第65話

「なんだと?」

「だってそうだろ――おまえが本当に有能なら、黴臭い暗い部屋で似た様な馬鹿と間抜け面を突き合わせてねちねちと陰湿な雑言で国王を非難するビラの内容を考える必要なんぞえだろうが。おまえが真に賢くてその知識は広くまた微に入り細を穿つだっていうんなら、そんな陰険なやり方をする必要は無い――国王なり土地の領主なりに対応策を進言して、旱魃が尾を引いて今でも続いてる慢性的な食糧不足を改善することが出来るはずだ。俺は別に自分から進言したわけじゃないが、俺がそうしたのと同じ様にな――違うか?」

 天才ジーニアスなんて言っても、こいつには英語はわからないかな――そんなことを考えながら、ライは口元に嘲笑を浮かべて先を続けた。

「状況を改善するだけの能力も知識も無いから、国王や領地の貴族に適切な対応策を進言出来ないんだろうが。おまえが本当に民衆を無学だの愚かだの言えるほど賢いんなら、今頃陰険で根暗な嫌がらせしか芸の無い共産主義勢力アカどもなんぞの中でくすぶってないで、国王なり領主なりに解決策を訴えて民衆の口に十分な飯が入る様に事態を改善してるだろうよ――それこそ異世界人の俺なんざ、出る幕が無いくらいにな」

 どう答えるべきか決めかねているのだろう、ケニーリッヒは返事をしない――どうでもよかったので、ライは先を続けた。

「――そして国民からは神のごとく崇められ国王からは深刻な事態を解決した使える男として取り立てられ頼りにされて、地位も領地ももらえて左団扇で暮らせるわけだ。それをしないってことは、そんな能力無いんだろうが――俺からすればおまえなんぞ、学はともかく自分はなにも事態の解決の役に立てないのに政権を批判するしか芸の無い、口だけパフォーマーにしか見えねえよ。あ、言葉の意味がわからないかな? こう『ジーク政治を許さない』とか『ディヴァイン王朝感じ悪いよね』とか『I am not ジーク』とか、そういう阿呆丸出しの文章を紙に書いたものを他人に見せびらかして喜んでる脳腐りのことなんだけど」

 I am not アベとかいうが、そりゃI am not アベって言ってる奴らはアベじゃないんだからそりゃ『アベじゃないI am not アベ』わな――胸中でつぶやいて、ライはやれやれとかぶりを振った。

 アベじゃない奴らが『私はアベじゃありません』と主張するのには、いったいどんな意味があるのだろう――まあ、共産主義だの社会主義だのの全体主義思想に疑問をいだく程度の知能も無い連中がそこまで考えているとも思えないが。明らかに文章としておかしい適当な英文をこしらえただけで、天にも昇る気持ちだったに違い無い――そもそも彼を称してナチスだのファシストだの言っている馬鹿は多いが、本当に彼がファシストだったら彼をそう呼んでいる連中はとうの昔に皇居のお堀に浮いているはずだが、どうしてそこまで考えが回らないのだろう。

 だいたい連中の理想社会は言論弾圧待ったなしの独裁政治なのだから、彼がファシストだったらむしろもうすでに理想社会が実現していると喜んでもよさそうなものだ――問題点は自分たちが弾圧する側でないことだけだろう。

 でもアレを考えた連中、まともに勉強してたとは思えないけど一応大卒なんだよなあ――まあ大声でわめいて道理のほうを引っ込めさせるのが芸の人権派弁護士だから、学歴なんて悪い意味で飾りの様なものか。

 あとはまったくふうになってないくそ寒い諷刺画を描いてる相撲評論家気取りの漫画家が巷でまったく流行してないについて『ニュースくらい見ろと言いたいですよ』とか言って、みずから暴露しちゃうわけだ――そう続けてから、ライは足元のケニーリッヒを見下ろした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る