第4話 端末が神様

「……ギリギリだったな」


 4階から5階へノタノタと登ってくる、首とお腹が抉れている女子生徒を見ながらシンジは5階と4階をつなぐ階段の防火扉を閉めて封鎖した。


 計4カ所。


 これで、ゾンビのような鬼のような化け物がこの階に新しく侵入してくる事は無くなるだろう。


 ……鍵を開けられなければだが。


 しかし、先ほどのゾンビのような鬼のような男子生徒との戦いから考えても、この状態になった人間はあまり頭が良くないようである。

 女子生徒が防火扉に着いたのだろう。

 扉越しに呻き声が聞こえるが、防火扉を開ける気配は無かった。


「さて、お次は……」


 シンジはしばらく防火扉の様子を見ていたが、問題は無さそうなのでの目的地に向かう。


 5階を封鎖したが、それでもこの階に化け物がいないとは限らないためもっと狭くかつ必要な物がある場所の確保に向かったのだ。


 シンジの通っている女原高校は小さな丘の上に建てられた高校である。

 そのため、最上階である5階から街を一望出来るのだが、なんとその景色を楽しむために5階にカフェのようなおしゃれな食堂があるのだ。

 これが、シンジが学校に籠もる事を決めた時に5階を拠点にしようと思った最大の理由である。

 一応、1階にも食堂はあるが正直5階のカフェの方がおしゃれで料理も旨いのだ。


 科学室を通り過ぎ家庭科室の先にカフェはある。


 カフェに着いたシンジは、さっそく中に入ろうと扉に手をかけるが、鍵が掛かっていて中に入れなかった。


「マジかー……まぁ、売り上げとか入っているだろうし、当然と言えば当然か」


 どうしようかとシンジは悩む。


 とりあえず、見たところゾンビのような人の気配はないし、カフェの前の廊下は一本道なので近づいて来たら分かるだろうと思い、先ほど拾ったタブレット端末について調べることにする。


 シンジは段ボールを開けて端末を取り出した。


 段ボールの中には、他に品質保証書が入っていた。


 一言、『壊れません』と書かれている。


(ああ、そうですか。『壊れない』んですね。そうですか)


 タブレット端末の右上にある電源ボタンをシンジは押す。

 表示された画面は、ふつうのスマホと対して変わらない。

 メールや、電話のアイコンもある。

 電波は3本だ。どこの会社だろうか。

 そんなどうでも良いことを考えながら、シンジはアプリを表示させる。


 アプリは5つインストールされていた。


『始めての方へ』

『ステータスチェッカー』

『総合売却カイトリ』

『総合販売ウルトラ』

『総合掲示板』


 以上だ。


 まずは、『始めての方へ』というアプリを起動する。


 起動すると、文字が表示された。

 内容を読むと、今起きている現象についての説明とこの端末の使い方について書かれているようだ。

 シンジはそれについて読み、そして頭を抱えた。


 (……なんだこの内容)


 シンジが読んだ内容を要約すると、まず、今の現象は、ゾンビ物のような病気や細菌兵器による感染爆発によって起きている物ではないそうだ。

 ある事情が発生しそのせいで世界のルール自体が変化して起きている。

 その変化とは、おおまかに三つ。


1 魔物の発生  人を喰らういわゆる魔物という生き物が、自然現象のよう生まれるようになった。


2 レベルアップ 生き物を倒した際に、倒した生き物の肉体が強化されていくようになった。コレをレベルアップという。 


3 死体の魔物化 死亡した生き物の死体が魔物として復活してしまうようになった。


 そして、この端末は魔物を倒す勇気ある人間に褒美として人とは違う存在である謎の人が送っているギフトなのだそうだ。


 (……つまり、今の状況はゾンビ物というかRPGみたいな状況ってことか? いや、今風だと異世界転生とかか?異世界でも転生でもないけど……謎の人もどうせ神様とかそんなオチだろ?この端末の名前的に)


 シンジは息を吐く。


(とりあえず、コレを全部見てみるか) 


 シンジは、次に『ステータスチェッカー』を起動した。


---------------------------------------------

名前  明星 真司 

性別  男

種族  人間

年齢  17 

Lv  2

職業  一般人☆2


HP  140

MP  110

SP  100

筋力  18

瞬発力 16

集中力 28

魔力  15

運   10

技能  なし

所有P 10610P

戦歴  

(最新の10件表示)


世界変化から一時間以内に魔物討伐 10000P獲得

世界変化から一日以内に魔物討伐 500P獲得

初めて魔物討伐 100P獲得

一般人の熟練度が2に上がった

レベルが2に上がった

『死鬼Lv1』撃破 経験値10 10P獲得

---------------------------------------------


 シンジは、今までのゲーム経験と、『初めての方へ』に書かれていた内容から、ステータスを検討する。


 まず職業だが、これは皆共通で一般人として登録されており、『☆』熟練度が5になることで加護を得られる別の職業に転職できるようになるらしい。

 熟練度の上がる条件は魔物を倒すこと。

 次にHPなどのステータスだが、コレは人間の強さを数字化した物で、平均はHPなどが100。

 その他は10だ。

 次は所有ポイントだが、コレはおそらく『総合販売ウルトラ』で使うものだろう。

 今は置いてく。


 最後に戦歴だが、コレもよくある、特別な行動を表示してくれているのだろう。

 一時間ボーナスが10000P。これは多いのか少ないのか。


 次に、『総合売却カイトリ』を起動する。


 カイトリでは、手に入れた魔物の体の一部、素材をポイントと交換することが出来るそうだ。

 例として、死鬼Lv1の額の角を切り取って売ると20Pと交換してくれるらしい。


(……マジか)


 この説明を見て、シンジは激しく後悔した。


(さっきの奴置いてきたよ。素材回収してねーよ。気にしていたじゃん! 角! あれ素材だろ? くそぅ……)


 最強のハンターを自称する男(ゲームの話)が採取もせず立ち去った。

 この失態にシンジは涙を止めることが出来なかった。


 しばらくして落ち着いたシンジは、あとで素材を回収しようと思い、カイトリの説明を読み進めていくことにした。


 魔物の素材は必ず採取しよう、とシンジをさらに落ち込ませる注意の後、最後に売却の練習をしてみようとのことで、タブレットが入っていた段ボールを売却することになった。


(……段ボールごと持ってきて正解だったな)


 売却の方法は、素材をタブレットの背面についているカメラで撮影する事で出来るそうだ。

 段ボールをカメラで撮影する。

 すると、シャッター音と同時に段ボールが消えて、画面には『神様の段ボールを300Pで買い取りますよろしいですか?』と表示されていた。


はい、と選び、シンジは新たに300Pを手に入れる。


(他にも、お金をポイントに変換出来るのか)


 帰りに新作のゲームを買う予定だったので財布には一万円札が入っている。

 シンジは迷うことなく1万円をポイントに変換する。100Pになった。

 1ポイント=100円のようだ。


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