第6話 パンツがライトグリーン

 シンジは襲いかかってきた男子生徒の死鬼を盾で受け止める。

 そのまま押し返そうと思ったが、視聴覚室からさらに数体の死鬼が現れ、とっさに後ろに下がる。

 その隙に6体の死鬼が、視聴覚室から出てきてしまった。


(……やばい)


 シンジは、焦った。

 理由は二つ。

 一つは、一瞬見えた視聴覚室の中にいた死鬼の数。


 もう一つは、出てきた死鬼の中に、女子生徒が混ざっている事だ。


 しかも2体。体も綺麗なままだ。容姿は……1体はそこまで可愛くない普通の女子生徒。

 しかし、もう一体はかなり可愛い。

 廊下ですれ違ったら思わず振り向くくらいの可愛さだ。

 ちょっとグレている美少女といった感じか。


 もっとも、今は2体とも凄まじい形相をしており、可愛さなど一切感じず恐怖しか覚えないが。

 

 シンジは、6体の死鬼から距離を置く。


 6体同時はさすがに相手にできないため、1体1体倒していかないといけないのだが、可愛い女子生徒が、シンジから数えて2番目の位置にいるのがやっかいだった。


(……最後ならあの子だけでも残しておく事が出来るのにな。そして、残しておいてあとで……)


 そこまで考えて、シンジは頭を振る。


(……馬鹿か俺! そんな余裕無いだろ、これ!)


 そんな事をしている間に、教室からさらに1体死鬼が出てきてしまった。

 男子生徒だ。


 シンジは決断する。


(よっし、もう倒す。決めた!)


 シンジは、一番近くにいた男子生徒の死鬼の首をはね飛ばした。


 鮮血が胴体から吹き出す前に、グレた感じの可愛い女子生徒の死鬼の所へ移動し顔面にナイフを振り下ろす。


(……やっぱ無理!)


 シンジは振り下ろした鉈を止める。

 代わりに可愛い女子生徒を蹴りあげた。


(……とりあえず、女の子は蹴飛ばして、まずは男を……おっ?)


 女子生徒の体が宙に浮き、その短めのスカートの中身が露わになった。

 ライトグリーンの、明らかに色素が落ちたヨレたパンツ。

 真新しい物ではなく、使い古してあるパンツが、生々しいエロスを臭わせている。

 ライトグリーンの女子生徒は、パンツを露わにしながら、地面に倒れた。

 ぐったりとした女子生徒に、ぐったりとしたパンツ。

 シンジはその光景に思わず感謝の柏手を打った。

 礼も忘れない。


(…………ありがとうございます)


 シンジは、自身の頬に、一筋の涙が伝うのを感じていた。

 と、側面から男子生徒の噛みつき。


 「うおぉ!?」


 シンジは間一髪その噛みつきを避け、お返しに顔面をまっぷたつに切り裂いた。


 (……危ないなぁ! 人の祈りを邪魔するなよ!)


 シンジは憤慨した。

 なんて場をわきまえない無礼者だろうと思った。

 怒りのまま、切り飛ばすと決めたシンジの前には普通の容姿の女子生徒。


(……ちっ!)


 シンジは、この女子生徒も切ることが出来ず、盾で殴るだけにした。

 新しく出てきた男子生徒の死鬼の角を切り、回転しながら、もう一体の男子生徒の死鬼の首を切る。


 残り1体。


「がぁあああ!」


 最後に残った男子生徒の死鬼両手を広げ、口を広げ、襲ってくる。

 シンジは、その男子生徒の死鬼の口にナイフを滑りこませ、顔を両断した。


「がぁあ……」


 男子生徒の死鬼が力なくその場に倒れる。


(……今のうちに)


 シンジは、視聴覚室の扉を閉めることにする。

 死鬼が、扉を開ける知能がないのは確認済みだ。

 とりあえず、これ以上死鬼が増えるのを防ぐ。


 シンジは扉に手をかけた。よく見ずに。正直焦っていた。


 その時、死角になっていた遮光カーテンの中から男子生徒の死鬼が飛び出してきた。


「うお!?」


 シンジはとっさにのけぞり、死鬼を避ける。

 これが、致命的だった。


 のけぞったシンジの左足に、グレた感じの可愛い容姿をしたライトグリーンのよれたパンツの女子生徒の死鬼が噛みついた。

 歯が肉を貫き、血が吹き出る。


「……う……わぁああああああ!!」


 シンジは女子生徒を振り払うが、バランスを失い尻餅をついてしまう。


「があぁあああああ!」


 飛び出してきた男子生徒の死鬼が、尻餅をついているシンジに襲いかかる。

 シンジは、盾でなんとか死鬼の攻撃を防いだ。


(……マズイマズイマズイ)


 シンジに噛みついてきたグレたライトグリーンのよれたパンツの女子生徒も立ち上がり、シンジに襲いかかろうとしている。


「……おっらぁあ!!」


 シンジは、のしかかるようになっていた男子生徒の死鬼を、女子生徒の死鬼にぶつける。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 左足をかばうように、シンジは立ち上がる。


(……ヤバい、これはヤバい)


 シンジの内面は、焦りから徐々に恐怖に変わっていった。

 モモが噛まれて、死鬼になるのに約15分。


 自分も死鬼になるのではないか。


 その恐怖が、少しずつシンジの内面を浸食していく。


 さらに、視聴覚室から死鬼が出てくる。

 ワラワラと。ズラズラと。

 この化け物たちに、食われるのではないか。

 その恐怖もシンジの内面を襲っていく。

 シンジの鼓動が早くなる。


(……とりあえず!)


 シンジは、もと来た道を引き返す。

 死鬼が追いかけてくるが、怪我をしていてもシンジの方が足は速い。

 渡り廊下を越え、防火扉を閉める。

 防火扉に死鬼がぶつかる。


 「ああああああああああああああ!!」


 シンジは叫び、開けられないように、必死に押さえる。


 ……しばらくすると、死鬼たちはあきらめたのか、防火扉にぶつかる衝撃は無くなった。


「……はぁ」


 シンジは、崩れるように、座り込む。

 鼓動が激しく鳴り続けている。

 収まる気配は無い

 どんどん、激しく、心臓が動く。

 まるで、毒で苦しむ猛獣のように。


「……ぐぅうう」


 シンジは力を振り絞り、iGODを起動した。

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