第10話 ガチャが楽しい

(せっかくだし、このまま必要そうな技能を修得してしまおう)


 まずはアイテムボックスの技能を修得して死鬼ゴキブリの角を回収する。


 次に、魔法だ。

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修繕魔法 5000P 指定したモノを元の状態に戻す。(生物には使えない)

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 服の汚れもそうだが、シンジは武器の手入れも気になっていた。

 今まで使っていたナイフは血糊がべっとりとくっついていてどす黒くなっている。

 おそらく、刃こぼれもしているだろう。


 (手入れはしようと思えば出来るけど……これまでと使い方がちょっと違うからな。魔法で出来るなら魔法でしたほうがいい)

 

 次はこの二つ。


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レベルアップ適正 5000P

職業適正     5000P

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 レベルアップと職業の熟練度の成長が早くなるタイプの技能だ。

 片方だけ修得してしまうと、バランスが悪くなると思い修得していなかったが、両方とも修得出来るポイントがあるため、今のうちに修得しておくことにする。


 次に、武器だ。

 アイテムボックスもあるし、ナイフだけでは不安なので強力な武器を買うことにする。

 そういえばシンジは剣術などの戦闘系の技能を修得しなかった。

 というより出来なかった。


 確認してみたところ、『自宅警備士』は、『一般人』よりも修得できる戦闘系の技能が少なかったのだ。


 (……もしかしたらレベルも職業もあるし、格闘技をしっかりと習った奴は武器なんて必要無いのかもしれないけどな。俺はちょっと親父に鍛えられたくらいで格闘技なんて全然してこなかったからなぁ)


 もう少し、真面目に鍛えてもらったほうが良かったのかもしれないとシンジは少しだけ思う。


(まぁ、今更こんなことを思ってもしょうがないか。とりあえず武器だ。ピンチになったときに使えるような必殺の武器、切り札。奥の手が必要だ)


 武器は様々な種類があったので、とりあえず、ポイントが高い順で、武器を見ていくことにする。


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原子爆弾  100000000P 

原子力空母 100000000P

………

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(……………………………………)



 シンジは、一度目をつむった。


(……ちがう、そんなんじゃない。武器だけど、たしかに武器だけど。求めているのはこんなんちゃうねん)


 思わず関西弁になるほど、シンジの中でこれは違った。

 せっかくゲームのような世界になったのだ。


 どうせなら、使う武器もゲームやファンタジーのような振れば光の刃が飛ぶ剣や雷を起こす槍なんかを使ってみたいとシンジは考えている。


 それこそが、男の夢(中2病)である。


 そのような武器はないか、ジャンルを剣に絞って再度検索する。

 が、表示されたのは普通の日本刀や剣ばかりだった。


 魔法なんてモノがあるくらいだから現代の科学ではできそうにない特殊な武器もあるかと思ったがそのようなモノはないようだ。


「……ん? くじ?」


 シンジは武器のジャンルに、くじ引きがあるのを発見する。



 武器くじ 1000P



 シンジは、くじの説明を見てみる。


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武器くじ 伝説の武器を入手できる可能性のあるくじ。どの武器が手に入るかは天のみぞ知る。10回ごとに、赤色以上の武器一点を進呈。


入手武器例(金色)


エクスカリバー  

グングニル    

フツノミタマ   

グラム      

ガラティーン   

デュランダル   

クサナギノツルギ

ゲイボルグ

神々のバール

などなど。


入手武器例(銀色)


シルフの弓

水精霊の杖

火蜥蜴のムチ

ノームの槌

グレートツヴァイヘンダー     

ソードブレイカーズ 紅馬・蒼鹿

風のレイピア

リュウゴロシ

オリハルコンのバール

などなど。

入手武器例(赤色)


日本刀 紅蓮

火馬のムチ

青竜刀 香牙

イカズチの槍

妖精の弓

氷雨の杖

ミスリルのバール

などなど。


入手武器例(白色)

鉄の剣

青銅の爪

鋼の槍

竹弓

樫の杖

鋼鉄のバール

などなど。

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 そこには、あらゆる神話の剣や強そうな武器が次々と表示されていた。


「……ガチャ?」


 シンジは、その景品を見てソーシャルゲームなどの課金景品を思い出した。

(……まぁゲームみたいな世界になっているんだ。今更って気もするな)


 どちらにしても、悪くないとシンジは思った。

 元々、このような武器が欲しいという希望もないのだ。

 ただ、現状のナイフよりも強力でピンチになったときに使える武器が欲しいだけ。

 (……ほかに武器の候補もないし、くじを引いてみるか)



