第11話 シンジが自由
双剣や他の武器をアイテムボックスにしまう。
10回ごとにレアのクジがあって良かったとシンジは思う。
区切りを付けることが出来るからだ。
(さて、と。とりあえずお次はこの服の汚れをどうにかしてみるか)
「『リーサイ』」
シンジは、さっそく先ほど入手した修繕魔法を制服に唱えてみた。
血液が落ち、元の制服に戻った。
しかし、体の汚れは落ちていない。
(……シャワー欲しいな)
シャワーは、学校内に作られている合宿所と屋内プール。
あとは、4階にある共同の女子更衣室に設置されている。
女子更衣室。
(女子更衣室……女子更衣室か……)
この神秘のワードに、シンジは胸を高まらせる。
が、ひとまず、カフェの更衣室に新しいタオルが何枚かあったので水で濡らして体を拭いた。
体をある程度清潔にしたシンジは、昼食を作ることにする。
まずは冷凍パスタを、鍋で解凍する。
ぐつぐつと冷凍パスタを茹でている最中、シンジはふと思い立つ。
このまま冷凍パスタにミートソースをかけるだけで終わるつもりだったが、今ここにいるのは自分だけだ。
支配者は、自分だ。
つまり、ミートソースにウィンナーをトッピングしたりチーズをかけたりとんかつを乗せたり、自由自在に好き放題しまくりの夢のパスタを作れるのではないか。
シンジは冷蔵庫を物色し、ウィンナーを鍋の中に投入する。
トンカツも見つけたが、凍っていてしかもまだ揚がっていなかった。
とりあえずは、ウインナーinミートソースパスタだ。
パスタを解凍し、お湯を切って皿に盛る。
その上に温めておいたミートソースと、ウインナーを乗せて完成だ。
普通のカフェでは出されないだろう料理。
(やっべぇ。テンション上がる!)
「いただきまーす!」
夢のパスタをシンジは貪った。
食後のデザートに、ケーキを3つ(通常、購入したら一つ500円はするケーキ)に、アイスを乗せて、ペロリと平らげる。
(食い過ぎた……ちょっと体に悪いか? でも、なんか自由だよな。善いことではないと思うけど……ひたすらに自由だ)
善とは、究極的には節制だろう。自己犠牲だろう。
食べるものを制限し、欲望を我慢する。
頬を叩かれたのなら、逆の頬を差しだし、飢えた獣がいたのなら、己の体を食べさせる。
それが善だ。
節制や自己犠牲が善であるならば、やはり自由とは自分がしたい事だけをするのは突き詰めてしまえば悪なのかもしれない。
(別に俺は善人になるつもりはないしな。まぁ悪人になるつもりもないけど。でも、こんな世界になったんだ。自由に自分のやりたいようにするのが『楽しい』よな)
シンジは、そのまま、壁際のソファ席に横になる。
さきほどレベルが上がったが、まだ体は重たい。
慣れるまで、まだ時間がかかりそうだ。
(とりあえず……自由に……まずは寝よう……それが『楽しい』)
そう思い、シンジは眠りについた。
目を覚ますと、もう夕方になっていた。
窓から外の景色を見てみると、街が紅い。
街の至る所から、煙が上がっている。
シンジは、自分の黒いスマホを確認してみた。
電波はあるが、新しい着信などはない。
両親に電話をかけてみる。
まだ回線が混雑しているようだ。
(……諦めたほうが良さそうだな)
この手の話で、両親や友人を捜して安全な場所から出て行くという話はよくあるが、良い結果になった話はない。
というか、いざ自分自身がこのような状況になって分かったが一度安全地帯を作ってそこから移動するのはかなり勇気がいる。
(……というか、面倒くさいな。行動範囲を広げた方があとあと『楽』なんだろうけど……)
そもそも、両親が今どこにいるのかシンジは分からない。
両親とも共働きだから、会社がある都心のどこかにいるだろうが正確な位置まで分からない。
家に帰宅している確率は少ないだろう。
両親の仕事場まで電車で1時間はかかるのだ。
公共交通機関が動いているとも考えにくいし歩いて帰れるとはとてもじゃないが思えない。
(……いや、帰れるか? でも流石にこんな化け物だらけの町を歩いたりしないか、あの二人でも)
とシンジはしばらく両親の事を考える。
「まぁ、いいか。とりあえずまだ明るい内に廊下の死鬼の数を減らすかね。『楽』なうちに学校くらいは自由に歩けるようにしよう」
シンジは体を起こす。
だるさが残っているが、動けないほどじゃない。
先ほどレベルが上がったので、ステータス上は初めて死鬼を倒した時と差は無いはずだ。
『リーサイ』で元に戻したナイフを手にシンジはカフェの出口に向かう。
(……アイテムボックスに入れている双剣を出した方がいいか? でも、あの武器ってギリギリで使った方がカッコいいよな? こう、どうしても倒せない強敵が現れたときとか……それに、何か出すのが面倒くさい)
なんて事を考えながらシンジは、扉に手をかける。
(まぁ、油断しなければ大丈夫でしょ。とにかく、噛まれない。それを目標にじっくりゆっくりと死鬼の数を減らして……)
そう思いながら、シンジは扉を開いた。
「…………」
すぐ目の前に、死鬼がいた。
赤色の縁のあるメガネをかけた真面目そうな女子生徒だ。
「がぁああああああああ!」
「うおっせい!?」
いきなりのエンカウントに、反応が遅れるシンジ。
メガネ女子生徒が、シンジの肩にかぶりつく。
「いってぇえええええ!?」
女子生徒の犬歯が、シンジの肩の肉を引き裂き、血管を破裂させる。
さっそく目標が破れたシンジは、とりあえず女子生徒を引き離すためカフェの中に転がり込む。
が、女子生徒はシンジにかみついたまま、シンジと共にカフェの中に入ってしまう。
「いっ……離せぇ!!」
体勢を整えたシンジは、女子生徒を思いっきり突き放す。
血が出る肩を押さえながら、シンジは女子生徒を見る。
よく見る。
(……可愛い。なんか図書室とかにいたら気になって本が読めなくなるくらいには可愛い)
女子生徒は、十分すぎるほどシンジのストライクゾーンに入っていた。
(あのヨレたライトグリーンのパンツの女の子よりも好みかもしれない。いや、しかしあのヨレたライトグリーンのパンツは中々ポイントが高かったよな? ヨレたライトグリーンのパンツを合わせれば、あのメガネ女子よりちょっとグレた感じのヨレたライトグリーンのパンツの女の子の方が総合ポイントは高いか? でも、この娘のパンツがもしも……って、そんな話は置いておいて!)
