第20話

 おまけにこの若者は年齢や地位ではなく技能や経験で敬意を表す相手を決めるので、現職の農務卿といっても結果を出せずに逆効果の命令を出してばかりのエグナムに対して一切配慮をしなかった――王国肝いりの国家事業であったためにすべて彼の頭越しに行い、彼の顔を立てたりはしなかった。

 その後ライは農地改革の事業で順調に業績を上げていったので、エグナムは立場を失うことになる。

 挙句の果てにエグナムは毒を塗った短剣ガーヴを手に襲いかかり、王城に招聘されたライに返り討ちにされてしまったのだ――公衆の面前で王家の賓客を襲撃したということで、デュメテア・イルトもエグナムに処罰をせざるを得なくなった。ライが特に刑罰を求めなかったために処刑されることは無かったが、千年以上にわたって続く封建貴族家の爵位剥奪とお家取り潰しの原因を作ったことで、ライも王国内に遺恨を遺してしまったといっていい。

 ライが農政大臣に就くのを渋っている理由はいくつかあるだろうが、そのうちのひとつがだ――エグナムを地位からう結果になってしまったことそのものは特に気にしていないだろうが、禍根を残した自覚はあるだろう。それに十六、七歳だった当時ほどではないにせよ、やはり年齢で侮られる部分はある。

「農政なあ――前にも言ったが、君らの言うこともわからなくはないんだ。でも、二十そこそこの若造がそんな地位についてあれやれこれやれと指示したところで、官僚や地方領主が素直に従ってくれるだろうか? それに報告だって、俺が状況を正確に把握出来る形で上がってくるとは限らない――否、これは馬鹿にしてるわけじゃない。言葉だけで状況を伝えようとするなら、ゆがみが生じるのは当たり前だからな」 たとえば稲が病気にかかって、病気の名前で報告されたらすぐにわかるけどさ――ライはそう言ってから、

「結局、自分の目で見ながらやるのが一番確実なんだよ――さいわいなことに今のところ見たことはないが、エルンにしかない農作物の病気もあるだろうしな」 彼はそう続けて、少し考え込んだ。

「逆にこっちの指示に従ってくれそうな人間を大臣に据えて、俺が指示を出して予算を取ってもらうとかほかの農地への指示を伝えてもらうとかならありかもな――否、結局揉めるか」

「それでしたら、指示をください」 リーシャ・エルフィの言葉に、ライがこちらに視線を向ける。

「ん?」

「わたくしにいくら予算が要るから、人手が要るからと指示をください。ほかの農地への指示などがあれば、わたくしがそれを伝達します。貴方は現地で現場指揮にあたってくだされば――もちろん、大臣としての身分や待遇は王室が保証しますから。それならどうですか?」

 ふむ、と声をあげてライが考え込む。

「たしかに今までとは少し提案の内容が違うな」

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