第13話

 門は蝶番と反対側に両端を環状アイにした縄を二、三周巻きつけて両端のアイを釘に引っかける様にして留めている――この森に棲息する獣にそれをはずす知能があるとは思えないので、別に複雑に結わえつけたり錠前などを用いて留めているわけでもない。ほどいた縄を釘に引っかけ、ライは門を開いて防柵の内側へと足を踏み入れた。

 そのまま擱座した機体のそばに歩いていき、柔らかい地面に深々と打ち込んだ丸太の杭の前で足を止める。

 杭には道案内の看板の様に半分に割った丸太が縛りつけられ、そこに十数の鎹が打ち込んである。内側に隙間が出来る様に浅く打ち込んだ鎹の内側を通って、その数と同じだけの錘がぶら下がっている――釣り用の小さな錘は鎹のすぐ下にぴったりとくっついているものと、鎹の下十数センチのところまで垂れ下がっているものがあった。錘は細い釣り糸テグスを使って吊り下げられており、そのナイロンの釣り糸はそれぞれどこへともなく伸びている。

「三番、四番、七番、十番、十一番、十五番――」 それだけ読み上げてから、ライは後方に残してきた者たちに向かってこっちへ来いというふうに片手を振った。

 全員が防柵の内側に入ったところで、ギジンが防柵の門を閉める。自分がそうしていた様に門を縄で固定しているのを横目に見ながら、ライは周囲を見回した。

 メルヴィアがリーシャ・エルフィが馬から降りるのを手伝いながら、こちらに視線を向けている――もっとも何度かここに訪れたことのある彼女はこれがどういうものかを知っているので、特になにも言わなかったが。

 ライは横倒しになった機体の後ろ半分を指差して、

「そっちには近づくな――今は横倒しになってるが、なにかの拍子に水平に戻ったときに潰される可能性があるからな」

「横倒し? これが横倒しなのか」 日本語とエルンの言語、両方で発した警告に、最古参のひとりらしい年嵩の兵士が不思議そうに屹立する主翼を見上げる。

「その鉄の翼がな、本来は水平になってるんだよ」 そう返事をして、ライは地面の上に擱座した機体の前半分のほうへと歩いていった。

 以前は機体の折れた部分がそのまま開口部になっていたが、今は竹材を組んでこしらえた小屋によってほぼふさがっている――幅は機体の幅、高さは機体頂部までとほぼ同じ。ただし地面からではなく、擱座した機体の前半分のフロアと同じ高さになるまで盛られた盛り土の上に造ってある。

 竹を組み合わせた複雑な構造のフレームに草の繊維を編んでこしらえた布製の壁と竹材の屋根を取りつけた、素材だけなら珍しくもないシェルターの一種だ。

 竹の小屋の屋根はV字をひっくり返した様ないわゆる切妻型ではあるが、機体後方に向かって傾斜する造りになっており、また二重構造になっている――本を開いたまま臥せた様な形の切妻造の屋根の頂部、本の綴じ目の部分をむねというが、この小屋は棟を二本備えており、上段の棟にいた屋根は機体の上に覆いかぶさる様にして、下段の棟に葺いた屋根は機体の内側、天井附近に入り込んでいる。

 開口部上部からしたたり落ちてきた水滴が下側の屋根に受け止められて、そのまま排出される様になっているのだ――屋根は上下とも竹のかんの節を抜いて半分に割ったものを半分ずつずらして互い違いに重ねたもので、屋根自体が雨樋を兼ねている。

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