そんな話は置いておいて。
どちらにしても、このメガネの女子生徒はなかなか可愛い。
このような女子生徒を殺すことは、やはりシンジには出来ない。
かといって殺されてもいいと思えるほど美人でもない。
というか、美人だろうが化け物だろうが殺されたくはない。
「……せめて、パンツを、スカートをめくりながら恥ずかしそうに見せてくれたらなら……」
腕一本くらい、食べさせてあげるかもしれないのに……シンジはそう思った。
すると、パサリと布がこすれる音が聞こえてきた。
「なん……ご……」
シンジは、言葉を出せなかった。
メガネの女子生徒が、スカートの下に履いていた体操服を脱ぎ、その神秘のカーテンを両手で持ち上げているのだ。
しかも、うつむきながら。
死鬼の状態なので、顔の色に変化は見られないが、「う…………」と声が、口から漏れていた。
まるで、その中身を見られるのが恥ずかしいかのように。
ちなみに、その神秘的な布の奥に広がる神々しき逆さ富士は、真面目な印象の女子生徒と違い、情熱的な赤色だった。
レースで飾られた、光沢のあるその山脈は、ある意味、正当派のエロスの権化である。
真面目な女子生徒の内面にある、隠されたリビドーをかいま見たシンジは、無意識のうちに両手を合わせていた。
この奇跡的な光景を生み出してくれた全てのモノに、シンジは感謝した。
「……って回復しないと俺死ぬ」
シンジは慌てて解毒薬と回復薬を購入して飲む。
漢方のような独特の臭さと苦みが口の中で広がるが、シンジの怪我は問題なく治った。
制服も、『リーサイ』で直した。
「で、これどうしようか」
シンジは、未だにスカートをめくりあげている死鬼化した女子生徒を見る。
「死鬼を操れるってのはさっきの死鬼化ゴキブリで確認していたけど…………その相手が人間であると、話は違うよな」
シンジは一度大きく鼻を膨らませた後、息を吐いて大きく首を振る。
まるで、この世を憂いているかのように。
「けど、ここで普通の男子なら女の子にエッチなイタズラとかするんだろうけど、俺は違うんだよ」
シンジは髪を掻き上げた。
黒いボサボサとした髪が、少しだけ跳ねて元に戻る。
「確かに、若々しい、精力満ちあふれた男子高校生と、麗しい女子生徒が二人きりで、誰もいない密室にいる。しかも、女子生徒は身動きが出来ない。なるほど。確かに、この状況は背徳的な意味合いが強くなってしまうだろう」
「しかし」
シンジは、拳を強く握る。
「俺は、だてにゲームに生きていたわけではないのだ。変わってしまった世界で、何体もの死鬼を退治してきたわけではない。このような、下世話なエロスに易々と引っかかるよう軟弱な精神を、俺は持ってはないのだ」
シンジの目は、力強く輝いていた。
そこには弱さなど一切なく、ただ、純粋な意志が宿っている。
シンジは、その力強い瞳で、死鬼になってしまった女子生徒を見る。
もう、目がやけにキラキラしていた。
「……そういえば、この人たちの死因はなんだろう? 目立った外傷はないんだよな……調べてみるか」
メガネ女子死鬼に命令して、服を脱がせるシンジ。
ブラもショーツと合わせて扇状的な赤色だ。
シンジは、下着姿になった女子生徒の体を隅々まで見る。
くまなく見る。
シンジは左胸に赤い小さな穴を見つけたが、
「わからないなぁ……原因はなんだ?」
とつぶやきながら、熱心に、ギラギラとうなじから脇の下、太股、足の裏まで、丹念に女子生徒の体を調べ上げた。
それだけではない。
くんくんと、女子生徒の耳の裏のにおいも嗅いだ。
甘い、優しい臭いがした。
これらは、全て生き残る為に必要な情報収集であり、決してやましいことではない。
シンジは、己の行動になんら間違いはないと確信していた。
鼻から出ている、漲し赤き血流を拭い、シンジはつぶやく。
「……一切原因がわからない……これは、他の女子生徒も連れてくる必要があるな!!!」
メガネの女子生徒の左胸に空いている小さな穴には目もくれず、シンジは、カフェを出ていく。
シンジの心にあるのは、外傷の無い死鬼たちが死亡した原因の究明である。
シンジは、気高い心と共に、廊下にいた死鬼に向かっていった。
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