいたらミナミを抱きしめていた。
「……死んでいる……よな? 生きていたら……こんな事されたら……イヤだよな……?」
ミナミから、何の反応もない。
シンジはそれに少しだけ安堵して……少しだけ胸がチクリとした。
時刻は0時。
変わってしまった世界の一日目が終了した。
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