第13話

 以前述べたとおり、この大陸には樹海に不用意に足を踏み入れる者はいない――ライの持つの様に簡便に方位を知ることの出来る道具の無いこの大陸では、森に深入りすると戻れなくなることがあるからだ。

 民間人による狩猟が一般的に行われていないのもそれが理由で、言いつけを破った子供が森に足を踏み入れて帰らなくなると、捜索隊を出さずにそのまま放置してしまうことさえある――薄情と言ってしまえばそれまでだが、以前大人数人が捜索に出てひとりも帰らなかったことがあるらしいのでその判断を責めることも出来まい。

 ライが疑問視しているのはつまり、そんな森の中に踏み込んだ彼らが迷子になる事無く高台に到達出来たことだろう――天文航法あすとろなびげーしょんの技術も持たないために迂闊に樹海に踏み込めないという事情は、アーランドでもエルディアでもさして変わり無い。だというのに、彼らはどうやって樹海を踏破して高台に到達し、さらにそこから街道にいたって計画を実行することが出来たのか?

「ケニーリッヒを殺す前に尋問したんだが、反体制派の首領からあの場所にいた連中の指揮官がなにか受け取ったらしい――なにかまでは知らん様だが」

「つまり?」 話についていけなかったガラが口をはさむと、ライはこちらにちらりと視線を投げてから、

「なにを受け取ったのかはわからん――ただそれがの様に方位のわかる道具だったら、同じものを合流予定の連中が受け取ってないとも限らん。同じものを持ってれば、あの砦に到達するのはさほど難しくないだろう――受け取ってなければ、合流することそのものを断念するだろうな」

「襲撃現場から途中までは、わたくしの乗っていた装甲馬車で移動しましたけれど」 リーシャ・エルフィが意見を述べ、ライはその言葉に小さくうなずいた。

「その轍をたどっていけば――か? たしかに、轍をたどれば容易に高台までたどり着けるだろう――ただし連中が仲間が来ないからって高台に様子を見に行こうと考えるころには、レンスタグラ砦に駐屯する国軍を指揮するスタッフォード卿が差し向けた追討部隊が現場に到着して捜索を始めてるはずだ。現場から伸びる装甲馬車の轍の跡をたどってな――轍をたどろうとすれば彼らとかち合うことになるから、それはしないだろうな」

 ライはそんなことを言いながら、同僚兵士から受け取った食器の内側を拭き取った。玉杓子に手を伸ばしつつ、

「まあ、の代替になるものを連中が持ってるという前提で考えようか――連中の仲間が砦を訪れるのか、ケニーリッヒの手帳の通りに移動してネイルムーシュもしくはどこか別の場所で合流する予定だったのか、正確なところはわからない。だが彼らの選択肢はふたつある。ひとつは仲間が砦を訪れてそこで元からいた連中と合流し、物資の補給と合わせて人員を増強し計画を続行する――もうひとつは手帳の内容通りに砦にいた連中がネイルムーシュ近隣に移動し、そこで補給物資その他を持った仲間と合流して以下同文」

 兵士たちがおのおのうなずくのを確認して、ライは中身をよそった食器を別な兵士に差し出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る