第12話

「妹ぎみがいらっしゃるのですか?」

ぎみねえ――なんか人に言われるとすごい違和感があるな」 うち庶民だし――ライはくすくす笑ってから、

「双子の妹――あ、って意味だけど」

「では、四人兄妹ですか」

「そうだ――俺と弟も双子だよ」

「あら」 では、兄も妹も双子なのか。

「にぎやかでよさそうですね」

「どうだろう。親父は一度の出費がきついってぼやいてた」 ライはくつくつと笑いながら、

「まあほっといたら兄妹で勝手に遊んでるから、育てるのは楽だったと思うけどな」

 そんなことを言ってくる。彼が遊び相手をしていたのなら、さぞ原っぱを走り回り山を駆けめぐる野生児生活を送っていたに違い無い。リーシャ・エルフィはその様子を想像してくすくすと笑いながら、

「優しいお兄様でした?」

「まあ、そうであろうとはしてたよ」 妹たちのことを思い出しているのか優しげに眼を細めながら、ライがそんな返事を返す。

「俺がこっちへ飛ばされた当時十歳だった――元気にしてればいいんだが」

「お名前は?」 少し問いが唐突だったからだろう、ライがこちらに視線を向ける。

「ん?」

「その、ご弟妹ていまいの。やはりこう、強そうだったり速そうだったりする勇ましいお名前なのですか?」

 勇者の弓シーヴァ・リューライの名前は、本来の名前の読みを変えたものだと聞いている――奇遇なことに、彼の名前の読み変えであるライという名はエルンの言語でも、彼の本来の名が意味するところと同じ意味を持っている。

 ライだ――ライという名は彼の本来の言語でもエルンの言語でも、同じく雷を意味するのだ。本来の名も教えてもらったことはある――どうもエルンの言語に馴れていると発音しづらい音の並びなのだが。こちらもライとは違う別世界からやってきたメルヴィアは特に問題無いらしく、普通に発音出来るらしい。

「ああ――俺の名前か? たしかに勇ましい字面かもしれないが、たぶん名付け親のうちの祖父さんはそんな意図はこれっぽっちも無かったんじゃないかな」

「さっきおっしゃっていた、こちらに飛ばされてくる直前に亡くなられたお祖父様のことですか?」

「そうだ――なにしろ農民だったから、豊作を祈るたぐいの名前だよ」

ライが?」 首をかしげるリーシャ・エルフィに、ライはちょっと真顔に戻って、

――なんて言葉はこっちには無いわな。雷が落ちるとその通り道の周囲の空気の成分が変質して、作物にとって滋養になる成分が出来るんだ。それが水に溶けて――そうだな、の野営地で俺とメルが硝石を溶いた水を畑に撒けば肥料になるって話をしてただろう? 雷が落ちると空気中に発生した成分が雨粒に溶けて、硝石の水溶液と同じ様な状態になるんだ。それが雨となって地上に降り注ぐ――だから雷雨が多い土地は豊作になる」

「なるほど」 リーシャ・エルフィはうなずいて、

「異界の知識で恵みを齎し、戦いの場ではライのごとくはやく強い――まさに貴方に相応しい名前ですね」

「やめてそういう言い方。恥ずかしいから」 ライは適当に視線をそらしてから、とりあえず一本仕上がったらしい縄をまとめ始めた。

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