第11話

勇者の弓シーヴァ・リューライも、その――職業軍人になるつもりだったのですか?」 話題を変えようとしてそう尋ねると、ライは否とかぶりを振って、

「昨日メルと似た様な話をしたな――国軍には弟が行くことに決めて、俺は実家の農家を継ぐことになってた。だから一緒に行動してなくて、そのおかげでこっちに飛ばされたのが俺ひとりで済んだのさ」

 ライはそう返事をして小脇の弓に視線を向け、

「向こうの世界だと弓はもう戦争では無用の長物で、俺の国だと狩猟に使うことも法律で禁止されてるから、弓の使い道は単なる技術を競う競技用でしかない――俺と弟は同じ、の大会に競技に出ててな。でも弟は日程の都合がつかなくて、そのときは俺しか参加してなかったんだ。大会中に祖父が死んだという連絡が来て、棄権して家に帰る途中にこっちに飛ばされた――予定が合わなくて出場してなかったから、弟はこっちに来なくて済んだ」

というのは? 騎士の槍試合の様なものですか?」 王国の騎士たち、貴族の子弟たちが腕を競う大会の様子を思い出しながらそう尋ねる――ライも何度か見たことがあったはずだ。

「ちょっと違うかな――いろんな形式があるんだが、その競技は山の中にいくつか射撃位置が設置されて、そこから的を狙うんだ。今いる射撃位置から次の射撃位置まで、山や平地を駆け回りながら移動して合計得点を競うのさ」

「それは面白そうですね。騎士の競技会を開いたら楽しそうです」

「で、みんな鎧を着たまま走り回って半死半生の有様でゼーゼー言いながら射撃して、全員そろって的をはずすわけだ」 ライは揚げ足を取ってから、

「ある意味面白そうだけど、見ごたえは無さそうだな――馬に乗ったままでなら、のほうが面白そうだけど」

? ああ、前に話してくださったあれですか」 ライの世界で行う宗教行事のひとつに、走る馬上から弓で的を割るという行事があると話してくれたことがある――ライは子供のころ弟とふたりでその射手に選ばれて、ふたりでその神事に参加したことがあるのだそうだ。

「宗教行事のほかに、腕前を競う競技としてのもあるけどな」 ライがそう返事をして、そっちは俺の地元に無かったからやったことが無いと先を続ける。

「……乗馬は出来ないとおっしゃってませんでした? 昨晩」

エルンこっち式のやつはな」 リーシャ・エルフィの指摘に、ライがしれっとそう返事をする。

「ま、それはともかくとして、予定が合わなくてよかったよ――ほかに妹はいるけど、もし日程の都合がついてふたりで一緒に大会に出てたら、危うく息子がふたり一度にいなくなるところだった」

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