第14話

 シェルターとしては、まるで機体の開口部前に軒先を追加する様な構造は特に意味のあるものではない――シェルターとしてなら、風向きにもよるが機体そのものを利用するほうがよほど強固だ。そもそも床の無い竹のシェルターは人間が過ごすためではなく、熱源を保護するためのものだ。

 竹のフレームを軽く揺すって状態に満足すると、ライは機体側面のへと廻り込んだ。

 エンブラエルE型は操縦席のすぐ後ろの部分に出入りするための扉があり、ロックはすでに機能していない――手前に竹材を使ってこしらえた階段を登って扉を開け、ライは機内へと足を踏み入れた。

 機内は暗い――周囲の巨木が機体の墜落の際に薙ぎ倒されたために頭上は開けているものの、月が中天に近い高度に達しないと月明かりが開豁地に届かず、また真上から注ぐ月明かりはまったく窓から入らないからだ。

 だが――胸中でつぶやいて、ライは短い通路を右に曲がって客室に足を向けた。

 特に内部に獣が棲みついた痕跡が無いことだけを確認して、開口部のほうへと歩み寄る。

 風通しを良くするための隙間だらけの布の壁の向こうから、まるで火の粉の様に松明の光が見えている――ほとんど光源が無い中でもさして気にせずに、ライは絨毯が引き剥がされて金属板が剥き出しになった床に膝を突いた。

 まるで花壇の様な構造の盛り土の上、地面から煙突の様に伸びた筒状の構造物の状態こそが重要だ――竹のシェルターは人間ではなく、を風雨から守るためにあるのだ。

 はユーコン・ストーヴと呼ばれるもので、直径三十センチほどの竪穴を掘り、その縁に緩やかな先細りの煙突状に石を組み上げて粘土で固めたストーヴの一種だ。

 全体的なシルエットは鍛冶で使う火床ほどに近く、実のところライも半分くらいはそのつもりで作っている――竪穴に対して横からアクセスするためのトンネル状の穴を掘り、そこから口火や火を燃え移らせた薪などを押し込む。十分に火勢を得るとストーヴ全体が加熱されて周囲に遠赤外線を放つのが特徴で、暖を取るのと同時に上部の穴を利用して調理も行える。

 あえて小屋の役目を果たす機体の外に作ってあるのは、中で火を焚くのが危険だからという理由だ――火の粉が舞って内装材に火がついたら目も当てられない。それに言うまでもなく、地面を掘り下げる必要のあるユーコン・ストーヴは飛行機のフロアでは使えない。

 だが煙突部分を保護していれば風に強いユーコン・ストーヴは、長期間そこにとどまるのであれば手間をかけて作る価値は十分にある。

 竹のシェルターは雨が降っているときに、煙突上部に雨水が入るのを防ぐためのものだ――盛り土は機体のフロアとの高低差がありすぎて暖をとれない問題を解消するためのもので、これによってフロアと同じ高さで暖をとり、作業を行うことが出来る。いずれも場合によっては年単位になることが見込まれる長期間の野営ビバークを前提に、手間暇かけてこしらえたものだ。

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