第11話

 ずいぶんな扱いですね、と気を悪くした様子のリーシャ・エルフィに首をすくめ、ライが先を続ける。彼は雑嚢の中に手を突っ込んで巾着状の布の袋を取り出してみせ、軽く投げ上げては受け止めることを二度繰り返してからの台の上に置いてあった底の浅い金属製の箱の中に袋の中身をぶちまけた――アーランドの金属加工技術では到底不可能なほどに薄く平滑な金属板を加工して作られた箱の中に落下した硬貨が、ヂャリンヂャリンというやかましい音を立てる。

「ガラたちふたりがモヤシ男ケニーリッヒを拘束したときに、身体検査をして没収したものだ――暗器のたぐいは持ってなかったが、代わりにアーランド王政府発行の硬貨が金貨五枚に銀貨や銅貨が十数枚。近隣の町や村で空の樽や商品に偽装するための荷物、食糧や荷車その他を調達するのに十分な金額だ」 ライがそう続けてくる。軍用に限って言えばこの世界でも馬車は使われているが、乗用や荷役用に調教された馬というのは極めて高価だ――そのため庶民層では荷物の運搬は人間が背負子などで運ぶか、もしくは荷車を牽くのが一般的だ。大量の荷物を運ぶのに牛車ぎっしゃが使われることもあるが、とにかく時間がかかるのであまり一般的とは言えない――ただし日持ちのする食品や重量物、大量の荷物を運んだりする際には、護衛としての雇兵カースルと組み合わせて使われることがある。

 ただ十分な資金力のある大店おおだなであればシャラを調達して運用することも出来るので、牛車を荷物の運搬に使っている例というのはさほど多くない――馬は買えないが背負子など使わなくてもいい程度には余裕のある商会が調達するのだろう。

「反体制派なんて庶民が大半だろうに、よくそんな金額を調達出来たもんだ」 ガズマがやや不謹慎ながら感心した様な口調でそう感想を述べると、ライは適当に首をすくめ、

「どこかで強盗まがいの真似でもしたんだろうさ――でなければ支持者が破産するほど財産を巻き上げたのかのどっちかだろう。俺の故国の共産主義者どもは、支持者にくだらん寝言書き連ねた新聞を売りつけて金を稼いでる――ついでに役所の下っ端にも押し売りして問題になってたな。どこの世界でも、共産主義者なんてのは犯罪者と背中合わせだ」

「あんたの世界でもそうなのか?」

「俺の祖国はまだましなほうだがな――外国だと何百人も巻き込む大事件を起こしたりしてる」

「あんたの国は?」

「一昔前にはそこそこ派手にやってたがな。今は政治団体になって議会に参加したり、ろくでもない不良外人どもとつるんで乱痴気騒ぎしたり、犯罪組織や外国人と手を組んでくだらんことをよくやってる――認めたくはないが、俺の祖国は外国の工作員や犯罪者が堂々と看板を出してる不思議な国だよ。俺がもしあの国の首相になったら、とりあえずそいつらを問答無用で全員処刑する法案を通すがな」 も庶民から工具を取り上げて遊んでる暇があったら、にカチこんででも皆殺しにしてくればいいんだ――ライはそう毒づいてから、軽くかぶりを振って話をもとに戻した。

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