 購入画面を押すと、商店街のイベントなどでよく見るガラガラが現れた。


 画面にさわることで動かせるようだ。


 シンジは画面上のガラガラを指で動かす。

 数周回すと、コロンと、玉が出てきた。

 色は白。


 少し間を空けて画面が光る。

 光が消えた後、シンジの目の前に、爪がついた小手のようなモノが現れた。


『鋼の爪を入手しました』

 と表示されている。

 明らかにはずれの武器だろう。

 玉の色が白の時点でわかっていることだったが。


 一回1000Pだし、もう一回してもいいだろうとシンジは思う。

 予算に余裕のあったシンジは、もう一度くじを回す。

 さすがに爪を使える自信はないからだ。

 コロンと転がって出てきたのは、白色の玉だった。


『杉の杖』


 ……


 「あ、あと一回」


 シンジは、もう一度ガラガラを回す。

 赤色の玉が出た。

 レアの色だ。


「お!?」


 シンジの期待は高まる。出てきたのは、


『ダマスカス鋼のバール』


「いや、ダマスカス鋼ってよくゲームに出てくるけど、バールって」


 見た目も、ただのバールと大差がなかった。

 レアなのに。

 釈然としないシンジ。

 もう一度くじを回す。


 白色の玉

『樫の杖』

 白色の玉

『白樺の杖』

 白色の玉

『黒羊の杖』


「杖三連……」


 これはキツイ。シンジの心は折れかけた。

 しかし止めない。止められない闘いがここにはあった。

 もう一度回すシンジ。


 再び赤色の玉。


 レアの色。


 出てきた武器は


『ミスリルの短剣』


「おお、中々良いのが来たんじゃないか?」


 シンジは、ミスリルの短剣を手に取る。

 刀身から、虹色の光があふれ星屑のような煌めきが周囲を瞬いている。

 シンジは、あまりの美しさに思わず息をのんだ。


「なんか……すげぇ……」


 試しに、軽く素振りをしてみる。

 短剣は羽のように軽かった。

 短剣は便利な道具だ。

 これから重宝するだろうとシンジは思う。

 短剣を、ベルトに差す。


「……これまで計7回か……10回すればもう一つもらえるんだよな?」


 シンジは、実に合理的に自分の得を計算した……つもりだが、実際はガチャ……くじを止められなくなっていただけだったりする。


 ガチャ商法。

 恐るべしである。


 ガラガラと回す。

 出た玉の色は白。


『麺棒』


 ただの木の棒だ。

 シンジはめげない。

 ガラガラと回す。

 次に出たのは、再び赤色の玉。


『竜髭之鞭』


 緑色に輝くムチだ。

 コレも当たりの部類だとシンジは思った。

 ムチから、凄まじい力を感じるのだ。

 試しに振ってみる。

 風を切る音とともに、ムチは近くにあった金庫を打つ。


 金庫が二つに切れた。


 分厚い鋼鉄で出来た金庫が、まるで豆腐を切るかのように何の抵抗もなく切れたのだ。


「……よし」


 シンジは、ムチの鋭さに若干恐怖を覚えながら、ムチを制服の内ポケットに入れた。

 ちょっとした動揺を隠しながら、10回目のガラガラを回す。

 これでラスト……の予定である。

 ガラガラと回す。


 出た玉の色は、なんと銀色。


「おお!」


 思わず、歓喜の声がシンジから出る。

 今まで最高のレアの色だ。

 タブレットの画面が光り輝き、収まるとシンジの目の前には、古びた金属の塊のようなモノがあった。


「……なんだこれ?」


 名前を見てみる。


『古の塊』


 一見、ガラクタのようだが……


 シンジは、拳をぐっと握った。

 ゲームに慣れ親しんだシンジは、これが決してハズレの物ではないと理解したからだ。



 そして、画面の映像が変わり、今度は金色に輝くくじが出てきた。

 10回した特典の分のくじだ。

 赤色以上は確定のくじ。

 シンジは、高いテンションのままくじを回した。

 ガラガラと回して、コロンと玉が出る。


 再び銀色の玉。


 画面が光り、手元に現れたのは、紅と蒼の剣だった。

 先ほどのミスリルの短剣より、30センチほど刀身が長い。


『ソードブレイカーズ紅馬・蒼鹿』


 と表示されている。

 ソードブレイカーとは、短剣の一種で、普通の刃と櫛状の峰を持つ、剣を折る剣である。


『ソードブレイカーズ紅馬・蒼鹿』も、日本刀のように片刃で、峰がギザギザとして、さらに十手のように鉤がついている。


 紅の方は暖かく、蒼の方は冷たい。


 まさかと思い、シンジは、紅の方を軽く振る。

 すると、刃から炎が上がった。

 次に、シンジは蒼の剣を横に振る。

 刃の通った道筋に沿って、キラキラと氷の結晶が生まれて消えた。


「ッッッッ………………!!」


 シンジは、声を抑えるのに必死になった。


 燃える剣と、凍らせる剣。

 どう見ても、最強に見えた。

 男の理想(中2病)が、明らかに具現化されたモノだった。


「ありがどうございまず……」


 シンジは、鼻声になりながら、この武器を作った人に感謝した。

 今日一番の感謝の心が、シンジの中に溢れていた。

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