第15話

 ユーコン・ストーヴの煙突をふさぐ蓋を取り除いて内部に動物や余計な異物が入っていないことを確認すると、ライはユーコン・ストーヴの脇に組んだ竹のフレームに視線を向けた。

 盛り土の地面に突き刺した二本の縦木に横木として組み合わせた竹の稈に、松明の軸を差し入れる――本来は角燈ランタンや提灯の様な照明器具を吊るしておくためのものだが、中空なのでこういう使い方も出来る。

 少し離れた場所に薪を積み上げておくための竹のフレームがあるのだが、こちらはすでに空になっている。前回この野営地に来たときに使い切り、そのまま帰ったからだ――わざわざ出しっぱなしにして帰ることに意味は無い。

 松明をとりあえずそのままにしておいて、ライはふたたび機体の外に出た。

 先ほどは機体後部側から扉に近づいたが、今度はそうせずに機体前部側へと歩いてゆく――機体の鼻先の前には竹を組み合わせてこしらえた小屋が二軒建ててあり、同じく竹でこしらえた衝立で開口部をふさいでいる。

 開口部をふさぐ衝立は縦長の『井』型のフレームに横木と同じ長さの竹を平行に並べたもので、鉄釘かなくぎを打ちつけて固定してある――二軒の小屋のうち一軒は当初ここを長期拠点にするつもりでいたときにこしらえた鍛冶小屋で、鉄釘はそこで作ったものだ。

 用があるのはもう一軒――外側はそうでもないが、衝立の向こう側の入口をふさぐ様に内側に垂らした人工素材シンセティック・マテリアルのオレンジ色のカーテンをよけるとあらわになる小屋の内側は一面色むらのある飴色に変色している。

 小屋の内部には十数本の丸太が楔や板で隙間を開けて積み上げてあり、いずれも断面が変色している――煙の臭いはすでに薄れて無くなっており、壁際に汲んだ棚にすでに割ったあとの薪が大量に積み上げてある。

 中央に掘った竈の焚火跡は、高台の上の疎林から切り出してきた丸太を乾燥させるために焚いた焚火の跡だ――焚火の熱ではなく燻煙を利用して乾燥させるためのもので、大量の生木の枝葉がいくらか燃え残っている。

 とりあえず当面を凌ぐぶんの燃料は棚に残っている――丸太のチェックは後回しにすることにして、ライは広葉樹の薪をいくらか小脇にかかえて小屋を出た。あとでまた誰かが来ることになるので、とりあえず小屋の衝立はそのままだ。

 ふたたび機体の客室内に足を踏み入れると、松明のおかげで先ほどよりも内部の様子をよく見て取ることが出来る。

 水平主翼の少し前のあたりからちぎれた機体前部は座席の取りつけ基部をすべて撤去しているために、それなりの広さがある――無論四十人を超える数を収容出来るわけではないが。

 一年中無くなることの無い湿気に曝されて黴が生えたのでカーペットは引き剥がしてあり、今はところどころ腐蝕した金属板のフロアが剥き出しになっている――ライは客室を突っ切ってユーコン・ストーヴのところまで戻ると、竹のフレームの上に薪を積み上げた。

 ひとかかえの薪では、数量的に足りない――もう少し追加で持ってこようと扉の前に戻ったところで、

勇者の弓シーヴァ・リューライ、これはなんですか?」 開け放したままにしてあった側面の扉の外から機内を興味深げに覗き込みながら、リーシャ・エルフィがそんな質問を口にする。

「ん?」

「この変わった形の鉄の小屋です」

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