第21話
「でしょう?」 胸を張るリーシャ・エルフィに、ライがなんとも言い難い表情で軽く息を吐く。
「どうかなさいました?」
「否、なんでもない」 彼はそう返事をして、心底信頼しきった様子で自分の肩に体重を預けて寝息を立てるメルヴィアに視線を向けた。
その様子を見て、少しだけ罪悪感が涌く――口にしなくても、本音は想像がつく。本当は、ライは今となっては技術指導などしたくはないのだろう。
否、技術指導それ自体は別にかまわないのだろうが、アーランドだけならともかくエルディア側には過激派がいる――今のままでは、近いうちに本格的に過激派にもかかわる様になるだろう。
農地改良による食糧増産を失敗させるためには、その指導者である
このまま彼女の婚姻、そして二国の関係改善が進展すれば、ライは否応無しに過激派ともかかわることになる――そんな状況にまで事態が進めば、叛体制派の主張になど誰も見向きもしなくなるからだ。
彼らからしてみれば、そうなる前に阻止しなければならない――今の段階でもライは一度直接命を狙われ、叛体制派の非難声明の対象になる形で標的になっている。
かかわればかかわっただけ、余計な面倒が増える――指導を引き受けたころは自分ひとりだからよかったが、今は人生をともに過ごしている相手がいるのだ。
メルヴィアは腕の立つ剣士だし、ライにいたっては遠距離戦はもちろん白兵戦でも数人を瞬殺する腕前を持っている。
だが、誰かに命を狙われれば気の休まる暇は無くなる。まして、ライの言う通りに組織としてのまとまりを解散して個別に地下に潜伏してしまえば、動向の追跡は困難になる――そうなれば、彼らがいつライを暗殺しに来るかわからないのだ。
ライの居場所は調べればわかるし、自宅だって割れている。城でもなければ屋敷でもない家に住んでいる彼らふたりは、城住まいの王族よりもはるかに防衛が甘い――いつ襲撃を受けてもおかしくない。
無論、ライはろくに訓練も受けていない民衆の過激派など問題にもしないだろう。だが、四六時中警戒していなければならない生活というものは疲弊を招く――なにより、誰が好き好んで自分の伴侶を戦いの場になど立たせたいものか。たとえ彼らが束になってかかっても勝てないほどの力量を持っていることがわかっていたとしても、もしもはいつだって起こるのだ。
そんな状況で彼がアーランドやエルディアの農地改良にかかわり続ければ、いずれは――
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