第64話
「強姦された王女がエルディア領内で身柄を確保された以上、その犯人はエルディア領内にいる可能性が高い。彼女を拉致暴行した連中を追うために、アーランドはエルディア領内に軍を送り込む必要があるが――まあ当然、そんな事件のあとだ。強姦された王女との婚約を破棄したことで関係が悪化してる時期に、その相手国に軍など送り込めるはずもない。エルディア側に追討を依頼するのも論外だ。外聞上リーシャ・エルフィが拉致されて強姦されたなどと公表出来るわけもないし、それを公表してない状態で婚約解消したばかりの相手国への軍隊の派遣なんて
自分でもねちっこい口調だという自覚のあるそんな言葉とともに――
今度は左足首を内側に二百七十度回転させられ、ケニーリッヒが悲鳴をあげる――それで逃げられる恐れが無くなったので、ライはその場で立ち上がり足元でじたばたと暴れるケニーリッヒの背中に踵を落とした。ひぅと喘ぎ声をあげるケニーリッヒの目の前に脚絆のポケットから取り出した小さな手帳を落として、
「さっき俺の女が、斜面に落ちてるのを見つけたんだがな――いくら個人的な手帳とはいえ、証拠になる様な記述はしないことを勧めるぞ。どこで誰が拾うかわからないからな」
メルヴィアが拾って寄越した黒い装丁の手帳は、ケニーリッヒが思いついた計画を書き留めておくためのメモ帳だった。たぶんケニーリッヒを転倒させたときに落としたのだろう。
簡単に斜め読みしただけだが、『無慈悲な一撃』だの『非情な攻撃』だのというどこぞのチャーハン屋に例えられて虚仮にされている全体主義国家の広報がよく使う(戦争を)やるやる詐欺みたいな文言がそこかしこに散りばめられた計画の概要という名の皮算用が、これまた『愚かな民衆』だの『学の無い愚か者』だのというとうてい人のことを言えない様なキーワードを交えて書き込まれている。
あとそういう余分な修飾語は演説とかならともかく、計画書のたぐいに書き込むと無意味に冗長になりがちなのだが。
「おまえこれケンちゃんよ、ちょっと読み書きの出来る奴に拾われて内容が
「あと自分の浅学無才を屋根より高い棚に上げて、他人を学が無いだの愚かだのまともな教育も受けてない身分の低い愚民だのとこき下ろすのもどうかと思うがね。ん? ヴァイルムースとかいう聞いたことも無い家名のケンちゃんよ」
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