第59話
§
頭上は巨木の枝葉で覆われているものの、視界に不自由するほどではない――すぐ近くを流れる川の水面には木々の枝葉の切れ目から太陽の光が燦々と降り注いでおり、時折波が光を反射してきらきらと輝いていた。
低体温症を起こしかけてガタガタ震えていた島田和義も、衣服こそ乾ききってはいないが熱源に当たっていくらか体温が回復したことでだいぶ精彩を取り戻している――視線をめぐらせると近隣の国の王女だというあの少女が兵士八人と、それにどういうわけだか日本刀を腰に佩いた褐色の肌の少女に囲まれて座っているのが視界に入ってきた。
ライの言葉によれば近隣の国の王族である娘は、今はライの野営地の収納として使われているらしい擱座した軍用車のそばでコールマンの折りたたみ式の椅子に腰を下ろしている。なんとも違和感のある光景ではあるが、今さら言っても仕方が無い――たぶんもうしばらくしたら、竹小屋の中にいる連中は彼女のために竹小屋を明け渡すことになるだろう。
「――ガラ、ケル」 そんなことを考えたとき、ライがあのガラと呼んだ熊の様な若い兵士を呼ばわる声が聞こえてきた――視線を向けると防柵の向こう側、聳え立つ巨木の陰から、アーチェリー用の弓を手にしたライが姿を現したところだった。
ほんの三十分前に出ていったばかりのライはすでに猟果を挙げたらしく、返り血によるものか右腕の肘から先と太腿に括りつけたナイロンの鞘に納められたナイフの柄巻きの紐が赤黒く染まっている――それを気にした様子も見せず、彼は熊の様な体格の兵士に手招きした。
「ケル、ジリ」
ガラと呼ばれた兵士がそれまで同僚とともにその周りを囲んでいた、彼らの主に視線を向ける。意見を求める様な視線から察するに、おそらくその言葉は日本語でいう『来い』に対応しているのだろう――あるいは二単語に分かれているので、ケルとジリのどちらかが『
今は華の無い平服に身を包んではいるもののその美貌にいささかの陰りも無い美しい娘は、配下の兵士の視線を受けて小さくうなずいた。
「ダー」
「ジ」 ガラがうなずいて、自分たちの主の周りに控える仲間たちの列から抜け出す。彼は――ライがやった様に防柵を飛び越えることはせずに――防柵の門を開けて外に出ると、内側に立てかけてあった長さ二・五メートルほどの玉切りされた竹を防柵の隙間から引っ張り出そうとしているライに合流した。彼が難儀している竹をあっさりと抜き取って釣り竿かなにかみたいにひょいと肩にかつぎ、ふたり連れだって歩き出す。
それを見送って足を踏み替え、康太郎はかたわらの篝籠に対する体の角度を変えた――まだ湿っている体の左側が熱を受ける様に体の向きを変えたとき、
「なあ」 向かい側で火に当たっていた
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