第12話

「装備は荷物に偽装して持ち歩くつもりだった様だ――最悪破棄することになったとして、アーランド国内で再度調達するのは難しいだろうからな」 アーランド国内では一般人の武装は単純所持を含め、厳しく制限されている――没収で済めばまだいいほうで、所持が発覚した時点で即座に逮捕・投獄されることもある。そのへんの事情はアーランドでもエルディアでも、あるいは周辺諸国でも似た様なものだ。

 密造品が無いわけではないが、民生用の日常鉄物を製作する鍛冶師が武器に手を出すと最悪処刑もありうる――特別な許可を受けて軍用刀剣等を製作する鉱都ハーシーンの鍛冶職人組合の構成員を除いて、民間人の鍛冶師による長剣などの戦闘に転用可能な大型の刃物の製作は製作者・依頼客ともに叛逆罪が適用されるからだ。林業向けの斧や鉞といった大型の刃物は、発注した林業業者と製作を請け負った鍛冶師双方からの届け出が必要になる。

 不慣れな品物で手間がかかるうえに露顕した場合の危険度が高く、その割に稼ぎにならないので、わざわざそんなものに手を出す鍛冶師はいないだろう。まして四十本越えともなれば、周囲に隠し通したまま仕上げることなど到底無理だ。そこらの村鍛冶に遺棄した剣の代替品を作らせようなどと考えたところで、通報されるのが関の山だろう。

「というわけで、連中としてはアーランド国内で遺棄した装備品の代替を調達するのは無理だと判断するだろう。だから、連中は荷物に偽装して武装を持ち歩く計画を立ててた――長距離巡察の衛兵に見咎められて荷物を調べられてもかまわない様に普通の商売人っぽい荷物も用意して、その奥に紛れ込ませる様にしてな。衛兵の職務質問で荷物を調べられても、積んである樽を荷車から全部おろして調べるわけじゃないからな」

 そこまで話したところでライは話をまとめるためかちょっと考えて、

「つまり連中としては、数日後を目途にしてネイルムーシュであとから入った仲間と合流し、身代金を持ってきた連中を撃滅して金を手に入れてからアーランドから脱出する――のが基本方針だったわけだ。で、いつまでたっても仲間が合流地点に現れなければ、様子を確かめに行こうとするだろう――実際に行くかどうかはまた別問題だがな」

 昨日とは少し話の内容が変わっているのに気づいて、その場にいる者たち全員の視線がライに集中する――ライはなにに逡巡しているのかしばらく黙っていたが、ややあって、

「連中がどうやってあの砦に迷わず到達出来たのか、それがわからん」 それはガラとしても、ずっと気になっていた点だった。

 ライの世界には、常に一定の方向を示し続ける道具がある――と呼ぶのだそうだが、エルンにはが無い。どうも鉄を引き寄せる性質を持つ特殊な鉄鉱物が必要らしいが、この大陸ではそれが発見されていないからだ――無論発見されていないことと存在しないことは同じ意味ではないが、現時点でという意味ではまったく変わらない。

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