第7話 職業が選べる

「あっぶねー……ギリギリだったなぁー」


 少年は、タブレット端末で、自身のステータスを見た。


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Lv  4

職業  一般人★5


HP  120

MP  130

SP  100

筋力  23

瞬発力 20

集中力 32

魔力  14

運   10

技能  麒麟児

所有P 900P

戦歴  

(最新の10件表示)

回復薬初級を使った HP100回復

解毒薬を使った   毒解除

状態異常 毒

一般人の熟練度が5に上がった

『死鬼Lv1』撃破 経験値10 10P獲得

『死鬼Lv1』撃破 経験値10 10P獲得

『死鬼Lv1』撃破 経験値10 10P獲得

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 少年、シンジがため息をつく。

 心臓が、まだバクバクと音を出している。

 シンジは、結局死鬼にならなかった。


 なぜか。


 それは、変わってしまったこの世界のルールと、戦歴を見たら分かるだろう。


3 死体の魔物化 死亡した生き物の死体が魔物として復活してしまうようになった。


 そう、死亡した生き物の死体が魔物、死鬼になるだけで噛まれても死鬼になるわけではないのだ。

 じゃあ、腕が噛まれただけの生徒がいたが、それがなぜ死鬼になったかというと、死鬼が毒をもっていたからだ。

 その毒が体に回って、死亡したから、噛まれただけの人が死鬼になった。

 

 シンジは、その毒を100ポイントで売っていた解毒薬で回復したのだ。

 HPも、100Pで売っていた回復薬で回復している。

 回復薬は栄養ドリンクのような瓶に入っていて飲んだら体の倦怠感と傷が嘘のように無くなった。


「くっ……あっはっはっはっは」


 シンジは、笑った。


 今でこそHPは100台をキープしているが、解毒薬を飲んだ時HPは5だったのだ。

 あと数秒遅れていたら、シンジは死んでいただろう。

 そのギリギリが、楽しかった。面白かった。だから笑う。


 シンジは、自分の右手を動かす。

 開いたり、閉じたり。

 自分の生を確認するように。

 死にかけたことで、自分の生が好きになった。

 飢えることで、ご飯がおいしくなるように。


 楽しい。

 

 シンジは、心からそう思った。


 だが。


「……『楽』を『楽しめ』か」


 シンジの顔から笑みが消える。


「『楽』は出来ていなかったな。さっきのは」


『楽』とは、何もしない事では無い。

『楽』とは、もっとも効率の良い道を探すことだ。


「油断。慢心。怠慢。『楽』とは真逆の行動だよな、あれ」


 そもそも、なんの警戒もせずに、視聴覚室の扉を開いたのが不味かった。

 音を聞いたり、窓から見たり、気配を読んだり。

 あらかじめ、中の様子を確認するべきだったのだ。

 シンジは、タブレットをホーム画面に戻す。

 いつの間にか、アプリが追加されていたのだ。


『ハロワ神殿』


(なんか、いいのかこの名前)


 シンジは気にしないことにして、『ハロワ神殿』を起動する。

 そこには、おそらく職業であろう名前が表示されていた。


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戦士

格闘家

旅人

芸人

魔法使い

治療士

技術者

自宅警備士

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(…………えっと)


 とりあえず、シンジは職業の説明を見てみることにする。


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戦士 加護により、肉体面を強化された鉄壁の職業。武器の扱いに優れる。

固有技能(神盾) 神の盾を発生させる。

上昇ステータス HP SP 筋力

低下ステータス MP 瞬発力 魔力


格闘家 加護により、肉体面を強化された俊敏な職業。武術に優れる。

固有技能(闘気合) 闘気を高める。

上昇ステータス HP SP 瞬発力

低下ステータス MP 魔力


旅人 肉体面にバランスよく加護を得る職業。特に長距離の移動に優れる。

固有技能(地球図) 高性能な地図のアプリが使えるようになる。

上昇ステータス HP SP 筋力 瞬発力

低下ステータス なし


芸人 魔力面に、バランスよく加護を得る職業。芸達者になれる。

固有技能(ハイ注目) 周囲の注目を集める

上昇ステータス MP SP 瞬発力 集中力 魔力

低下ステータス なし


魔法使い 加護により、魔力面を強化された、破壊の職業。攻撃的な魔法の扱いに優れる。

固有技能(闇魔法初級) 攻撃的な魔法が使える。

上昇ステータス MP 集中力 魔力

低下ステータス HP SP 筋力 瞬発力


治療士 加護により、魔力面を強化された、癒しの職業。癒しの魔法の扱いに優れる。

固有技能(光魔法初級) 癒しや守りの魔法が使える。

上昇ステータス MP 集中力 魔力

低下ステータス SP 瞬発力


技術者 加護により、特殊な道具を作れるようになる職業。

固有技能(道具作成初級) 簡単な道具を作れるようになる。

上昇ステータス SP 筋力 集中力

低下ステータス なし


自宅警備士 加護により、引きこもる力を得た職業。引きこもりの名人。ニート。最も頂きに近い者がなれる、選ばれし職業(笑)。

固有技能(超内弁慶) 自室の中にあるモノを自由操れる。

上昇ステータス 集中力

低下ステータス HP MP SP 筋力 瞬発力 魔力

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(……………………)


 シンジは一度タブレットの電源を落とした。

 目を閉じ、息を整える。


「ふざけんなぁああああ!」


 とりあえず、一言、空に向かって叫ぶシンジ。

 明らかに、最後の職業はふざけていた。

 なんだ自宅警備士とは、なんだニートとは。なんだ(笑)とは。

 明らかに、他の職業と説明が違った。

 そもそも、低下ステータスが多すぎる。

 どれだけ地雷職業なのだろうか。

 自宅警備士。


「……まぁ、それを選ぶんだけどな」


 しかし、シンジは自宅警備士を選ぶことにする。

 どうにも、死鬼に比べて自身のステータスが高すぎると思っていたのだ。

 低下ステータスが多いのは地雷要素だが、先ほどの自身の油断に対する戒めも込めて、自宅警備士を選ぶ。


 「それに……どうにもこれが一番『楽』な気がするんだよな」


 ゲーマーとしての感。

 一番弱い職業を序盤に極めると後々良いことがあるのはゲームの定石でもある。

 たしかに、弱い職業を選ぶことに不安はある。

 しかし、職業は1000P支払えば変更可能だ。

 どうしても支障があるようなら、変更すればいいだけである。

 シンジはタブレットを起動して、自宅警備士を選ぶ。


 すると、シンジの体が光り輝く。


 光が収まった時、シンジは地面に手を付いた。

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